遠回しな言葉だけど、

※ファンミネタ


『今空港を出た。もう少しで帰る』
「ふふっ…了解っと」


スマホに来たメッセージを見て、ついにやけてしまう。全国ツアーを終えた真斗が、今日やっと家に帰ってくるのだ。


ツアー期間中は全国を飛び回っていて、ずっと忙しそうだった。時折、私が寝てしまっている深夜の時間帯に家には帰っていたようだけど、ちゃんと顔を見るのは何日かぶり。一緒に住むようになってから、こんなに離れるのは初めてかもしれない。



昨日がツアーのファイナル公演だったと聞いた。確か場所が北海道で、かなり大きな会場だった。朝、ニュースでも取り上げられているのを見た記憶がある。
まさかST☆RISHがここまで大きなグループになるだなんて、学園時代は想像出来なかったな、うん。


真斗が帰ってきたら何をしよう。とりあえずはぎゅーってして欲しい。あ、でもその前にお風呂入れておこう。湯沸かし器のスイッチを入れて数分経過した所で、家のインターホンが鳴る。慌ててドアを開けると、数日ぶりに会えた大好きな人の姿。



「なまえ」
「真斗!おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」


大きなトランクといくつかの紙袋を持っている。とりあえずトランクを預かろうとしたら重いから良い、と断られてしまった。

家に上がって一息ついた真斗。良かった、思ったより顔色も良いし元気そうだ。



「ツアーお疲れさま」
「ありがとう。なまえは何も無かったか?」
「うん、大丈夫。昨日は北海道だったんだよね!四ノ宮くんの凱旋かぁー」
「あぁ。中々盛り上がったぞ」
「ふふ、そうなんだ。向こう寒かったでしょ」
「そうだな、雪が降っていた。こっちとはだいぶ気温差があるな」


久しぶりに交わす真斗との会話。そのテノールの声が心地いいな、なんて惚気けた事を思う。凱旋公演って素敵だよね、なんて話をしながら、私は真斗のコートとマフラーをハンガーに掛けた。


前に真斗の京都の凱旋ライブに行ったことがあって、一面の青いペンライトに感動したなぁ。昨日もそんな感じだったのかな、なんて思ったら、ライブに参加していないのに不思議と幸せな気持ちになれた。



「とりあえず洗濯物出してもらって…あ、先お風呂入る?」
「なまえ」
「うん?」
「帰って早々に悪いのだが、聞いて欲しい。大事な話がある」


真剣な表情で床に正座する真斗を見て、私も釣られて同じように座った。

大事な話…なんだろう、改まって。



「ツアーが終わったら伝えようと思っていたんだ」
「うん、なぁに?」
「なまえ!俺と…」
「?」
「あの、その…だな」
「うん…」
「あー…む、」
「……?」
「……北海道の土産がある、渡してもいいか」
「あ、ありがとう」


え?大事な話ってこれのこと?お土産は嬉しいけど…
真斗は一人で頭を抱えて大きく溜息を吐いてから、紙袋からガサガサとお土産を取り出し始めた。



「あ、四ノ宮牧場のチーズ!嬉しい」
「それは四ノ宮の実家の物だな。あとは…」
「あ、昆布!北海道有名だよね」
「……」
「真斗?」
「…なまえ」


美味しそうな昆布を受け取ろうとした所で、真斗の動きがピタッと止まった。

手で昆布を握りしめて、真斗は私をじっと見つめた。その瞳があまりにも真剣だったから、私も受け取ろうとした手を下げて、膝の上で握った。




「この昆布で取った…出汁で、」
「えっ…」
「味噌汁を作ってくれ」



なんて事ない会話なのかもしれない。

けど、私には伝わった。もう何年もの付き合い…真斗のその言葉の裏に隠された意味が、私には十分すぎるくらい伝わって、涙で視界が滲んだ。


「よろしく頼む」
「真斗…」
「違う…その、言いたいことは、そうではなくて、」
「…いいよ、」
「なまえ」


真斗が何かを言うより先に昆布を受け取って、そのままぎゅって抱きついた。

勢い余ってしまったけど、真斗は後ろに倒れることなく逞しい両腕で私を受け止めてくれた。



「毎日作ってあげる」
「…ありがとう」
「でもたまには真斗の美味しいお味噌汁も飲みたい」
「もちろんだ、毎日でも作ろう」


痛いくらいにお互い力を込めてぎゅって抱き合った。

真斗の大きな手が私の髪を撫でて、それが嬉しくて口角が上がる。多分私、今世界中の誰よりも幸せだって顔してる。だって、こんなの嬉しすぎるよ真斗。



「結婚しようなまえ」


身体を少しだけ離して顔を合わせたら、真斗も私に負けないくらい幸せそうな顔をしていて。

二人でおでこをくっつけて、これ以上ないってくらい笑い合った。



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