学校へ行こう 草side



学校へ行こう



「草ちゃん。朝ご飯出来たよー」
「ありがとうございます」
制服を着てネクタイをきっちり締めた草は禎のノックに顔を出し、下のリビングに下りてくる。

「無事入学できてよかったですね」
「うん。とりあえず…おちても公立行く気はあったんだけどね…」

草は食卓に顔を向けて笑みほころぶ。

「美味しそうです」
「そうかな。普通だけど。てか草ちゃん普段は朝何を食べていたの?」
ご飯と大根のお味噌汁、それに鯵の開きに昨日の残りのおひたしと出汁巻き卵。
ホカホカご飯の湯気は幸せを感じさせてくれる。

「朝はサンドウィッチくらいでしょうか?」
「コンビニの?」

禎の言葉に決まり悪げに頷く。

「草ちゃんお買い物とかもあんまりしたことないんだっけ?」
「コンビニはよく行っています」
「………」

禎は肩をすくめてはぁと息をつく。

「そういうの、信じられない…。とにかく俺と生活するからには、ご飯は基本つくるからね」
びしっといわれて草も頷く。

「では俺からもひとついいですか?」
「なーに?」
「食事は基本一緒に。食べれない時は連絡ください」
「連絡ってどうやって」
「禎さん…携帯は?」
「もってないけど」
「今日の帰りつくりに行きましょう」
「えー。いらないよ」
「入学祝です。ないとなにかの時に連絡に困りますから。今まで気がつかなかったなんて」
草は気がつけなかった自分に呟きながら吐息を吐く。
「だっていらないもん。それより草ちゃん、お味噌汁おいしい?からくない?」
「美味しいです。とても」

禎は見るからにほぉっとうれしそうに息をついた。

「よかったー。草ちゃんいろんなおいしいもの食べてそうだったから口にあわないといけないと思って。俺料理って言っても我流だからさ」

「美味しいです。禎さんと一緒に食べるとよけいに美味しいです」

にっこりわらう草に、禎はちょっとわたわたっとする。

「そ、そんなこと言われた事ないよっ。母さんくらいにしかって、母さん以外に料理作った事もあんまりないんだけど…」

禎は動転しているのか目をそらして呟く。

「俺は学校の寮とか大人数で食べたり、あとは実家で一人が多かったので、こうして食卓を誰かと囲むのはとても嬉しいと思います」
「まぁ…そう思ってくれるなら、俺も嬉しいけどさ」
禎は頬を染めてこりこりと鼻の頭を掻いた。

「制服は合いましたか?」
「んー。ぴったりすぎて困るかな」
「ぴったりで…こまるとは?」
「だって、俺はこれからでかくなる予定だから、ちょっと大きめにって頼んだつもりだったのに、ぴったりだった」
禎は小さくふくれて、鯵の開きを口に運ぶ。

「そうしたらまた作り直せばいいです」
「いいよ。勿体無い」
「よくありません。身体にあわないものを着るのはよくないですから」

話しても感覚の無駄・・・は分かっている。
禎は話をそらした。

「草ちゃん、食べ終わったら洗うからシンクに入れておいて」
「デッシュウォッシャーに入れとけばいいでしょう」
「えー。手で洗うよ」
「そんな事をしている間に行かないと、遅刻しますよ」

草に言われて時計を見て、禎はわーっと慌てた。

「まずっ、初日から遅刻しちゃう」
「大丈夫です。急ぎましょう」

シックなエプロンをはずした禎は、すっきりとした立ち姿をしていた。
「よくお似合いですがネクタイ忘れていますよ」

草が呟くのに、禎は決まり悪げに目を伏せた。
「ネクタイの締め方、わからなかったんだもん」

その言葉に草の唇から笑みがもれる。
「では今夜教えて差し上げます。今は俺が締めますね」
「うん。お願い」
手に持ってきたネクタイを差しだし、禎は顎を上げる。
綺麗な細い咽喉は、まだ咽喉仏も見られない幼さを秘めている。

