You are my Princess!

いつも通り、無事ST☆RISHの冠番組の収録が終わった。後は楽屋の忘れ物をチェックすれば、今日は私も直帰ができる。


「変じゃないかな」

いつもはプチプラのグロスが好きだけど、今日は特別にデパコスで購入した口紅を引いた。もう一度、髪型と服装をチェックしてから女子トイレを出る。楽屋に戻るとあら不思議、なんと7人全員がまだ帰宅せずにその場に留まっていた。


「あれ?皆さん帰られないんですか?」
「あ、なまえ!この後皆でご飯行くから、その店決めてたんだ。なまえも来る?」


スマホを操作していた一十木さんが顔を上げて、そう教えてくれた。本当に、プライベートでも仲の良いグループだ。とても嬉しいお誘いだし行きたいけれど、今日はどうしても参加出来ない理由があった。



「すみません、また今度参加させて下さい」
「そっかー」
「なまえ、なんだか今日はいつもと雰囲気が違います」

いつの間にか私の背後に立っていたのは愛島さんだ。私の周りをぐるりと一回りして不思議そうに顔を覗き込んだ。


確かに…マネージャー業の私は普段は動きやすさ重視でパンツスーツスタイルが多い。だけど、今日はちょっと特別だった。

淡いカラーのワンピース、ヒールが高めの黒いパンプスにレースの靴下。私の中でも最大級にお洒落を頑張ってみた。ワンピースは買ったばかりの一張羅だ。


「あ、やっぱり変です?」
「ううん、とっても似合ってます」
「本当に。今日のレディはとびきり可愛らしいよ、ね?聖川」
「う、うむ」
「良かったぁ」


一流芸能人の彼らにそう言われれば、自信もつく。前髪を直しているとふと聖川さんと目が合って、咄嗟に視線を逸らされてしまったのは、ちょっとだけ悲しかったけれど。



「なまえ、後れ毛巻いてやるよ。ここ座れ」
「来栖さん…良いんですか?」
「おう!」

普段からメンバーのヘアアレンジもしている来栖さんが鏡の前の椅子を引いてくれた。そこに素直に腰かけると、コンセントに私物のコテを差した来栖さんと鏡越しに目が合う。


「今日髪の毛結んでんだな、可愛いじゃん」
「あ、ありがとうございます」


耳たぶの近くを来栖さんの指が掠めて、思わず「んっ」と声が漏れた。やば、と思って瞑っていた目を開けると…来栖さんは予想外に顔を真っ赤に染めている。

そ、そんなに変な声だったかしら。「あの」と声をかけてみると「何でもねーよ!」と怒られてしまった。そんなことを言いつつ、手元は丁寧に髪を巻いてくれている。来栖さんは普段から器用だし、とっても優しいのはよく知っている。




「お疲れー!なまえいる?」
「あ、トモちゃん!」
「いたいた!オッケー、可愛い格好してるじゃん!」


楽屋に入ってきたのは昔からの顔馴染み。私の全身を見て満足そうに頷いた彼女はいつ何時もお洒落で綺麗で感心する。そんなトモちゃんにも褒められて…また少し自信が湧いてきた。


そんな私達の会話を不思議そうな顔で聞いているのは、彼らだ。説明する程のことでもないけど、一応言った方が良いのか…と、私が考えているうちにその答えはトモちゃんからあっさり語られた。



「なんてったって、これから合コンだからね〜!」
「ご、」
「ごごご」
「合コン!?」
「うーん…やっぱり行くのやめようかな。なんか緊張するし憂鬱になってきた」
「ダメダメ!今日はアンタの為にセッティングしたんだから!」




「今、合コンって聞こえたよね?」
「えぇ、確かに聞こえました」
「トキヤ、知ってた?」
「初耳ですよ、全く…道理で可愛らしい格好をしていると…」


ソファに並んで座っている一十木さんと一ノ瀬さんが何かコソコソと話している様子が見えた。仲が良いのは良いことだし、特に気にすることもなく私は小さく溜息を吐く。


「気合い入れるわよ〜!今日は国家公務員に医者、弁護士と商社マン!優良物件ばかりだからね、しかもイケメン!」
「職業は別にいいよ、ちゃんと働いてれば」


それは本音だった。そりゃ交際経験が多い方ではないけど、お付き合いをするなら性格とか、価値観が合うかが大切だと思うもん。

イケメンかどうかについては…正直日常的にこの顔面偏差値がえぐい方々に囲まれているからある程度の免疫が付いてしまっていて。そんなものは喜ぶ材料にもならないのだ。


「じゃ、私先にお店行ってるから」
「えーっ、一緒に行こうよー…」
「幹事だから先に行かないとなのよ。春歌もオフだから直接向かうって。じゃ、よろしくねー」


一人でお店まで行くのか…それもまた憂鬱だけど仕方ない。十分に間に合うし、のんびり行こ…「なまえちゃん」…と?



