抱きしめてほしいんだなぁ


「那月が抱きしめてくれない?なんじゃそりゃ」


Aクラスの教室にたまたま遊びに来ていた翔ちゃんに愚痴をこぼしたら、呆れた顔をされた。

音也もまさやんも、何言ってんだこいつ、と言いたげな顔をしている。皆、ひどい。



「翔ちゃんはいいなぁ、なっちゃんに抱きしめてもらえて」
「どこが!変われるなら変わってやりてーよ!」
「うんじゃあ変わって!」
「よっしゃ!」
「それは現実的に無理だろう」

冷静なまさやんに、ぴしゃり、と現実に戻される。
だってだって、羨ましいんだもん。


私はずっとなっちゃんのことが好きだから。
だから抱きしめて欲しいって思うんだもん。

だからいつもぎゅーってされてる翔ちゃんを見て、いいないいなぁって思ってるんだもん。



「翔ちゃんとかハルちゃんには抱きつくのに、」
「小さくて可愛いものが大好きですぅ〜、とか言ってるのに何でだろうね」
「それはなまえが小さくて可愛くないからってことじゃね?」

音也の似てないモノマネはさておき、翔ちゃんの言葉に、場が凍りつく。

がぁぁん!という感情を通り越して、悲しくなってきた。何でそんなこと言うの。

翔ちゃんの馬鹿野郎。ちび。金髪チャラ男。あ、なっちゃんも金髪みたいなものだった。



「ふっ…うぇ、ぅっ…」
「な、なんで泣いてんだ?」
「ないわー」
「あまりにデリカシーがないぞ来栖」


音也とまさやんがドン引きしている。

それなのに翔ちゃんは俺のせい!?とかとぼけた事を言う。



「どうせ私は可愛くないですよーだ!」
「お、落ち着けみょうじ」
「もう知らないっ!なっちゃんと翔ちゃんのバカ!」
「わ、悪かったって…」
「それならさ、今度自分から抱き着いてみたら?」


音也の言葉に肩がピクリと動く。


「…自分から?いいのかな?」
「うん!」
「なっちゃんに、引かれない?」
「四ノ宮なら大丈夫じゃないか?」

優しくぽん、と左右の肩を叩いてくれる音也とまさやん。二人がものすごくイケメンに見える。いやイケメンだけど。翔ちゃんとは大違いだ。



「わたし、やってみる!」
「やるのかよ!マジで!?」



…という訳で、放課後授業が終わり、寮の部屋に向かうなっちゃんをこっそり追いかける。

翔ちゃんにはしばらく隠れてもらうことにした。だって翔ちゃんがいると、なっちゃん、絶対そっちに行っちゃうもん。


気付かれないようにそーっと間合いを詰めていく。今だ!と思ったところで、思い切りなっちゃんの大きな背中に抱き着いた。





「なっちゃん!」
「えっ!なまえちゃん…?」

やった!念願のハグ!後ろからだけど!

ぎゅーって力を入れてみるけど、それからなっちゃんの反応は無かった。





「なっちゃん…?」


身体を少しずらしてなっちゃんの顔を見て、驚く。

だって今までにないくらい、なっちゃんの顔が真っ赤になってたから。なっちゃんのこんな顔、初めて見たから。


「顔、赤いよ…?」
「あ、んまり…見ないでください、」
「どうして?」
「狡いです、なまえちゃんは」
「だって、なっちゃん…私には抱き着いてくれないから…」


直後、なっちゃんは正面から私をぎゅっと抱きしめてくれた。大きな身体がのしかかるけど、ちっとも苦しくなんかなかった。



「本当に好きな子には、できないんですよ、中々…」

「なっちゃん…」

「僕もずっと抱きしめたかったのに、先越されちゃいましたね」



なっちゃんとの夢にまで見たハグは、思っていたよりずっとずっと甘くて、ほんのり温かかった。


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