変わらない彼女
「ごめんね、我儘聞いてもらって」
「全然大丈夫!でもLINEで画像送るのに」
そろそろ帰ろうという涼花の言葉に、心から残念だと思ってしまう自分に少し驚く。
本当は引き止めたかったけど。
涼花の言葉もごもっともだし、多分涼花もそろそろ帰りたいのかなと思ったから。
「ありがとう。どうしても写真で持っていたくて」
今日、涼花と二人でひまわり畑で撮った写真。それをどうしても写真の形で欲しくて、涼花にそう話したら、すぐにコンビニで現像してきてくれた。
「でも分かるよ。写真で持ってると、なんだか特別な感じするもんね」
「へへ、さすが涼花!分かってくれる?」
はい、と渡された写真。
それを鞄の中のスケジュール帳に、そっと挟んだ。また一つ出来た、涼花との大切な思い出だ。
「じゃあ、またね」
手を振ってそのまま去ろうとする涼花の腕を、咄嗟に掴んだ。多分、無意識だ。
きょとんとした顔の涼花と目が合う。
「家まで送るよ!」
「大丈夫だよ、そんなに遠くないし」
心配だという気持ちが半分、もう少し一緒に居たいと思う気持ちが半分だった。
「でも、」
「ほら…よく分かんないけど…パ、ぱぱ…?」
「パパラッチのこと?」
「そう!それ!色々警戒しなきゃでしょ!」
ふん、と両手を腰に当てて俺を見る涼花。…良かった。少しほっとする。
実の所、昔からは想像出来ない大人っぽい服装で現れた涼花に、内心俺も少しだけ緊張していた。
でも彼女の、昔から明るい所だとか、人を気遣う優しい所だとか…内面は全く変わってないや。
本当に、変わらない。
涼花は俺の知っている涼花のままだ。
「ありがとう、じゃあまた連絡するね」
「うん、お店にも来てね」
にっこりと笑って大きく手を振る涼花に、俺も手を振り返す。その笑顔にまた、ほっとしてしまった。
今日は久しぶりにリラックスした楽しい時間を過ごせた。涼花といると童心に帰れるというか、ありのままの自分でいられる気がした。
───
「あれ、鍵閉めなかったっけ」
自宅マンションのドアの鍵を開けようと手をかけたら、鍵が開いていることに気付いた。
おかしいな、と思いつつドアを開けると、すでに俺の部屋には彼女が居た。
「あ、おかえりなさい音也君!」
「春歌か!良かったー…鍵閉めないで出掛けちゃったと思った」
「すみません、合鍵使っちゃいました」
エプロン姿の春歌が、どうやら先に家へ上がり
、食事の支度をしていてくれたらしい。
…そっか。俺、ついこの前春歌に合鍵渡したんだった。
「…音也君、今日オフじゃありませんでした?」
「うん、ちょっと外で人と会ってて」
「一ノ瀬さんですか?」
「ううん、トキヤは仕事だってー」
鞄を下ろしてそういう俺に、春歌はそうですか、と言ってそれ以上は詮索しなかった。
別に気まずい訳じゃない。でも何となく、涼花と会っていたと報告するのも変かな、と思った俺もそれ以上は何も言わないようにした。
「ご飯出来てますけど、先にシャワー浴びますか?」
「うん、そうしようかな。ありがとう!」
そう言って俺はいつもの癖で、鞄から携帯とスケジュール帳を出し、無造作にテーブルの上に置いた。
そういえば涼花、ちゃんと無事に家帰れたかな。
あとでお礼のLINEしておこう、そんなことを考えながら浴室へと向かった。
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