愛と呼べる教室で



「音也ー!どこー?」

授業も終わった放課後。練習の約束をしていたのに一向に現れず、姿が見えないペアの音也を探して、学校中を探し歩いていた。

真っ先に思い当たった一ノ瀬くんの所には居なかった。聖川くんの所にもいないし、来栖くんとサッカーをやっている訳でもない。
…違うことを切に願った七海さんの所でもなかった。



「もう、本当にどこにいるの?」

さすがに校内にはもう残ってないかな、と思い廊下を歩きながら、ふと外を見ると空が夕日でオレンジ色に染まってきた。

今日はお天気も良くて、夕日もキラキラしている。すごく、綺麗。



何故かふと思い立って、目の前にあったBクラスの教室のドアを開けた。

…そしたらそこには先客が。




「…灯台下暗しってやつ?」

まさか自分のクラスの教室に音也がいるなんて。

机に突っ伏して、気持ち良さそうに眠っている。しかも音也が今座っているのは、何故か私の席だ。



「音也ー」


肩を揺らしながら声をかけてみるけどよく眠っているのか、音也からの返事はない。

ふぅ、と溜息をひとつ吐いた私は、そのまま前の席の椅子に腰掛けた。

机に頬杖をついて、間近にある音也の顔をじっと見つめる。

ほんっと…綺麗な顔だなぁ。
私より遥かに整っている。そりゃ、アイドルコースに入るくらいだから当たり前だけど。でもちょっぴり切ない。


「…音也」


音也が起きないのをいいことに、ふわふわの髪の毛を撫でてみる。それでも音也は起きない。


いつも首から下げているヘッドフォンは、今は耳に当てられている。ヘッドフォンからぴょこぴょこ出ている髪の毛がやたら可愛い。

天使のようなその寝顔を見ているだけで、幸せな気持ちになれた。

音也の赤い髪に夕日が差して、オレンジ色に輝いている。それが彼をより一層美しくさせていて。



「音也、好きだよ」



キラキラのアイドルオーラを纏う彼と、Bクラスの中でも平均値な成績の私。


何の間違いでペアになってしまったのか分からない。でもそんな音也に惹かれるのは必然的で。



釣り合わないのは分かっている。
だからこの気持ちを伝える気は全くない。

きっと音也には、もっと相応しい女の子がいるはずだから。





「俺も好きだよ」
「…えぇぇっ!?」


眠っているはずの音也が、目を閉じたまま言葉を紡いだ。驚きすぎて椅子からひっくり返そうになった。


「お、おお音也!起きてたの!?」
「うん、おはよー」
「おはよーじゃ、なくて…あのその。いつからでしょうか」
「なまえが教室に入ってきた時から気付いてたよ」
「…まじですか。じゃあ私の言葉、聞こえてた?」

あぁ、独り言のつもりだったのに告白になってしまった。でも音也、さっき…俺も好きって…。



「うん、ばっちり」
「へ、ヘッドフォンの意味!」
「だって音楽流れてないもん。でもちゃんと聞けた、嬉しかったんだ」


ず、ずるい。そんな顔でそんなこと言われたら、期待しちゃうじゃん。



「なまえってば俺のこと好きなのバレバレなのに、言ってくれないからさ。なんかもどかしくて」
「じゃあ、ここにいたのも寝たフリしてたのも」
「まぁ、わざとかな」


そう言っていたずらっ子のように笑った音也。
あぁ、あざとい。ずるい。可愛い。
でもやっぱり大好き。



夕日が照らす教室で、机越しに音也がキスをくれたから、嬉しくて、またひっくり返そうになってしまった。




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