あなたは全部お見通し。
お洒落もメイクも大好き。髪も茶色に染めているし、見た目が地味だとは言えない方だと思う。昔からそれなりにモテたりもしてきた。
だから勝手に周りからは、「今まで何人彼氏いたの?」なんて聞かれる。人は見た目にはよらない、というのはまさに私のことで。
見た目に反して積極的じゃない性格のせいで、ずっと彼氏なんかいなかった。今付き合っている彼氏が初カレというのは、今目の前に座る親友しか知らない話だ。
「へぇ、じゃあレン君には初カレだって言ってないんだ」
「うん、……なんか、言い出せなくて」
「でもどうするの?いつかバレるでしょ、エッチの時とかさ」
「うぇぇ!それ言わないでよ!」
今、それを一番懸念してるのは私自身だ。付き合って数ヶ月経てば、いつ〈そういう雰囲気〉になってもおかしくないはず。
……実は私が処女だと知ったら、レンは引いてしまうだろうか。優しい彼に限ってそんな事はないかもしれないけれど、どうしても不安は拭えなかった。
「まぁレン君が童貞なんて事は100%ないだろうけど」
「マジLOVE1000%ないね」
「何じゃそりゃ」
そう、レンに限ってそんな事は無いはず。いや、ない。デートの時はいつもリードしてくれるし、キスだって上手にしてくれる。さり気ない気遣いも出来て、エスコートも自然。まさに完璧で、確実に女の子慣れはしていると思う、ちょっぴり切ないけれど。
よくよく考えれば私なんかに、こんなに素敵な彼氏が出来たことが不思議だ。
「あ、ごめん…レンからLINEだ」
テーブルに置いていたスマホが、通知音を鳴らす。画面を開いて中のメッセージを確認してみた私は、スマホを持ったまま固まってしまった。
「…………」
「どうしたの?」
「レンが今日、うちに泊まりに来ないかって…」
試練はいつも、突然に現れるのは何故だろう。
「シャワー浴びてきて良いよ、俺はもう済ませてるから」
「う、うん……!そ、そうね!じゃあ入らせてもらうね」
そんな会話をしたのは数十分前のこと。内心ドキドキして焦りまくりだった私だけど、また強がってしまった。余裕がありそうなフリなんかしちゃってさ……つくづく馬鹿だな、と自分で思う。小さく溜息を吐いて、シャワーの蛇口を閉めた。
シャワー室を出るとバスローブが用意されていて、素肌の上からそれを羽織らせてもらう。
念入りに身体を洗い過ぎていたせいか、やたら長風呂になってしまった。変に、思われたかもしれない、どうしよう。
「レン……?」
浴室を出て、恐る恐る彼が座るベッドに近づく。私に気付いたレンは優しく微笑んで、読んでいた台本をパタリと閉じた。
「部屋に泊まりに来るって事は、」
「……っ」
「そういうつもり、と捉えて良いのかな」
うっ……!き、きた……!
どうしよう、ドキドキして心臓が爆発しそう。だけどあまりに緊張していると、私が不慣れだとバレてしまう。このタイミングで、初めてだと言えれば良かったのに、変なプライドが邪魔をして、本音を伝えることが出来ない。
本当は、怖いのに。
「もちろんだよ」
だから私は強がって、余裕ぶって…
彼の首に腕を回すのだ。
「んっ、ふ……」
それを皮切りに、レンが私に優しく唇を重ねた。柔らかさを味わうように下唇を挟まれて、ゆっくりと離れる。次はぺろりと唇の間を舐められて。
そんなキスを繰り返す内に、ゆっくりと入り込んでくる舌の感触に、無意識に力が入る。キスをしながらも、手探りで脱がされるバスローブ。肩からはらりとそれが落ちると同時に、素肌が晒されているのが分かって、また心臓の音が速くなる。
「んっ…はぁ、」
首筋を舐められながら胸を揉まれるのは、擽ったいようなゾクゾクするような、不思議な感覚だった。これが、一般的に言われる「気持ち良い」という事なのだろうか。
「可愛いよ、なまえ…」
「んっ!ぁ…」
いつの間にか自然に押し倒されていた私の身体……至る所にレンの唇が落ちる。胸の突起にキスをされる頃には、緊張も相まってか上手く呼吸が出来なくなっていた。
「ぁ…だめ………」
自分でもちゃんと触れたことの無い下半身の部分に、レンの指がそっと触れた。濡れてるね、と丁寧に教えてくれるけど正直どうなっているのかよく分からない、自分の身体のはずなのに。
「やぁ、レン、ちょ……待っ…」
優しくも容赦なくソコに入り込んでくる指に、思わず制止しようとした所で、
「大丈夫……俺に任せて
初めてはちゃんと慣らさないと」
レンの言葉に、思考が一瞬止まった。
「え……」
ドクンドクンと胸の音が鳴る。
やだ……こんなに慣れたフリをしてたのに、レンには全部バレてたってこと?
