see you tomorrow
朝早起きをした時に学園周りをふらりと散歩することがある。
そんな中でふと見つけた、小さなパン屋があった。
一度興味で買ってみたメロンパンが絶品ですっかり気に入ってしまい、ほぼ毎朝通っている。
「いらっしゃいませー」
朝の時間帯は人もまばらだ。以前、別の時間帯に通った時はかなり混雑していたから、人気の店なんだと思う。
昼食用にいつもパンを二つ購入する。
ひとつは必ずメロンパン、もうひとつは気分によって変えている。
「メロンパンおひとつ、クロワッサンおひとつで380円です」
釣りと商品を受け取る。いつもの流れだ。だが今日は少し違っていた。
「いつもありがとうございます」
袋を手渡される時に目の前の店員にそう言われ、帰ろうとした足を止める。
「あ、すみません突然」
「いえ…こちらこそ、」
「また、お待ちしていますね」
よく考えてみればこの時間帯、いつも働いている同い年くらいの女の子がいた。
可愛らしくまた、と笑った彼女は、いつものように今日も俺が店を出るまで見送ってくれていた。
その次の日には、
「メロンパンお好きなんですね」
「…え?」
「いつも買っていらっしゃるので」
そうして会計の度に彼女と一言、会話を交わすのが習慣になった。
「他にオススメのパン屋さんとかあります?パン屋で働く私が聞くのもなんですけど」
「そうだな…店では無いが、不定期に販売される学園のメロンパンが好きだ。さおとメロンパン、というのだが」
「さおとメロンパン…じゃあもしかして!あの早乙女学園の?」
「あぁ、一応…」
「へぇー!すごいです!」
彼女の名前はみょうじなまえさん。
毎日会話を交わしている中で、色々なことを知った。
この春から高校1年生になり、間もなくここの店でアルバイトを始めたという。
高校はこの店のすぐ近くで、部活には所属しておらず、朝5時から8時までのシフトで平日はほぼ毎日働いている。終わったら走って学校へ向かうとのことだった。
そして俺は今日もパンを買いに行き、彼女と会話を交わす。
「これ、サービスです」
手馴れた手つきで、購入したメロンパンとカレーパンを袋に入れた彼女が、そっと何かを中に入れるのが見えた。
「すみません、ありがとうございます」
「いーえ!これね、私が焼いたんですよ」
彼女の言葉に驚きながら、袋の中身を見ると、一口サイズの小さなメロンパンが複数個、一つのビニール袋に纏まっていた。袋には可愛らしい赤いリボンがかけられている。
「キッチンの人に教えてもらっちゃいました」
「みょうじさん…」
「へへ、恥ずかしいな…おやつにでも食べてくださいね」
頬を赤く染め照れたように笑うみょうじさんに、胸の鼓動が速くなる感覚がした。不思議だ。初めての感情だと、思う。
同じように赤くなりそうな顔を見られぬよう、顔を背けながら帰ろうとすると、彼女がいつもより少し大きな声で俺を呼び止めた。
「お兄さん!」
「ん、」
「また、明日」
「ああ…また明日」
そう言って微笑みながら小さく手を振る彼女を見て、俺はメロンパンを買いに来ているのか、彼女に会いに来ているのか分からなくなった。
いや、きっと両方なのだろう。
「マサー!このちっちゃいメロンパン1個ちょうだい!」
「それはダメだ」
「なんでー!いっぱい入ってるんだから良いじゃん!」
「絶対にダメだ。代わりにこのカレーパンをやろう」
「えー」
「ふふ、真斗くんがムキになるの珍しいですねぇ」
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