18



「…………」
「…………」
「……何?」
「テキジョウシサツです!」 

追加テストの課題を言い渡されてから数日。
ユニット曲の作曲に加え、エロティックというテーマを入れ込むという無理難題を押し付けられた俺は、一人パソコンに向かっていた。


とりあえず参考になりそうな曲をいくつか調べて聴いていたところで、後ろから感じていた視線。小さく溜息を吐きながらイヤホンを外す。

セシルとの同部屋生活もようやく慣れてきた。幸い、あれ以来(何の事は聞かないで欲しい)特に被害は無いから安心した、心から。



「今回は直希にだって負けません!ワタシ達のグループは自信があります!」
「え、お前らもう曲出来たの?」
「ハイ!ハルカの作る曲は素晴らしい!」

ハルカ…あぁ、七海の事か。
じゃあセシル達の所は結構進んでるってことか、早いな……。


追加テストまで時間はまだある。けど練習する時間を考えたらなるべく早く曲だけでも完成させないと…その焦りもあってか、中々思うように進まないのが現実だった。

普通の作曲ならすぐに進むんだけどな…あーどうしようか……そう頭を抱えている所で、ドアをノックする音が聞こえた。


「はい」
返事をしながら開けてみると、



「やぁ」
「あ!なおくん」

そこに居たのは小さく片手を挙げたレンと、ひょっこり顔を覗かせた香織、そして七海の姿があった。



「へぇ…なおくんの部屋、こんな感じなんだね」
「あんまり見るなよな…ていうかお前ら、ここ男子寮だぞ」
「行き来自由だから大丈夫だもーん」


物珍しそうに部屋の中を物色しながら、堂々と部屋に入ってくる香織。後ろに続いて七海がぺこりと俺に頭を下げたから、軽く挨拶を返した。



「まぁ別に良いけどさ…お前ら何しに来たの?」
「今から皆で作詞の打ち合わせだよ!ハルちゃんがもう曲を作ってくれたから、あとは私達の番!」


ハルちゃんの曲、すっごく素敵なんだー、なんて話す香織は本当に嬉しそうだ。まぁ、楽しいなら何より。だけど自分の作る以外の曲を歌う香織が、こんなに楽しそうにするのは、それはそれで複雑な心境になった。


「(なんて、言ってても仕方ないけど)」
「なので直希は邪魔なのです!出て行ってください」
「は!?ちょ、ここ俺の部屋だっつーの!」
「ワタシの部屋でもあります!」
「ていうか作詞なら別にココじゃなくても出来るだろ!」
「悪いね、どこもスペースが空いてなかったんだ」
「そうは言っても……香織!」


全く話を聞かないセシルとレンに苛立ち、俺は香織に助けを求めた。うーん、と少し考えた素振りを見せた香織だったけど…



「なおくん、本当にごめんね?」
「…………」
「出て行って、もらってもいい…?」
「薄情だな、お前も」








────

「あっはっはっ!それで追い出されちゃったんだ!」
「良い気味だぜ!」
「黙れ」


それで、結局曲の打ち合わせという理由をつけて、今は聖川とレンの部屋にお邪魔させてもらっている。
ニヤニヤと楽しそうにからかう二人に反して、聖川が丁寧にお茶を置いてくれたから、ありがとうと返事をして口に含んだ。



「それで直希!曲は出来そう?」
「ごめん、もう少しだけ時間欲しい」
「でも、よりによってテーマがエロティックだもんな…どうすりゃいいんだよ」

頭の後ろに手を組んで仰け反った翔と同じように、俺も天を仰いだ。なかなか考えても思い付かない、まさかこんなにテーマに縛られるとは思わなかった。



「そういうテーマだと…ジャズとかラテンの方面だろうか」
「あー……俺も最初それで考えたんだけどさ、何ていうか……」
「何ていうか?」
「それじゃ普通なんだよな…出来ればもう少し捻りたい」
「けど思いつかないならしょうがねぇじゃん?お前ならどのジャンルでも良い曲作れるだろ」


何とかして先生達を驚かせるような、意外性のある曲を聴かせたい。期待されている事が分かるから、そこは本当は拘りたいと思っていた。
けど翔の言う通り、それで何も思いつかなかったら本末転倒だ。




「分かった、じゃあその方向で──」


そう言葉を発したところで、同時に耳に流れてきた音楽。それはどちらかと言うと聞き慣れていないジャンルのもの。


点いていたテレビから流れるその音楽が気になり、画面へと視線を向けた。



「すまない、消そうか」
「いや、大丈夫……」
「こういう昔ながらの曲ってさ、聞くと良いもんだよね」
「アイドルとは対局だからな、この人達。俺達あんまり歌う機会ないだろ」
「そうか?俺は好きだぞ」
「歌詞とかも割と激しいやつ多いよね。殺していいですか?とかさ」
「そ、そうなのか?」
「来栖は全然聴かないのか?」


そんな会話がテーブルの周りで繰り広げられている。だけど、そこに反応する余裕はなかった。

ゆっくりと立ち上がってテレビまで近づき、画面をまた凝視する。翔が俺の名前を呼ぶ声が、何となく聞こえた。そんな声も遠くに聞こえるくらい、目の前のその音楽に聴き入っていた。



「……これだ、これで行こう」
「直希?どうした?」
「ごめん!ちょっと出てくる!」
「お、おい!直希!」
「歌詞!適当に考えといて!こんな感じで!」


テレビを指差してそう言葉だけ残した俺は、ぽかんと口を開ける三人を置いて練習室へ向かった。



「行っちゃったね……」
「あぁ…こんな感じとは、」
「こんな感じって、」

「「「どんな感じ?」」」


突然得たヒントのおかげで、メロディーが頭にいくつも浮かんでくる。チャレンジした事は無いジャンル、だけど今なら行ける気がする。


自分でも驚くくらいのやる気だ、らしくもない。だけどそんな自分も何だかんだ嫌いじゃないし、こんな毎日も悪くないと思った。





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