不器用な愛情表現

綺羅が普段からから口数が少ないのも、気持ちを表現するのが苦手なのもよく知っている。


別に好き、とか愛してる、とか。
そういう直接的な言葉が欲しい訳でもない。

そういう事をさらっと言えるような、この人達みたいなキャラじゃない事も分かっているから。



「この人達って、もしかして僕とヴァンのこと?」
「ナギちゃん」
「なんや!綺羅と上手くいってないんか!」
「そんな明るく言われても全く嬉しくない」


楽屋でたまたま一緒になった二人に、綺羅との話を少ししてみた。興味無ーい、とか言ってた割に、ちゃんと聞いてくれるからなんだかんだ優しいと思う。



「まぁあの綺羅やからな」
「そんなに気にすることないんじゃない?なまえのこと、ちゃんと好きだと思ってるはずだよ」
「うん…そうだけど、」


別に綺羅に不満がある訳じゃない。むしろそんな不器用な所も大好きだ。

でもこうも愛情表現が無いと、さすがに不安になるのが乙女心というもので。


告白したのも私から。いつも好きと言うのも私から。

私が「好きだよ綺羅」と言っても、綺羅は無言で頷くだけ。同じ言葉を返したりはしない。



「不安があるならそう言ってみるのも有りやと思うで」
「話を聞かない綺羅じゃないでしょ」
「分かってる…分かってるんだけど。綺羅が私のこと、本当は好きじゃなかったとしたら…」


二人が一生懸命励ましてくれるけど、それでも不安は拭えない。だってもし、そんな事を言って、面倒な女だと思われても悲しいもの。



涙が出そうになり俯いていると、楽屋のドアが静かに開く音がした。

顔を上げられないでいると、ナギちゃんの「あ、綺羅…」という声で、思わず勢いよく顔を上げた。





「…順番だ」
「おーほんまか、早いなぁ。じゃあそろそろ行くか」
「じゃあねなまえ」


目で頑張れ、と言ってくれる二人が楽屋を出て撮影へと向かう。同時に綺羅が中に入ってきて、私の目の前に立った。依然、彼は口を開こうとしない。


…もしかして、今の会話、聞かれてたかな。



「あのね、綺羅」
「……」


なんと言葉を紡いだら良いか分からない。
綺羅は相変わらず何も話さずに、その黄色い瞳でじっと私のことを見つめていた。


『私のこと、ちゃんと好き?』

そんなことを言ったら、困らせてしまう。
綺羅がその質問に答えてくれるかも分からない。



どうしよう、そう悩みながら唇を震わせていると、綺羅が少し屈んで、椅子に座った状態のままの私を優しく抱きしめた。



「悩ませて…すまない、」


小さな声が私の耳元で響く。
あぁ、やっぱり聞かれてたんだ。

でも抱きしめてくれた綺羅の温もりに安心してしまって。さっきまで何に悩んでいたのか分からなくなった。馬鹿みたいって皆思うかもしれないけど、そのくらい私は綺羅の体温に安心するんだ。




「俺は、その…なまえ、」
「うん、大丈夫。大好きだよ、綺羅」
「あぁ…俺も、」


涙で潤む目元に、綺羅が優しくキスを一つ落とした。


言葉にしなくても伝わる、そんな気持ちってあるんだなぁって綺羅が教えてくれたから。
私は自信を持って、あなたの彼女ですと言えるよね?



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