草はするするとネクタイを器用に結ぶ。

「こんな感じでいかがでしょう?」
「うん、ありがとう」

禎がそう言った瞬間、真直ぐな無垢な笑みに草はついふらふらと、顔を近づけ禎の頬に軽く唇を重ねた。

「え…――な?な――――!!」
パニくり真赤になる禎に草はクスリと笑う。

「行ってきますの後挨拶です。さぁ、行きましょう」
鞄を取り外に歩き出す。
春の日差しはやわらかく、何処までも気持ちよかった。



「では、行ってらっしゃい。禎さん」
「うん。行ってきます」
校門で別れ禎は新入生のグループに、そして草は在校生のグループに分かれる。
良家の子女や子息の集まる学校だけあって、朝はなかなか壮観だった。
左ハンドルの運転手さんつきの車がずらりと並び、仕立ての良さそうな服に身を包んだ保護者達が愛し子と睦まじくはなしている。
こんな時、ぽつんと孤独を感じるが母は海外だし、草ちゃんもいるしときを引き立てる。
「新入生はこちらで説明受けてください」
「はーい」
禎が慌ててぱたぱたと走ってゆく。

そこで草と逢い、あれっと首をかしげる。
「どうしたの?草ちゃん」
「俺は生徒会役員なので、お手伝いをしています」
「へぇ…」
「大丈夫ですか?困った事はありませんか?」
「へーき」
だけど…さっきまで寂しかった…。
という事は飲み込んでおく。

「そうですか。よかったです」
にっこり草が笑う。
禎はその笑みに笑みを返すがなんとなく、視線が刺さっているような気がする。

「では、持ってゆく入学の手引きはこちらです。チャペルに集合になっていますから」
「…うん」
「席はクラス別に…いえ。案内しましょう。島崎先輩、後お願いします」
「ああ、わかった。早く帰ってこいよ、草」
「はい」

草は禎に校内を案内しながら歩いてゆく。

お金持ちの学校…としか知らなかったが、ミッション系の高校らしくチャペルや中庭には聖母マリア像が置いてあり、校章は百合の花があしらわれている。

「あちらには学食のカフェテリアがあります。パソコンは事業でも使う場合があるので操作になれておいてくださいね。あとは…部活動は決まっていますか?」
「うん…いちおう、バトに入ろうと思っているけど」
「うちの学校はバトミントンはそこそこ強いですから、頑張ってくださいね」
「うん…ねぇ、草ちゃん、視線が痛くない?」

ぐさぐさ刺さってきている視線を感じる禎は問うが、草は首をかしげる。

「いいえ。禎さんが可愛らしいからでしょうか?」
禎はむぅっとふくれる。
草は何かというとその言葉をだしてくる。

「可愛い可愛い言うなー!」
「まるで子リスや子ウサギのようにかわいらしいじゃないですか」
「他人を小動物扱いしてっ」

ぷんぷんと怒る禎に、草はくすくすっと笑う。

「さ、つきました。ここですクラス別にはなっていますが、席はクラス内であれば適当で平気ですから」
「うん。ありがとう」
隣に座る男子に草は頭を下げる。
「禎さんを、よろしくお願いします」
見知らぬ男子はあわてたようにうなずいた。

「え、俺?ん、うん!」
「草ちゃん、保護者じゃないんだから、恥ずかしいことしないでよー」
「保護者です。禎さんの。国内唯一の」
「ただのお兄さんでしょ!」

禎の言葉に、草は目を見開く。

そして禎の手を取る。

「え、なに?俺、なんか変なこといった?」

目を輝かせ草は禎を覗き込む。

「もう一度いってください。お兄さんって」

「やだよっ」
ぷいっと横を向く禎に草は残念そうに首をかしげる。

「そうですか。とにかく、すみませんが禎さんのことよろしくお願いいたしますね」
丁寧に禎の変わりに頭を下げて、草は禎の席から去って行く。

「面白い、兄さんだな」
隣の学生はにっと笑った。
「うん…。ん。そうかな」
「よろしく、俺山崎」
「よろしく。俺、白石」

こうして、禎の高校生活が始まった。

END 2010 28



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