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※少し暗めです




「なまえちゃん、絆創膏どうぞ」
「えっ?」
「首のココ、怪我してます。噛み跡、のように見えますが…」


廊下ですれ違った春歌ちゃんに突然指摘され、咄嗟に手の平で首筋を隠した。制服の襟にすら隠れずに見えるそれは、きっと相当目立つんだろう。


「あ、もしかして実家のワンちゃんですか?首まで噛まれちゃうと痛くて大変ですよね」
「そ、そうそう!実家のね…うん…あはは…」



頭を掻きながら苦笑いをした私は、適当に春歌ちゃんを誤魔化して逃げるように女子トイレに駆け込んだ。洗面台の鏡で確認すると彼女の言う通り、確かに私の首筋には噛み跡のような傷がくっきりと残っている。



「(確かにある意味犬なんだけど…もー)」


何も考えずポニーテールにしてしまった事を後悔した。春歌ちゃんから貰った絆創膏のシートを剥がそうと試みて、思い直ってそれをブレザーのポケットに仕舞う。春歌ちゃんの心遣いは嬉しいけど、貼ったら余計に目立っちゃう気がして。髪を一旦解いて、ハーフアップにして縛り直した。うん、これなら髪で何とか隠れる。


この噛み跡の犯人には心当たりがある。
間違いなく、奴だ。



「(音也の、ばーか)」


恋愛禁止のこの学校で、私はほぼ毎日かかさず彼との逢瀬を重ねている。彼のルームメイトが、夜は何故だか外出しがちというのが一番の理由だ。


そんなの関係なしに、一人で過ごせば良い。むしろ実質一人部屋なら快適じゃないかと、普通はそう思うだろう。だけど音也は…ちょっと違っていて。



寂しがり屋の、まるで捨てられたわんこのような顔をする。

そして私は今日も、音也の部屋へ行く。









「ちょ、音也っ…!昨日もシたでしょ!?またするの!?」
「ダメ?」
「ダメダメ!私の体力が持たん!」


音也の部屋に入るや否や、朝起きたままの状態であろう乱れたベッドの上に押し倒された。胸板を押しても顔を背けても、お構いなく唇を奪ってくるこの大型犬、もといこの男。


音也との関係は【そういうこと】から始まった。恋愛禁止の学校に属しているのに、簡単に身体を許してしまい自己嫌悪に陥る私に、音也は

「俺は好きだよ。なまえのこと、ちゃんと」

…と告白をしてきて。順序は前後したけど、今はちゃんと恋人同士になれている…と、思う。もちろん公に出来ない関係である事には違いないけど。


だから身体を重ねる事については、抵抗はない。もちろん、今ではちゃんと私も音也のことが好きだ。だけどこうも頻繁に求められるのは、体力的にしんどいのだ。



「んっ…あ…」
「あーやばい。もう挿れて良い?」
「ダメって言っても、やめないくせに…」
「へへ、ご名答」


それに少し、気になる事もあった。



「ねぇ音也」
「どしたの?自分でゴム付けたい?」
「ちが…ううん、なんでもないや」


ピッと歯で封を切って取り出されるゴムに、すっかり慣れた手つき。いきり勃ったソレに貫かれる感覚には、本当は未だ慣れなかったりする。決して行為が嫌いな訳じゃない、けどそういう快感目的で私は音也の元に足繁く通っている訳でもない。



「んっ、あ…」
「ねぇなまえ」
「ど、したの?」
「身体、起こしても良い?」


私が何か言う前に、正常位で攻められていた身体が繋がったまま起こされた。寝ている体勢で動かれているのと、また刺激が違う。


「ど、して…?」
「いや?」
「や、じゃないけど…ぁっ」


音也はいつも、必ず対面座位にしたがる。そして私の腰を掴んだまま、下から突き上げるように律動を繰り返す。それが奥まで届いて違うところに当たって…私も強い快感に襲われるのだ。



「ギュッて、したいから」


そう、私に理由を答えた音也の声が、ほんのり切ないのが気になった。


音也はいつもそう。
まるで縋るように、何かに追い詰められているように。



「あっ…なまえっ…」
「んっ、あ…」


左腕で身体をキツく抱き締めながら、右手では私の後頭部を髪ごと掴んで、何度も何度も私の名前を呼ぶ。それがいつも、辛そうで。

いつも明るくて、クラスの人気者の彼の姿は、そこにはない。



「…!いたっ…」


そしてその体勢のまま、まるで動物のように私の首元に噛み付く。優しく付けるキスマークとは違う。必死に…自分の印を刻みつけるように力強く、私の首を噛む。



「(寂しいの?苦しいの?)」


理由ははっきり分からなかった。だけど私は、そんな音也を放っておくことなんて出来ないから。



「だいじょぶ、音也っ…大丈夫だよ」


下からの刺激と首元の痛みに必死に耐えながら、私は何度も音也にそう訴えるの。



「なまえ…っ!」
「んっ…な、に?」
「なまえは、なまえだけは、俺の前から居なくならないでっ…」


絞り出すような音也の声を聞いて、全て腑に落ちた気がした。そうか。そっか…


音也は、きっと怖いんだ。
小さい頃から複雑な家庭環境で育って、沢山のものを失った彼は…目の前のものがいつか消えちゃうんじゃないかって、怯えてるんだ。

そう、思った。



「音也の、ばーか」


最大限の愛情を込めて、耳元でそう伝えた。私は絶対に居なくなったりしないよって、音也が安心するまで何回も何回も言葉にした。


切ない声の「ありがと」も、更に激しさを増す彼の欲求も。私は全部全部受け止めようと身体を必死に抱き締める。


首元に、何かが滴った感覚がした。それが汗なのか涙なのかは分からないフリをして、私も音也と同じように首元に優しく噛み付いた。



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