抜け駆けクリスマス

12月24日、一年に一度の聖なる夜。

そんな夜は素敵な恋人とデートして……なんて、私達駆け出しのアイドルには、そんな夜は中々訪れない。




「みょうじー!ツリーの飾り付け終わったかー?」
「終わったよ!ありがとう翔ちゃん」
「レディ、次はこっちを手伝ってくれるかな?」
「うん!今行くねー」



今日は事務所をあげてのクリスマスパーティー。普段はスケジュールがバラバラで集まれる機会も少ないから、こうして早乙女学園からの同級生と一緒に過ごすクリスマスも悪くないな、なんて思う。


恋人と二人きりで過ごすクリスマスに憧れがない訳ではないけれど、こうして皆で笑い合える時間も今だけかもしれないから。





「それじゃ!みんなでカンパーイ!」
「「メリークリスマス!!」」


一斉にかちゃんとグラスを合わせる。まだ未成年だから、シャンパンではなくてノンアルコールのジュースを喉に通した。


それぞれが持ち込んだお菓子や料理をつまみながら、久々のゆっくりとした時間を楽しむ。

真ん中には私が飾り付けをした大きなツリーが立っていて、皆が楽しそうに笑いながら写真を撮っていた。




そろそろプレゼント交換の時間だ……と思い、輪から離れて、壁に立てかけておいた大きめのキャンバスバックから用意していたプレゼントを取り出した。



「あ……雪だ」


ふと窓から外を覗くと、しんしんと雪が降り出した。今日はホワイトクリスマスだ。


外にはキラキラとしたイルミネーションが街を飾っていて、それに白い雪が映えていてとても綺麗だ。街にはたくさんの人が溢れている。

楽しそうな子ども達に混ざって、手を繋ぐ恋人達が見えて。あぁ、やっぱり素敵だなぁなんて思うんだ。




「なまえ!何見てんの?」
「あ、音也君」


立ったまましばらく外を眺めていたら、後ろから音也君に声をかけられた。

私と同じように外を覗き込んだ音也君は、「わ!雪だ!」って言って子どもみたいに嬉しそうに笑う。


「すげ!今日はホワイトクリスマスだね」
「ねー!私も同じこと考えてた」


少し曇った窓に、ぼんやりと私と音也君の顔が浮かんだ。その音也君の目線が何故か外ではなく、私の方に向いていたから、何だろうと思ってちらりと音也君を見上げた。



「ん?どしたの?」
「いや…なんか、音也君の視線を感じたから」
「あちゃ、バレてた?」
「窓越しに見えちゃった。何か気になることでもあった?」



今日のメイク変だったかな?せっかくのクリスマスパーティーだから少し気合いを入れちゃったのが、失敗だったもしれない。窓に映った自分の顔を確認する。うーん、やっぱりちょっとアイメイクが濃かったかな。



「ううん、なんでもないよ」
「うーん、そう?顔変じゃない?」
「え!?何言ってんの」
「メイク派手だったかなぁって」
「そんな事ないよ、いつも通り可愛い」



音也君は時々さらりとそういう事を言う。
お世辞だって言うのは分かっているけど……あまりにストレートに褒められるとさすがに照れる。

赤くなった顔を悟られないようにちょっと視線を外していたら、


「ねぇ、なまえ」


音也君が私の手をそっと握ったから、驚いて顔を上げてしまった。顔、赤いのバレないかな。




「ちょっとだけ抜け出さない?」


囁くように耳元で発せられた言葉……
驚いて瞬きを繰り返していると、音也君はいつもとは違う大人っぽい表情で笑った。


そして私が何か言うより先に、握った手を引いて、外へ続くドアへと歩いていく。置いて行かれないように、私は慌ててプレゼントの袋を抱えた。

早歩きの音也君に続いて早めに足を動かす。だけど皆に気付かれないように足音を立てないで、そっと歩いて。



パタンと閉まったドアの向こうで、林檎先生の「プレゼント交換始めるわよー!」という声が聞こえて、ちょっぴり罪悪感が芽生えた。



「音也君あのさ、」


雪が降る外は、部屋の中の暖かさとは全然違う。だけど離れてくれない握られた手だけは暖かくて。


「抜け出して、良かったの?せっかくのパーティーだったのに」


音也君だって今日のクリスマスパーティーを楽しみにしていたはず。だから本当に良かったのかなって不安になった私は、音也君に繋がれていないもう片方の腕で、用意したクリスマスプレゼントをぎゅって抱えた。



「ねぇ、なまえ」

その質問に答えない音也君は、ポケットの中からラッピングされた小さな箱を取り出した。



「二人でさ、プレゼント交換しない?」
「え?い、いいけど……」


せっかく用意したプレゼントだ。無駄になってしまうのも勿体ない。そう思った私は、プレゼントの入った袋をそのまま音也君に渡した。

それと引換に、音也君が渡してくれたのは小さな箱。二人で立ち止まって、同時に封を開けていく。先に中身を確認したのは音也君だった。



「お!マフラーだ!良いね」
「うん。白色なら男の子でも女の子でも着けられるかなって」


私が選んだのは、白色のマフラー。早速音也君はそのマフラーを首元に巻き付けた。音也君の赤い髪に白色のマフラーが映えて、まるでクリスマスカラーだ。



「なまえも早く開けてよ」
「うん、ちょっと待ってね…わ!可愛い……!」


中に入っていたのは、私の好きなブランドのクリスマス限定のリップだった。ずっと欲しくて、ブログとかにも書いていた商品……まさか、音也君がこれを選んでくるなんて……。


「ねぇ音也君」

これ…プレゼント交換で他の人に当たっていたら、どうするつもりだったんだろう。



「もしかして……確信犯?」


私のために用意した物なのかな?
そんな、都合の良い事を考えてしまう。

私の一歩先を先に歩き出していた音也君は、振り返って…悪戯が成功した子どものように笑った。



「……どうだろうね」


その表情にまたどきっとしてしまった私は、すっかり音也君に惹かれてしまっているらしい。今まではただの同級生だと思ってたのに、急に意識をしてしまうじゃないか。


前で差し出された彼の手を握って、雪が降り止まない街中を、二人で手を繋いでゆっくりと歩いて行った。



「メリークリスマス、なまえ」


ずっと憧れていたクリスマスの風景に馴染んでいる事がなんだか嬉しくて、私は音也君の右手に繋がれた自分の左手に、ぎゅって力を込めた。



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