何それ…恥ずかしすぎる……!
顔がかぁっと熱くなる。唇を震えさせて何も反応出来ないでいると、私の態度を不思議に思ったのか、レンが身体を起こして私の顔を覗き込んできた。
「……なまえ」
「あ…」
「どうして、泣いてるの……?」
自分でも気付かない内に、流れていた涙。
それを必死に隠そうと、顔の前で拳を握って顔を隠した。
……情けなかった。
見た目ばかり着飾ってこういう事に不慣れな自分が。そのくせ、素直に初めてって言えない可愛くない自分も。
「引いたでしょっ……こんな見た目して、実は、処女だった、なんて…」
こんな惨めな思いするくらいなら、ちゃんと初めからそう伝えればよかった。
「なまえ」
「ひっく…それを、レンに知られたくなくてっ…わたし、」
「なまえ、俺の話を聞いて」
「バカだって、思ってるんでしょっ……!ふぇ、」
本音をこぼしたら、涙が止まらなくなった。こんな見栄っ張りで惨めな私を、きっとレンは心底呆れただろう。そのはずなのに、
「ほんと…何も分かってないね」
レンはぎゅっと裸の私を抱きしめてくれた。
「そういう所が、いじらしくて可愛くて仕方ないんだよ」
「……っ」
「処女だったから面倒とか引いたとか、そんな事ありえない」
「ぁ……」
ぎゅって抱きしめられて、不安が溶けていく。大好きだって気持ちが、もっともっと大きくなる。
下にレンの熱いモノがあてがわれたのが分かった。肩に力が入ったのがまたバレてしまったけど、レンは大丈夫、とあやすように優しく髪を撫でてくれた。
「俺はなまえの初めての男になれて、こんなに嬉しいっていうのに」
「んっ、あぁっ……!」
「力抜いて、そう……良い子だね」
生まれて初めて体験する圧迫感と裂けるような痛み。それに必死に耐えながら、私はただレンにしがみつくしかなかった。
その後のことは、あまりよく覚えていない。
痛みが続いた後、何とも言えない身体が浮くような感覚になって、あっという間に気が遠くなってしまった。
ただレンが、ずっとずっと優しく私を抱きしめてくれて、耳元で大丈夫…大丈夫だよって、言ってくれていた事ははっきりと覚えている。
「レン」
「ん?」
「その…ごめんなさい、初めてだって隠してて」
「もう謝らないって約束だよ?」
「うん……そうだね、ありがとう」
互いに裸でいることが慣れた頃には、もうすでに事が終わっていたけれど、初めての相手がレンで本当に幸せだなぁって改めて思ったんだ。
「おやすみ、my sweet honey」
頬にちゅっとキスをされて、それが恥ずかしくてでも幸せで、私もお返しと言わんばかりにレンの頬にキスをした。
レンがこんなに優しいってことはずっと前から分かっていたから、最初から素直でいれば良かったなぁ、なんて。そんな反省をしながら私はそっと目を閉じて、眠りに落ちていった。
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