思い出のひまわり畑
「わぁー!綺麗!」
たまには少し遠出しようか。
音にいがそう言って私を連れてきてくれた場所…それは昔、施設の遠足で訪れたひまわり畑だった。
「ね!でも来るの少し早かったかな」
ひまわりを眺めながら、音にいがそう呟く。
確かに、満開というには早かったみたいだけど…
「でも私は今日来れて嬉しかったよ」
「涼花…」
「音にいとの思い出の場所だもんね」
小さな頃に撮った、宝物の写真を眺める。
音にいと写真を撮りたいって私が駄々をこねて、寮母さんが撮ってくれたもの。
音にいと離ればなれになっても、ずっと肌身離さず持っていた。私の、お守りのようなものだった。
ひまわりの前で、満面の笑顔を見せる音にい。私はこの笑顔に、何度励まされたことか。
「ね、久々に写真撮ろうよ」
どうしても今日の思い出を残したかった。
私の提案にいいよ、と優しく笑った音にいが私の横に立つ。
バックのひまわりが写るように、ぐっと腕を伸ばす。音にいが寄り添って写真に写ろうとするけど、その距離の近さに緊張してしまって、私は上手く笑えずにいた。
「…ぷっ!何この引きつった顔!」
「ちょっと!笑わないでよ音にい」
「ごめんごめん!あまりに面白かったからさ」
1枚撮ったその写真は、確かに酷い顔をしている。
そんな私に比べ…音にいの笑顔は眩しすぎる。さすがアイドル、とでも言うべきなのかな。
「音にいってば、ひどい…!人のこと馬鹿にして
!」
「大丈夫だよ、そんな顔も可愛いよ」
「…!」
「ほら涼花!!もう1回撮るよ」
スマホを持った私の手に、音にいの手が添えられる。シャッターを押す指が重なって。それにまたドキドキして上手く顔を作れないでいると、
「涼花」
「音にい、」
「ほら…笑って」
隣で私を見つめて、優しく微笑む。
その顔に自然と肩の力が抜けて。
「はい、チーズ!」
満面の笑顔の私と音にいが、写真に収められた。
────
「あ、あそこのソフトクリーム屋、まだあるんだ」
「本当だ!小さい頃食べたよね」
「涼花、アイス食べてよくお腹壊してなかった?」
「うっ…む、昔はね!」
「それなのに絶対食べるって聞かないからさー、寮母さん困ってたよ」
「今は大丈夫だもん!」
じゃあまた買おうか、と言う音にいの提案で、ソフトクリームを食べながらひまわり畑の周りを音にいと並んで歩く。
懐かしいなぁ。昔は子どもだったし、寮母さんとかみんな一緒だったけど、それでも音にいが傍にいてくれるだけで幸せだった。
それが今、音にいと二人で歩いている。
ほんの数日前には想像出来なかった状況…その幸せを改めて噛みしめていた。
「音にいもここ来るの久々?」
「うーん…そうだね。でもあの日からまた二回来たよ。だから今日が四回目」
「あ!仕事とか?」
「撮影と、プライベートで一回ずつかな」
プライベート…。
春歌さんと来たのだろうか。
居酒屋で見たキスの映像が頭の中で再生される。
「…涼花」
「あっ…」
「大丈夫?やっぱりお腹痛くなった?」
思わず足を止めてしまった私に振り返り、音にいは心配そうに私を見つめた。
「…ううん!なんでもなーい!」
なるべく、明るく振る舞わないと。そう自分に言い聞かせる。
音にいに余計な心配かけちゃだめだ。
そう、私はただの幼馴染。
久しぶりに再会して、お互いちょっぴり浮かれて遊びに来ているだけの関係。
「ね!そろそろ帰ろ」
だって音にいには春歌さんがいるのだから。
「…俺まだ時間平気だよ?」
「音にいは人気アイドルなんだから。あんまりフラフラしちゃダメだよ」
一緒にいたいのに、いられない。
やっぱり…昔とは何もかも変わってしまったんだ。
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