voice of mind - by ルイランノキ


 アーテの館11…『2階は厄介』 ◆

 
「無駄働きだな……」
 広間から出てきたシドたちは、武器をしまいながら廊下で待っていたアールたちに目をやった。
「なにかありましたか?」
 と、ルイ。
「魔物がいただけだ。宝箱もない」
 ベンが答えた。
「では2階へ上がりましょう」
 
一行は2階への階段を上がった。
光が入らない薄暗い階段を上がると一見なにもない部屋に出た。なにもないと余計に怪しい。警戒し、階段の前で立ち止まった。
 
「なんだ? なんもねーな」
 と、ジャック。小部屋もない。
 
左奥に、3階へ上がる階段が見える。
 
「お前、進んでみろ」
 と、ベンがジャックに促した。
 
ジャックは短剣を持ち、警戒しながらゆっくり一歩ずつ前に出た。数歩目の足が床に着いたとき、魔法円が浮かび上がった。そして、ジャックは落とし穴に落とされたように姿を消した。
 
「ジャックさん?!」
「やっぱトラップが仕掛けられてるみてーだな」
 魔法円が現れたのはジャックが立っていた範囲だ。部屋全体に、ではない。
 
──と、すぐに階段を駆け上がってくる音がした。ヴァイスが銃口を向けたが、息を切らしたジャックだった。
 
「下の……広間に落とされた……。先に魔物を退治してくれていたお陰で助かった……」
「…………」
 ヴァイスは静かに銃を下ろした。
「1階に落とされる……」
 と、アール。
「別の場所を歩けば別のトラップがありそうだな」
 ベンはそう言って床を眺めた。「大きい床板を嵌め合わせた境目があるな。もしかしたらその板ごとにトラップがあるんじゃないか?」
「だとしたら全部で……9つ。僕らが今立っている安全地帯を含めれば10ありますね」
「試してくしかないよね」
 と、嫌々ながら言うアール。
「問題は誰が行くか、ですね」
 
ジャックは落とされたときに痛めた腰を摩った。
 
「俺が落ちたのは目の前の板だ。それを避けるとなると隣の板しかないな」
「なにが起きるかわかんないなんておっかないねぇ」
 と、カイ。
 
板の並びは、アール達がいる場所から見て横に3列、縦に右から3・2・3・2だ。3つの板がある列は真ん中の板が長く、上下の板は半分ずつの長さ。2つの板があるところは、同じ大きさの板が並んでいる。
 

 
「僕らが今立っている階段の前の板は安全地帯ですから、その奥の、ジャックさんが先ほど進んだ場所を【A】としましょう。さらにその奥を【B】、その左横を【C】、下を【D】…と見ていって、【A】は避けてこちらの【D】を通ってみましょうか」
「ヴァイスんひとっ跳びで【B】まで行けないの?」
 と、カイ。
「どうだろうな」
 と、天井を見上げる。距離としては問題ないが、高さが微妙だ。
「立ち往生していても仕方がないので僕が行ってみます」
 と、ルイが名乗り出る。
「大丈夫? 私が行こうか……?」
「大丈夫です。僕になにかあったときは、慎重に他の場所を選んでくださいね」
 
ルイは【D】の板、今いる場所の左横の板へ移動した。足元に魔法円が広がり、【G】地点へ移動した。【G】の板がある場所は3階へ上がる階段下の板の、直ぐ右隣だ。
 
そのまま隣へ移動し、階段へ行きたいところだがそう簡単に行けるとは思えない。けれど。
 
「このまま【H】へ移動してみますね」
「AとかBとか言われると俺余計にわかんなくなっちゃう」
 と、カイ。
「階段下の板に移動してみるってこと」
 と、アール。「気をつけてね!」
 
ルイは笑顔で応え、一歩横に移動して【H】の板を踏んだ。魔法円が現れ、ルイの姿が消えてしまう──
 
「ルイ?!」
 思わず駆け寄ろうとしたアールの腕を、ヴァイスが掴んだ。
「落ち着け。トラップだらけだ」
「でもっ……ルイはどこに行ったの?!」
 
しばらく待ってみたものの、戻ってくる気配はない。携帯電話を取り出したアールだったが、ここも圏外だ。連絡が取れない。
 
「進むしかないな」
 と、ベン。「【G】地点から別の板へ移動する」
 
ベンはルイが辿ったように【D】から【G】へ移動した。問題はそこからだ。選択肢は2つ。階段とは逆隣の【C】か、同列の真ん中の板【F】だ。
 
「【F】って部屋の中心に一番近いからなんか怖いよね、端よりなんか起きそうで」
 と、アール。
「わかる。なんだろ、このなんか嫌な予感的な」
 と、苦い顔をするカイ。「でもあえて【F】でお願いします」
「なんでよ!」
「だってどうせ誰か行かなきゃいけないかもしんないじゃん。俺やだもん」
 
会話を聞いていたベンは、迷ったあげく【F】を選んだ。【C】を選ぶのは逃げているようで嫌だったからだ。床に魔法円が浮かび上がり、再び移動した。しかし移動したのはアール達が立っているスタート地点だった。
なんとなく、ほっとする。
 
「戻ってきちゃったねぇ」
 と、ガッカリなカイ。なるべく厄介な板は組織の連中に請け負ってほしい。
「もう一度行って【C】へ進もう」
 ベンは同じ順を辿り、【C】へ移動。
 
全員が一斉に武器を構えた。なぜなら床に現れた魔法円はベンがいる場所だけではなく、部屋の中央に一回り大きく出現したからだ。
 
「いやーな予感がしますねーえ」
 と、クラウン。
 
その予想は的中。魔法円から魔物が現れた。それもホワイトメイズで戦ったキマイラである。
 
「クソッ」
 と、シドがキマイラの背後に回ろうと走り出してしまった。
「シド!!」
 アールが声をかけたときには既に遅し、【A】の板を踏んだシドは1階へ落とされてしまった。
「下手に動けないじゃん!!」
 と、絶望的なカイは階段に非難したが、苛立ちながら駆け上がってくるシドの気配に気付いて端に寄った。
「めんどくせーなクソッ!!」
 と、戻ってきたシド。
 
ベンがタルワールを構え、攻撃を仕掛けた。魔物を呼んだ【C】地点から魔法攻撃を放ち、反撃される瞬間に斜めに飛んで【A】地点に着地、1階へ落ちたことで免れた。
ヴァイスがキマイラの目を狙って銃弾を放つも、避けられて突進してきた。
 
「下がれ下がれ下がれッ!!」
 と、シドが叫んで階段へ押し込まれたアールたち。
 
厄介すぎる。ルイもいない。アールは途方に暮れた。
 

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