「四ノ宮さん、どうしました?」


私の名を呼んだその声に振り向くと、いつもニコニコとしている四ノ宮さんが、神妙な面持ちをしていた。私が瞬きを繰り返している内に一歩、彼の大きな身体が近付いた。



「国家公務員や医者よりも僕の方が稼いでます」
「ぶっ!」
「え?え?」
「な、那月…!お前何言って…!」
「どうして合コンなんて行くんですか。行っちゃ嫌です」

突然とんでもないことを言う四ノ宮さんはあまりにも真剣な表情で、ふざけている訳ではなさそうだ。


「ごうこん?」
「よし、行け那月…!」
「オトヤ、マサト、合こんとは、なんですか」
「んとね、欲にまみれた男女がちちくり合う為に開催される飲み会だよ」
「一十木!例えが悪すぎるぞ…!」


四ノ宮さんから目を逸らすと、三人がそんな会話をしている様子が見えた。んーと、と考えている私に他のメンバーからも痛いほどの視線を浴びる。まるで、私の返答を待っているかのようだ。



「えっと、嫌です」
「な…!」
「どうしてです?」
「だって、彼氏欲しいですし」


多忙すぎる毎日で、恋なんてずっとご無沙汰なのだ。そんな日々に不満がある訳じゃ断じてないけど、人並みに素敵な恋愛だってしてみたい。そう思うのは女の子として、自然なことのはずだ。



「彼氏なんて要らないじゃない。こんなにイイ男達に毎日囲まれているのに、レディは何が不満なの?」
「そーだそーだ!」

いつの間にか私の隣にいてさりげなく肩に手を回すのは神宮寺さん、それをすぐさま払い除けるのはこれまた隣にいた聖川さん。遠くから神宮寺さんを援護射撃(?)するのは一十木さんだ。


な、何なのよ皆して!私が合コンに行こうが行かまいが、関係ないじゃん!



「そ、それとこれとは話が別です!私だっていずれは結婚して家庭を持ちたいですし 」
「け、けっこん!?んなのまだ早すぎるだろ!なしなし!」
「く、来栖さんまで……」

誰も私の味方をしてくれないのが悲しい。唯一の良心と思っていた来栖さんまで、まるでお父さんのように腰に両手を当ててぷりぷりしている。


そうこうしている間にも、時間は刻一刻と迫っている。このままでは本当に遅れちゃうし、トモちゃんにも怒られるではないか…!

もう!本来ならばマネージャーである私が一番最後に楽屋を出なくちゃなんだけど…こうなったら強行突破しかない!



「す、すみませーん!私はお先に」
「逃がしませんよ」


間をすり抜けて何とかドアの前まで辿り着いたと思ったら、一ノ瀬さんに通せんぼをされてしまった。出口はそこ一箇所しか無いというのに、このままでは私は合コン会場まで行くことが出来ない。それを知ってか、意地でも動かんとばかりの顔で一ノ瀬さんに見下ろされる。


「い、一ノ瀬さん。そこを通して頂けませんか」
「無理です」
「な……」
「私達の大切なあなたが、どこぞの男に良いようにされるなど、耐えられると思いますか?」
「た、たかが合コンなのに…」
「されど合コンです。なまえさんは男の欲深さと自分の可愛さを全く分かっていない」


う…可愛いと褒められるのはちょっと嬉しい。嬉しいけど!

けど、けど…ここまで反対されると私も意地でも行きたくなるものだ。


こ、こうなったら仕方ない…!





「…トキヤ」
「なっ……!」
「お願い…そこ、通して…?」
「騙されんなトキヤ!!」


必殺の上目遣い攻撃も、すぐさま来栖さんに邪魔されてしまった。くそう!恥ずかしさを我慢して一世一代のぶりっ子だったのにぃ!

私が悔しさのあまり頬を膨らませていると、こほん、と咳払いをした一ノ瀬さんが「仕方ありませんね」と言ってスマホを掲げた。



「最終手段です。日向さんに電話をします」
「げ……!」
「所属タレントを放って先にスタジオを出て、しかも合コンに参加したと知られたら…さぞかし怒られるでしょうねぇ」
「ま、待って!それだけは…」


鬼の形相をした日向さんの顔が目に浮かぶ。ただでさえ、普段から色々と至らなくて怒られているっていうのに。しかも私には後ろめたいことがある。本当は仕事が溜まりまくっていて、今日あのお方はわざわざ事務所で残業し、私のフォローをしているはずなのだ。


事務所に戻らず仕事もせず、合コンに参加してるなんて知られたら、滅茶苦茶怒られるに決まってる!良くて始末書、最悪の場合クビ…!やだやだ!そんなの絶対嫌ーっ!



「では、音也」
「オッケー!…もしもし、リューヤ先生?うん、収録は終わったんだけどね、実はなまえが…」
「わっ、わわわ分かりました!分かりましたから!!!」










───


「ごほん。それでは私が乾杯の音頭を」


そして散々脅されてしまった私は、


合コンには行けず、泣く泣く彼らの打ち上げに参加するべくお馴染みの居酒屋に来ているのだった…。



仕事のことはもう考えないことにした。明日、朝早く行って片付けよう。ちなみに一十木さんが掛けた電話は何とか誤魔化して、日向さんには事を知られずに済んだ。


高収入イケメンとの合コンは叶わなかったけど…



「なまえさんの合コン参加阻止成功に、乾杯」
「「かんぱーい!!」


そんな一時的なときめきよりも、いつもの彼らとの楽しいこの空間が心地よいことを、本当は私はよく知っている。


「(ま、今はまだいっか)」



喉に流し込んだカクテルは、今まで飲んだお酒よりも、ちょっぴり美味しい気がした。



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