俺、定時で帰ります!

※某連続ドラマパロ


──

大学を卒業してから就職した会社のデスクで、伸びをひとつ。

会社や個人から依頼を受けて、ホームページの作成とかをする、そんな会社。
なかなか今時な仕事で、オフィスも洒落てるし、結構気に入っている。
仕事は大変だけどな。




「なに来栖くん、疲れたの?」
「みょうじ先輩…いや!そんな事ないです!まだまだやれます!」
「ふふ、まぁ無理しないように程々にね」


正面の席に座る先輩に、見られてしまい、なんとなくバツが悪い。

俺の指導員であるみょうじ先輩は、すぐに集中してパソコンに向かっている。

先輩は全部の動作に無駄がない。すげぇな本当に。それに美人だ。あ、これは関係なかった。


そんなみょうじ先輩に密かに憧れているのは、自分だけの秘密だ。




…と言っても失恋したばかりだけど。
どうやら長年付き合っていた彼氏とやらと、今度結婚するらしい。

その話をつい先日聞いた時は、ショックすぎてマジで会社を休もうと思った。




時計の時刻が18時を指す。

定時となり、ぞろぞろと帰宅し始める社員達だが、みょうじ先輩はまだパソコンのキーボードを叩いている。



「…みょうじ先輩、」
「なぁに?来栖くんも上がっていいよ」
「いや…いつも定時ですぐ帰るのに珍しいなぁ、と」
「なんとなく家に帰りたくないだけだから」

ふーん、と言いながら俺も帰り支度を始める。まぁ、婚約中と言っても色々あるんだろうなぁなんて、そんなことを思っていると、みょうじ先輩の隣の席に座る、別の女の先輩が俺に話しかけた。



「この子ね、婚約破棄したんだって」
「はぁ!?」
「ちょ、言わないでください…!」

キーボードを打つ手を止めて、みょうじ先輩が気まずそうにこちらを見た。


「ごめん…もらったお祝い…今度返すから…」
「いや、それは別に…いいんですけど、」


胸がドキドキと鳴る。心の中で超ガッツポーズしてる。すげぇラッキーだ。先輩には申し訳ないけど。



「婚約者が浮気してたんだよねー」
「あーもう!思い出させないでくださいってば!」

頭を両手で抱えて叫ぶ先輩は、いつものバリバリと仕事をこなす姿と違っていて。先輩の素の姿を見れた気がした。


「あぁもう…やっぱり残業しないで帰ろうかな…」

しゅん、と落ち込む先輩に対しこんなに浮かれている俺。でもこれは千載一遇のチャンスだ。ここで動かなきゃ男じゃねぇ!



「みょうじ先輩!一緒に飲みに行きましょう!」
「えっ?」
「俺、今日は愚痴でも何でも聞きますから!」



勢いよく立ち上がり、右手で拳を握りしめて先輩を見つめる。
驚いた顔をしたみょうじ先輩だが、すぐにいつものように優しく微笑んでくれた。



「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて話聞いてもらおうかな」
「…はいっ!行きましょう!」


今日は俺が奢ります!なんて活きの良い事を言ってると、私の方がお給料貰ってるんだから良いよー、とやんわり断られた。



まだ先輩にとっては頼りない年下の後輩としか思われてないだろうけど、少しでも早く追い付いてやる。そして一人の男として、意識してもらえるように。


心の中で気合いを入れた俺は、先輩と二人きりで1階へ向かうエレベーターへ乗り込んだ。




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