voice of mind - by ルイランノキ


 アーテの館10…『くちひげ』 ◆

 
アーテの館 1階。
足を踏み入れると4つの部屋が横に並んでいる。そのさらに奥には、右側に、横に広い部屋がひとつ、奥にはスペースがあって右側に階段。左側には4部屋並んでいる手前の部屋と同じ大きさに部屋が2つ、奥には広間がある。それぞれドアが閉まっている。
 

 
「一部屋ずつ見てくか」
 と、シド。1階にある部屋は広間を含めて8部屋だ。
「手分けしましょう。僕たちは右側の2つの部屋、シドさんたちは左の2つの部屋を」
 
門口に近い4つの部屋を見て回った一行。一番右端の部屋には宝箱があった。中身は万能薬。中央の2つの部屋にはなにもなく、左端には小さな台に茶色い壷が飾られているだけだった。
廊下を進んで奥に回り、アールたちは右の横広い部屋へ。シドたちは左側の二つの部屋を見て回る。
 
「魔物です」
 と、先に部屋を覗いたルイが注意を促した。
 
魔物はグランモルモート。これまで出会ったモルモートより強くて体格も大きい。その傍らには宝箱があった。
 
「戦うにはちょっと狭いけど」
 と、アールが歩み出ると、グランモルモートは勢いづいて突進してきた。
 
一方、三部隊が調べた2つの部屋には絵画が飾られているだけでなにもなかった。宝箱も魔物もいない。部屋を出て、廊下の先にある部屋を見遣った。アールたちが調べている部屋だ。
 
「なにかあったようだな」
 様子からそう言ったベン。
「広間見るか」
 と、シドはアールたちを待たずに廊下を曲がると、広間と階段の間に広いスペースがあり、2匹の魔物が待機していた。
「俺がヤる」
 シドはそう言って一人で討伐した。
 
「魔物がいなかった部屋の宝箱には万能薬が入っていて、魔物がいる部屋の宝箱には単なる栄養ドリンクってどういうこと?」
 と、グランモルモートを倒したアールは宝箱の中身を見てため息をついた。
「一日の栄養がこれ一本で補えるのです」
 と、シキンチャク袋にしまうルイ。
「エロ本のほうがいい」
 カイは呟きながら部屋を出た。
 
ルイは最後に部屋を出ようとしたが、振り返ってグランモルモートを眺めた。
 
「どうしたの?」
 と、アール。
「少し待っていてもらえますか。売れる部位を手に入れておこうと思いまして」
「あ……うん」
「手伝おう」
 と、ヴァイスが部屋に入った。
 
アールはカイと部屋の外で待機する。これまでに数え切れないほど魔物を殺してきた。それなのに耳を削り取ったり爪や皮を剥いだりすることに対して直視できず、残酷だと感じるのは何故だろう。複雑な表情で壁に寄りかかった。
カイは退屈しのぎに廊下の奥を覗いた。階段の下に魔物が2匹息絶えている。そして、広間の扉が開いていた。魔物の声と物音がする。
 
「ムスたちがんばってる」
 と、アールに言う。
「ムス?」
「組織の連中」
「ムスタージュ組織だからムス? そういえばムスタージュってどういう意味なんだろう。誰かの名前なのかな」
 と、なんとなく言ったアールに、
「口髭」
 と、カイは答えた。
「うそばっか!」
 と、アールは笑った。
「ほんとだって。ルイに訊いてみるといいよー」
「え、ほんとに口ひげなの? 口ひげ組織? なにそれ」
「おまたせしました」
 と、ルイとヴァイスが部屋から出てきた。
「ねぇルイ、ムスタージュってどういう意味?」
「口ひげでしょうか」
「ほんとにそうなの?!」
「だから言ったじゃーん」
 と、カイ。
「えーなんか……ショック」
 
意味があるとしたら、暗黒とか、闇の……とか、その辺をイメージしていた。それがまさかの口ひげだ。
 
「口ひげを意味するムスタージュというのは、昔シュバルツの下で働いていた者たちの事を呼んでいた言葉だそうです。シュバルツが体内に魔物を取り入れ過ぎて魔物化する前は黒い髭面の男だったと聞きます。それで彼の研究などに手を貸していた者たちのことを、外部の人間はシュバルツの特徴である口ひげ、ムスタージュ組織と呼ぶようになったとか。──彼らはその名前を受け継いだのではないでしょうか、憶測ですが」
「なるほど……ちゃんとした意味があってよかった。でも詳しいね」
「ムスタージュ組織という名前がユニークだったので以前ネットで調べたら、出てきたのです。もちろん今の組織に関しては全く情報を得られませんでしたが」
 

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