突然の再会



「涼花ちゃん!個室2番に新規7名様お願い!」

「かしこまりましたー!」


少しだけ忙しい時間帯、お店もバタバタしている。


店長に言われた通りに、トレーに7人分のお水とおしぼりを持って個室へと急ぐ。7人分ともあって少し重いけど、もうすっかり慣れたな、私。

そんなことを思いながら、新規のお客さんが来たという2番個室のドアを開ける。



「いらっしゃいま、せ……」

ずっしりと重い7人分のお水とおしぼりを乗せたトレーがぐらり、と一瞬揺れたけど、なんとか持ち直した。


だって、だって…そこにいたのは今をときめく超人気アイドル。いや、いつも来てくれている愉快な4人組のお兄さん達の方じゃなくて…



「………だ、え…す、すたーりっ、」
「悪い、驚かせてしまったな」
「申し訳ないんだけどさ、他の客には黙っててくれな」


立ちすくんでいる私にそう声をかけてくれたのは、一番手前の席に座っていた聖川真斗と来栖翔。

うわ…本物だ…。
ていうか実物超かっこいい…顔ちっちゃ!
こんなこと言ったら失礼かもだけど、来栖さんはテレビで見るよりも小さい…。いや顔も小さいけど、背がね、背が。


QUARTET NIGHTの皆さんが初めて来たときも驚いたけど、今はそれ以上の衝撃だ。


だって一番奥の席に座っているの…、あれは紛れもなく
音にい、一十木音也の姿だったから。


どきどきどきどき…

胸の音が鳴り止まない。震える手でおしぼりとお冷を置いていく。手前の席の二人が気を利かせて、奥の方の席まで回してくれているのが辛うじて分かった。


ちらり、と音にいの方を見ると、隣に座る一ノ瀬トキヤと(あ、美紀が好きな人)、メニューを眺めながら「何にしよっかなー」なんて言っている声が聞こえた。

…だめだ!今は仕事中!そう心を整えて、メニューを入力するハンディを開く。


「ご、ご注文お決まりでしたらお伺いしますがっ」

「はーい!生の人ー!えっと、生ビール3つと、麦焼酎水割り1つに、カシオレ1つ、…音也とトキヤはー?」

先陣を切ってオーダーをする来栖さん。音にいの名前が出る度、反応してしまうのは、一体どうしたら良いのだろうか。


「私はウーロン茶で」
「えー!トキヤ飲まないの?」
「明日も仕事なので」
「そ?じゃあ俺、レモンサワー!」

そうにっこりと、遠くから私に微笑みかける音にい。

あれ?これは…向こうは…気付いてない…?


動揺しながらも、かしこまりましたとその場を去る私。

渡り廊下でパタンとハンディを閉じる。




「そっか…覚えて、ないよね…」


当たり前だ。良く考えれば、私が福岡の両親に引き取られてから11年経っている。音にいは有名人になったから私が気付いただけで。

そりゃ覚えてる訳ない、か。
何を期待してたんだろう。


淡い期待を振り切るように、頬を軽く叩いてから、キッチンへと急いだ。







───

「すみません、長居してしまって」
「いえ、またいらしてください」
「それと、領収書を」
「かしこまりました。宛名は?」

来店してから数時間後、すっかり出来上がってしまった様子のメンバーが後ろで騒いでる中、一ノ瀬トキヤがお会計をしてくれた。


「寿嶺二でお願いします」
「えっ?」
「彼に教えて貰ったんです、ここ。常連なんでしょう?」

軽くウインクしながら言う彼はさすが超人気アイドルで。格好良すぎてドキっとしてしまった。いけない、いけない…!

あ…でも寿さんの名前で領収書切っても良いのだろうか?なんだか、気の毒な…でもまぁいいのかな、うん。





「ほら、皆さん帰りますよ…、て、音也?」

いつの間にか、一ノ瀬さんの横に立っていた音にい。私のことをじぃーっと見つめている。さっき以上に胸がドキリと鳴った。

結局あれから個室に出入りしたり、音にいとも何度かやりとりをしたけれど、音にいが私に気付くことはなかった。


それなのに…なんだろう?


「…賀喜さんか、」
「え…?」
「また来るね!ありがとう!」

どうやら音にいは、私の胸元に付いていたネームプレートを見てたらしい。

ニカッと笑った音にいは、私に大きく手を振ってお店を出て行った。

「あ、りがとうございました…」


結局、最後まで気付かれなかった…。
それでも、また来るねと言ってくれた音にいのその言葉が嬉しくて。


顔のにやけを必死に抑えながら、私はテーブルの片付けに向かうのだった。




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