voice of mind - by ルイランノキ


 アーテの館9…『普通に』

 
キャバリ街の宿に戻ったアールとルイは、カイもヴァイスもいなかったのでルイはヴァイスに、アールはカイに電話をかけた。
 
ヴァイスは電話に出ると10分後に戻ると言ったが、カイはなかなか出ず、2度かけなおした。ようやく出たカイはどこに行っていたのか居場所は言わず、今から戻るとだけ伝えて電話が切れた。
 
「どこに行ってるんだろう」
 と、首を傾げる。
「めずらしいですよね、カイさんが一人で出かけるのは」
 と、ルイは時計を確認した。
 
午後2時過ぎ。
 
「お腹空きましたね。食べて帰る予定でしたがあまりにも人が多かったので断念してしまいました。おにぎりでもよければすぐにできますが」
「うん、ありがとう」
 
カイが宿に戻ってきたときには、アールとルイは昼食を済ませ、ヴァイスも戻ってきていた。すぐに出かけられる準備も済ませている。
 
「どちらへ?」
 と、ルイ。
「ちょっとね……」
「カイさん、何を隠しているのです?」
「別になにもー」
 と、部屋に立てかけていたブーメランを背負った。
 
ルイはカイの前に立ち塞がった。アールが心配そうに見ている。
 
「カイさん。話してください」
「しつこいよもー…」
「シドさんの一件もあります。仲間を疑うようなことはしたくありませんが、隠し事をされると心配になります」
「どういう意味だよぉ。俺も組織の人間でこそこそなにかやってるとでも言いたい訳ぇ?」
 と、不服な表情を浮かべた。
「違うなら話してください」
「…………」
 
無言で見合う二人を見かねて、アールが間に入った。
 
「カイ、ただ心配なの。色んなことがありすぎて私も人間不信になってるとこあるけど……カイ最近元気ないからそれが一番心配なの」
「…………」
「話せないこと?」
「シドが組織の人間だった。それがショックなだけだよ」
 と、アールを押しのけて部屋を出て行った。
 
アールは肩を落とした。なにか隠しているのは確実だった。
 
「問い詰めても話しそうにありませんね」
「ルイ、さっきのほんと? 仲間を疑うようなことはしたくありませんが、って……カイを疑ってるの?」
「いえ。そう言えば話してくださるかと思っただけです」
「そっか、よかった……」
 
でも確かにここまで頑なに隠されると、不安になる。私たちに相談できないことだろうか。それをカイひとりで抱えているのかな。
 
「ヴァイスはなにか聞いてる……?」
「いや。」
「そう……」
「とにかく、シドさんたちを待たせているかもしれませんので、アーテの館を探しましょう」
 
アーテの館の場所はルイがシドに連絡を取ったことでわかった。けれども電話越しにでもその声のトーンでわかるほどかなり不機嫌だったことが気に掛かる。訊こうにも、電話は切れてしまった。
 
少し道に迷いながら、大雑把に説明されたアーテの館へとたどり着く。
その外壁に思わず目を奪われてしまうのは美しい女性の裸体が描かれているからだろう。
 
「なんでみんなすっぽんぽん?!」
 と、これまで元気がなかったカイも、目に輝きが戻っている。
「この館の持ち主の趣味かもしれませんね」
 と、ルイはあまり直視しない。
 
アールはちらりとヴァイスを盗み見た。ヴァイスは無表情で壁画を眺めている。──ヴァイスもこういうの好きなのかな。
 
裸で地面に座っている女性、木に寄りかかる女性、天を仰ぐ女性、抱きしめあう女性……と、全部で5人描かれており、ポーズは様々だ。その壁画は敷地への扉を挟んで左右対称にある。
 
「入りましょう、シドさんが不機嫌だったのが気になります」
「えー、俺っちもっと見てたい。あ、写真撮ろうかなぁ」
「そんな暇ありませんよ」
 と、重い扉を開け、敷地に足を踏み入れた。
 
ヴァイスが最後に踏み入れると、またも自動で扉が閉まった。ルイが扉に触れてみるも、中からは開かなくなっている。閉じ込められたということだ。
注意深く周囲を見回すと、膝下まで生い茂っている草の中に骨と化した屍が点々と転がっていた。
 
「ひぃいいぃ!」
 と、アールにしがみ付くカイ。
 
いつものカイに、アールの表情が綻んだ。
 
「ここまでいくと人間って感じがしないから平気だったりする」
 と、アールは頭蓋骨を眺めた。「触れはしないけど」
「こうなるまでの過程が嫌だよねぇ……」
「うん。生々しいほど苦手……」
「我々もこうなるかもしれないな」
 と、ヴァイスが呟くと、アールとカイは泣きそうな顔で彼を見遣った。
「怖いこと言わないでよ!」
 
カイとアールが声を揃えて言った瞬間、館の裏からガザガザと草を掻き分けて何かが近づいてくる音がした。一同はいっせいに警戒心を向けたが、裏から姿を見せたのは先にこの館へ足を踏み入れたシドたちだった。
 
「シドさん……中に入られたのではなかったのですね」
 ルイの問いに、シドは答えなかった。
 代わりに答えたのはベンだ。
「入ろうにもパスワードがわからない。探しているんだがな」
「パスワード?」
 と、アールたちは館の門口に近づいた。
 
小さな横長の数字錠ならぬ魔法文字錠がついている。文字を回して5つの文字を揃える必要がある。
 
「…………」
 アールは小首を傾げた。
「文字らしきものは見当たらないのですか?」
「あぁ。表は散々調べた。裏に回ってみたが、死体が転がってるだけだ」
「魔法文字でFonce……じゃないの?」
 と、アール。
 
全員がアールに目をやった。
アールは魔法文字錠に手を伸ばし、文字を揃えていった。最後のeを揃えると、その瞬間にガチャリと鍵が外れる音がして扉が開いた。
 
「…………」
 アールはなんともいえない表情を浮かべる。
「なぜパスワードを知ってるのです?」
 と、ルイ。
「どこかに書いてあったか?」
 と、ベン。
 
全員が不思議そうにアールを見遣るが、アールは目を細めて振り返った。
 
「全員……どこ見てたの……? 外壁に描かれてた女性の髪の毛のところに書いてたんだけど。普通に。結構わかりやすく」
「…………」
 
男共は咳払いをし、目を泳がせた。
まぁ、男は髪の毛よりも別の場所に目がいってしまうのも無理はない。
 

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