voice of mind - by ルイランノキ


 アーテの館12…『腰が抜ける』

 
「ここは……何階でしょうか……」
 
ルイはとある階の隅に設置されている檻の中にいた。その檻の中には屍が何体か横たわってる。更に部屋には大きな魔物がいた。助けてもらうにはこの魔物を倒さなければならないようだ。魔物の首に、鍵がぶら下がっていた。試しに檻の中から攻撃を試みたが、檻の中では魔法が使えなかった。
 
その頃2階では1階から2階へ上がる階段で頭打ちにあっているアールたちが部屋で苛立っているキマイラに苦戦していた。階段とそのすぐ手前の板は安全地帯になっているが、2階を通る以外ルートはない。
 
「面倒だが階段からタイミングを見計らって少しずつ攻撃を仕掛けていくしかないな」
 ベンはそう言ってキマイラの様子を窺った。
 
シド、ベン、ヴァイスによって遠距離攻撃でキマイラの体力を少しずつ削っていった。攻撃されそうになるたびに階段へ逃げ込み、かっこいいとは言えない戦い方に気分は最悪、苛立っていた。
アールも魔法攻撃を使えるようになってはいたが、タイミングを計って即座に攻撃を仕掛けるというスムーズな動きはまだ出来ない。回復薬を両手に抱え、サポートに回った。
カイの武器はブーメランだ。階段で振り回すには狭すぎる。
 
現れたキマイラは回復力も高く、ダメージを食らわせてもすぐにまた回復してしまい、休む暇なく攻撃を畳み掛けるしかなかった。結局30分以上かけて戦闘不能にし、回復薬を飲んで改めて階段から部屋に移動した。
戦闘不能になったキマイラは役目を果たし、姿を消した。
 
「さて……どうする」
 と、額に汗を滲ませるベン。
 
回復薬がだいぶ減ってしまった。
 
「【D】から【G】に移動しても、そこからいける【F】はここに戻ってきちゃうし、【C】はまた魔物が現れたら厄介だよ。進めない」
 アールはそう言って残りの板を見遣った。
「飛び越えるしかないねぇ」
 と、うなだれるカイ。
 
板は階段側から見て縦長だ。彼らのジャンプ力なら横になら簡単にひとつの板を飛ばして飛び越えることが出来るだろう。縦は少し助走がいるが、ヴァイスなら問題ない。
 
「横の【D】を飛び越えて【E】に行こう」
 と、アール。
「アールが行くの?!」
「さっきなにも出来なかったから」
「私が行こう」
 と、ヴァイス。
「待って。ヴァイスは縦に飛び越えなきゃいけないところをお願いしたいから」
「……わかった。用心しろ」
「うん、気をつける」
 
そうは言っても、なにが起きるのかわからないのだから躊躇する。2歩下がり、せーので跳んだ。しかし、【E】地点ではなにも起きなかった。安全地帯ということだろうか。
次に渡れるのは【F】と【I】。【F】はスタート地点へ戻されるため、【I】を選んだ。
 
右足が【I】の板の上に入った瞬間、魔法円が浮かび上がった。ひやりと背中に嫌な汗が滲んだが、体はもう渡りきる体勢だった。──やばいかも。
 
「アールッ!!」
 ヴァイスとカイが叫んだ。
 
足が床に着いた瞬間に頭上から重い音がしたが、確認する前に飛び込んできたヴァイスに抱き抱えられて【F】地点へ飛び込んだ。そしてスタート地点へ戻ってきた。一瞬の出来事に、全員が息を飲んだ。アールは状況を理解するのに間があったが、【I】地点に目を遣り、ぞっとした。その場所だけに落ちてきた針天井がゆっくりと上がってゆく。串刺しになっていたかと思うと心臓がバクバクと鳴った。
 
「……大丈夫か?」
 と、手を差し伸べて立ち上がるヴァイス。
 しかしアールは腰が抜けて立てなくなった。
「ごめん……腰が……」
「俺ならちびってる」
 と、カイ。
「【I】は針天井か。ん? あとはどこだ?」
 と、ベン。
「【B】です。あそこ」
 アールはへたり込んだまま指差した。
 
【B】は一番右の奥。
 
「ヴァイス行ける?」
「やってみよう」
「でもさぁ」
 と、カイ。「ヴァイスだけ行けてもしょうがなくない?」
「それは後で考えよう。まずは安全かどうか調べなきゃ」
 
ヴァイスはなるべく助走距離をつけた。低く跳んで奥まで行く必要がある。いつもは高らかに飛んでみせるが、天井があってそうもいかない。思い切り床を蹴って跳んだ。滑るように着地し、すぐに体勢を整えて構えた。魔法円に包まれたヴァイスは、3階へ上がる階段の上に移動した。
 
「やった!」
 と、アール。
「【B】から階段か。問題はどうやって全員そのルートを通るかだな」
「踏まなきゃいいんだよね」
「簡単だ」
 と、口数の少ないジョーカーが歩み出た。「【D】から【G】へ移動し、【G】から【C】を飛び越えて【B】行けばいい。縦ではなく横に飛び越えるのだから容易だろう」
「確かにそうだな。くれぐれも【C】は踏むな」
 ベンがそう言い足して、ジョーカーが言ったルートを辿って階段へ移動した。
 
アールも何とか立ち上がり、階段へ。カイだけはハラハラさせられた。ブーメランが重いせいで刀を武器としていたときに比べてジャンプ力が落ちていたからだ。危うく着地した瞬間に【C】地点に尻餅をつくところだったが、運よくぎりぎりで魔法円が開いて階段に移動できた。
 
「ブーメラン使わないときはシキンチャク袋に入れておいたら?」
「そうする……」
「ルイ3階にいるかな……」
 と、アールは不安げに階段を上がった。
 

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©Kamikawa
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