Be stronger than you

「何をしてるんですか。馬鹿なんですかあなたは」
「ごめんごめん!そんなに怒らないでよ一ノ瀬くん」
「怒りますよ!何故このような無茶をしたんです」
「えへへ…だから大丈夫だってば」


真っ白な壁に、ベッドがひとつ置かれている小さな部屋……ここはテレビ局の医務室だ。ベッドに腰かけて、包帯を何重にも巻かれた足をブラブラさせるなまえさんに、動かさないでくださいと足を制止した。すぐに大人しくなったその白い足を見て、また心が痛んだ。


何故このような状況になっているのか、話は数分前に遡る。




バラエティ番組のゲストとして呼ばれたST☆RISH、それに同行したマネージャーのなまえさんがセットの入れ替えのため待機している時に、事件は起こった。



「トキヤ危ない!!」


パイプ椅子に座りながら台本に目を落としていたら、正面に座る音也から発せられた声。


上を見上げると、自分に向かって倒れてくる機材が目に入り、咄嗟に避けようと立ち上がった瞬間、誰かに突き飛ばされた。


その衝撃と大きな音に目を開けると、パイプ椅子と機材に足を挟まれ、その場に倒れ込むなまえさんの姿があった。


自分を庇って怪我を負ったなまえさんは、医務室に運ばれた。すぐに病院へ搬送しようとしたら、「撮影が終わったら行くから」と言って聞かなかったからだ。



「何故…庇ったりなど…」
「マネージャーがタレントを守るのは当然だよ」
「そんな、だからと言って…!」
「大丈夫だよ、大した怪我じゃなさそうだもの」


どこが大した怪我じゃない、ですか。
私やメンバー達、現場のスタッフが騒然とする中、彼女は誰よりも冷静だった。

こちらは、気が気じゃなかったというのに。



「なまえさんをこんな目に遭わせるなんて…ご両親に何と説明したら、」
「いやいや、何言ってんの。あんたは私の旦那か!」


頭を抱えて大きく溜息を吐けば、楽しそうにツッコミを入れてくるなまえさん。
顔を上げれば、彼女は私を見つめて優しく微笑んだ。


「良かったよ、一ノ瀬くんに何もなくて」
「良くありません、そんな」
「良いの。あなた達を守るのが私の仕事だから」
「ですから…っ、そのようなこと、言わないでもらえますか!」


大きな声で言えば、なまえさんは肩を大袈裟にビクつかせた。目は大きく開き、驚いている。だが、構わずベッドに腰掛けたままのなまえさんをきつく抱きしめた。


「…痛いよ、一ノ瀬くん」
「足、痛みますか」
「足じゃないよ…そんな、ぎゅってするから」
「なまえさんのせいです…。心臓、止まるかと思いました」
「うん、ごめんね」
「あなたの身に何かあったら…どうすれば良いかと、」


ぎゅっと腕に力を入れてなまえさんの髪に顔をうずめた。

なんて情けないのだろう。好きな人ひとり、守れないだなんて。情けない顔をなまえさんに見られたくなくて顔を上げずにいると、なまえさんはぽんぽんと、私の背中を叩いてきた。


「ありがと、一ノ瀬くん。私は大丈夫。ここにちゃんと居るから」
「それでも私は、あなたを傷つけたくなかった」
「それは私も一緒。だから自然に身体が動いたの。一ノ瀬くんが大切だからだよ」


その言葉にゆっくりと身体を離して、視線を上げる。背中に回っていたはずのなまえさんの手は、今度は私の頭をぽんぽんと叩く。


「私…他のメンバーが同じ目に遭っても、きっと同じことをしたと思う。でもこんなに一ノ瀬くんのことを大切に思うのは…ちょっと特別」
「それは…どういう、」
「これ以上言ったらマネージャー首になっちゃうから。だから今はひみつ」
「なまえさ…!」
「さっ!撮影戻ろうか。皆待たせちゃう」


片足で無理矢理立ち上がろうとするなまえさんを慌てて支える。

ありがとう、と微笑む彼女は自分よりもよっぽど強くて大人で。



「なまえさん」
「ん?」
「話の続き、ちゃんといつか聞かせて下さいね」
「うん、いつかね」


それなのに支えた身体が自分よりとずっと小さいことに不思議と安心してしまい、いつか彼女をちゃんと守れるような人間になりたいと強く思った。


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