voice of mind - by ルイランノキ


 相互扶助14…『オルトロス』

 
「アールだけずるい……俺もこんなの通りたくない!」
 そう言いながらもルイのコートの裾を掴んで大百足の背中を渡るカイ。ゴムの上を歩いているような感覚だ。
 
突き当たりの手前で左へ入る道がある。警戒しながら覗き込むと、又頭の大犬・オルトロスが眠っており、その奥に小さな箱があった。
 
「一先ず向こうの道も見てみましょう」
 魔物を起こさないように戻り、突き当りの、大百足が待機していた道を覗き込んだ。
 
そこは道が一回り広くなっており、突き当たりの壁には3×3のパネルがあった。ルイたちが見つけたパズルに似ているが、ここのパズルにはなんの絵柄もない。そしてその右下には上を指す矢印と、Cと書かれた鍵穴があった。
好奇心旺盛なカイがそのパズルに手を伸ばし、適当に触れてみた。中心のマスを押してみると、凹んだ。
 
「ん??」
 隣のマスを押してみると凹んだが、はじめに押したマスと一緒に元に戻ってしまう。
「おそらく押す順番が決まっているのでしょう」
 と、ルイ。「この壁の向こうに第一の鍵があるのかもしれません」
「戻ってオルトロスを倒そう。Bの扉の先へも行く必要がありそうだ」
 ベンがそう提案した。
「そうですね。オルトロスはケルベロスよりは劣ると言われていますが、地域によって強さが異なるので協力し合いましょう。あの箱に鍵が?」
「あぁ、Aの鍵も同じ箱に入っていた」
「俺待機してていい?」
 と、カイ。
「えぇ、そんなに広くはありませんから全員立ち向かうとなると身動きが取れなくなりますからね。僕が魔法攻撃と必要であれば回復も」
「シド、お前は?」
「黙って見てるわけねぇだろ」
 シドは刀を抜く。
「なら他はどうする」
 と、ベン。
「ヴァイスさんは飛び道具です。通路にいて必要であれば後ろから援護を」
「わかった」
 
ベンはシドと顔を見合わせ、一気に斬りかかった。その気配に気付いたオルトロスが咆吼を上げ、体勢を起こして後ろ足で地面を蹴って飛び上がった。寝起きとは思えない。
 
階段で待機していたアールは魔物の咆吼と微かな地面の振動を感じ、顔を上げた。
 
「戦ってるのかな……行ったほうがいい?」
 水に浸かっているスーを見遣る。
「でもスーちゃんも見たでしょ? あの大百足。名前を口に出すだけでも寒気がする……」
 
するとスーが体を縦に伸ばして平たくなると、左右から無数の足を作って百足の形になった。うねうねと足を動かしてみせる。
 
「やだ気持ち悪いッ!!」
 思わずコップを放り投げてしまい、スーが階段の下に転がった。
「あ、ごめん! ていうか嫌だって言ってるのにやめてよ! 意地悪っ!」
 スーは階段下で元の丸い形に戻ると、拍手をした。
「なんで拍手なのよ……謝るときは手を合わせなさいよ……」
 と、階段を下りてコップを取りに行った。
 
スーはパチンと手を合わせた。──ごめんねと言っている。
 
「ほんと嫌だからやめてね。蜘蛛も」
 と、手を差し出し、スーを肩に乗せた。
 
オルトロスの鉤爪がベンの防護服に引っかかり、ベンは大きく転倒した。首に噛み付こうとしたオルトロスの目の前をシドの刀が通り過ぎる。オルトロスの気を引き付けたシド。その隙にベンは立ち上がり、地面に落とした武器・タルワールを拾い上げ、背後に回る。
 
「…………」
 カイは大百足が息絶えている通路で待機しながら、無言で隣に立っているジョーカーを見上げた。
「…………」
 ジョーカーはカイの視線に気付いて黙ったままカイに目をやった。
「……そのお面ってさぁ、どこで買ったの?」
「……特注だ」
「へぇ……。息苦しくないの?」
「……慣れている」
「ふーん……素顔どうなってんの?」
「そいつは」
 と、クラウンが間に入った。「ツンツルテンだ」
「禿げてんの?」
「顔の皮膚がな。昔大火傷を負って気味の悪い顔をしてるのさ。あ、すまない、見てしまったことがあってねぇ」
 クラウンは慌ててジョーカーに謝った。
「…………」
「ふーん……。ていうか俺、お前のこと許してないからね? いきなり現われてさーあ」
「ならここで決着をつけるかーい?」
「断る。今はそれどころじゃないし。でもあのときシドにやられたってのに、よく仲良くしてるね。同じ組織の仲間だと知った途端にさ」
「…………」
 クラウンは口を閉ざした。
 
ヴァイスは自分の出番はないだろうとカイがいる通路に出た。彼らの話を聞きながら、何と無しに階段方面を見遣ると、突き当りの門からアールが恐る恐る顔を出して覗いていた。ヴァイスと目が合うと、ハッとして頭を引っ込めた。こちらの様子が気になってはいるものの、大百足の存在があるせいで来られないといったところだろう。そんな彼女に思わずヴァイスは笑った。
 
オルトロスはシドとベンによって片方の首を落とされていた。血を流しながらもまだ食らいついてくる。スピードは落ちたと思い、もう片方の首を落とそうと近づいたベンをオルトロスは体を回転させて蛇のような尻尾で払いのけた。鞭打ちのように払われたベンの身体は軽々と飛ばされて壁にぶち当たった。後頭部を強く打ち、蹲るように頭を押さえた。
ルイが回復魔法で援護する。
 
「緑色とクリーム色が混ざったような液体が切り落とされた首から流れてるの、見た……?」
 と、嫌な顔をしてスーに訊くアール。
 
大百足の死骸を見て吐きそうになった。意を決して仲間の元へ駆けつけようと思ったが、その気も失せるほどのグロテスクさだった。
 
「せめて大人しく待ってよう……」
 と、自分の不甲斐なさに大きくため息をこぼした。
 

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©Kamikawa
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