voice of mind - by ルイランノキ


 アーテの館3…『アーテの館』

 
時刻は午前8時。
アールはペンの蓋を閉めて「よし!」と、バースデーカードを見遣った。
 
《お誕生日おめでとう!ワオンさんとの新婚生活はどうですか? 惚気も愚痴も、いつでも聞くからね☆ いい一年になりますように! アール》
 
《お誕生日おめでとうございます。ミシェルさんにとって素敵な一年になるよう、祈っております。 ルイ》
 
《たんじょうびおめでとー!! ワオンっちに飽きたら俺がデートしてあげるね! カイ》
   
「──ヴァイス、ってあれ? 逃げた?」
 いつの間にか部屋からいなくなっている。
「今しがた部屋を出て行かれましたよ」
「んもう!」
 と、ペンとカードを持って部屋を出た。廊下の奥にヴァイスの姿を見つけ、呼び止めた。
「ヴァイス!」
「…………」
 
ヴァイスは観念したようにため息をついた。アールがムスッとしながら走ってきて、目の前にカードを突き付ける。
 
「書いてってお願いしたでしょ? 結婚式にも出たんだし、顔見知りなんだから」
「……そうだな」
 ヴァイスは仕方なくペンを取り、サラサラとメッセージを書き入れた。
 
《素晴らしい一年を》
 
「わっ、ヴァイス字綺麗だね、大人の字だ」
「…………」
「名前私が書き入れとくね、ありがと!」
 
満面の笑みでペンを受け取り駆け足で部屋に戻ったアールは、テーブルの上にいたスーにペンを渡した。
 
「スーちゃん文字書けるの?」
 
スーは両手をつくってペンを抱えるように持つと、ぐるぐると渦巻きを描いた。──おめでたさを表現している。
 
「なんじゃこりゃ」
 と言いつつも、アールは笑顔で矢印を引いてスーの名前を書き入れた。ヴァイスの名前も書き入れ、余ったスペースにはミシェルの似顔絵を描いた。
「アールさん絵がお上手ですね。よく特徴を捉えています」
 と、ルイが覗き見る。
「ほんと? ありがと!」
 出来上がったメッセージカードを眺め、満足げに頷いた。
 
ルイの字も、10代の男の子にしては綺麗だった。丁寧に書いたルイに比べ、カイは自由奔放な字を書いている。性格が字に表れているようだった。
アールはワオンに電話を掛けなおし、住所を聞いた。表記がわからなかったため、ルイが代わりに書いてくれた。後は切手を貼ってポストに出すだけだ。
 
「確かゲートへ向かう途中にポストがありましたので出してから行きましょう。──カイさんはお留守番で大丈夫ですか? 昼食を作っておきますね」
「別にいいけどさー」
 と、ゴロンとベッドに寝転がる。
 
やはり元気がない。いつものカイなら、絶対に行くとダダをこねるのに。アールと一緒がいい、綺麗なお姉さんに会えるとなるとテンションが上がる、そんなカイはどこへ行ってしまったのだろう。
カイの元気がなくなったのは、いつからだっただろう。
 
「9時前には出ましょうか」
 
アールはせっかくのコンサートなのだからといつもの防護服から着替えようか悩んだが、着ていく服もこれといって持っていないため、いつもの格好で行くことに決めた。どんなコンサートになるのだろう。人は多いだろうか。
 
━━━━━━━━━━━
 
森の中へ続く道を会話もなく歩み進めているのはシドがいる三部隊だった。午前7時にはキャバリ街を出てアーテの館へ向かっていた。
アーテの館への行き方はキャバリ街の居酒屋にて簡単に情報を得ることが出来た。ただ、全員が口を揃えて「一度入ったら出られない」と警告をした。もちろんそんな脅しにたじろぐほど肝は小さくない。第一の鍵を手に入れたときもあの地下道に入った者は二度と出てこないと言っていたが意外にも簡単に鍵を入手して出てくることが出来た。
“素人”には難しいダンジョンも、彼らにとっては朝飯前である。
 
貰った手書きの地図を片手に暫く歩き進めると、高さ6メートル程ある外壁に囲まれた5階建ての古びた館にたどり着いた。出入り口はさび付いた頑丈な鉄の扉がある。鍵は掛かっておらず、微かに開いていた。敷地内には草が無造作に生えている。長らく誰も踏み入れていないのがわかった。
 
「そそる壁だねーぇ」
 と、クラウンは外壁を見上げた。
 
外壁には何人もの裸の女性が描かれているが、長い年月雨風に晒されて薄く色あせている。
一行はそれぞれ武器を片手に敷地内へと足を踏み入れた。重い扉が開かれ、一番最後にジョーカーが敷地に足を踏み入れた瞬間、自動的に扉は閉ざされた。
 

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©Kamikawa
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