voice of mind - by ルイランノキ


 相互扶助13…『右の通路へ』

 
額に汗を滲ませたシドたちが、階段下で待っていたアールたちと合流した。ベンがルイに、Aの鍵を渡した。
 
「見つけたのはこれだけだ」
「魔物が出たようですね。回復薬などは大丈夫ですか?」
「問題ない。そっちは随分と涼しい顔をしているな」
「こちらには魔物が出ませんでしたから。ただ、このようなパズルを見つけました」
 と、ノートを見せる。「そちらにはありませんでしたか?」
「隅まで見たがなかったな」
 ベンはそう言って仲間を見遣ると、全員頷いた。
「では、鍵を開けて右通路へ行きましょう」
 と、扉の前へ移動する。
「俺たちが向かった通路にあった左側にも同じ様に閉ざされている道があった。鍵穴は《B》だ」
「また鍵ですか……わかりました」
 
ルイは三部隊が手に入れた鍵を使ってAの扉の鍵を開けた。ギギギ……ときしむ音がして扉が開く。道なりに進み、突き当たりで左へ曲がっているが、その手前にも左へ入る道がある。
 
「どうします?」
 と、ルイはベンを見遣る。
「あんたが決めろ」
「では、先ほど向こう側の外側を回ってもらったので、今度は僕らが外側を回ってみます。道は繋がっていそうですが」
 
三部隊は手前の通路を曲がり、ルイたちは突き当たりを左へ曲がった。ルイはノートに地図を描き足す。道の構図が出来上がってきた。突き当りを曲がると奥まで伸びた道がある。遠くに突き当たりの壁が見え、いくつか左に入る道があるようだが距離感を考えるとベン達が向かった道と繋がっていると思われた。
 
「こっちもあたりだねぇ。魔物いない」
 カイがそう言ったそのとき、ズリズリと何か地面を引きずるような音が聞こえてきた。
 
遠くに見える突き当りの左側から砂埃が舞い、一行がいる通路へ広がってくる。
 
「なにか来ます」
 と、ルイが警戒を強めた。
「やっぱハズレー」
 と、カイ。
 
アールは武器を構えて目を凝らし、突き当りの左側から徐々に顔を出したその魔物に絶叫した。
 
「い"やぁああああぁああぁぁぁぁああぁぁぁッ!!」
 
アールは後ろにいたヴァイスを押しのけて一目散に階段まで逃げていった。それを追いかけるように通路をガサガサと向かってきたのは大百足(おおむかで)である。ルイは顔をしかめてロッドを構えた。カイはすぐさまヴァイスの背中に身を隠し、ヴァイスは銃を構えてルイの端から大百足の額を撃ち抜いたが、一瞬ひるんだもののまた向かってきた。
 
「随分と大きい百足ですね」
  
アールの悲鳴を聞いた三部隊は思わず来た道を振り返った。
 
「向こうにも魔物が出たようだな」
 と、ベン。
 
シドは無言のまま来た道を見つめている。そんなシドに、ベンは言った。
 
「気になるなら行ってこい」
「別に。まぁなんの魔物かは気になるけどな」
 と、タイミングよくアールの声が聞こえてきた。
「ムカデは嫌ぁあああぁぁぁぁああぁぁ!!」
「……大百足か。」
「面白い女だな」
 
ルイは火の初級攻撃魔法フラムを発動させたが、その炎は大百足の上半身だけを覆ってすぐに消えてしまった。大百足のスピードは下がったものの、致命傷とまではいかない。小さな牙が生え揃った口を大きく開けた。ルイは咄嗟に個壁結界をつくって身を守った。大百足は口から蛇のように毒を飛ばしたが、結界の壁に遮られた。
 
ルイが結界を外した瞬間にヴァイスが数発、銃弾を打ち込んだ。通路と同じ幅の大百足は体をねじったが避けられず、体を捻りながら21本ある足をジタバタと動かしながら悶え苦しみはじめた。
 
「俺の打撃じゃ無理そう!」
 と、カイ。
「えぇ……」
 と、通路を振り返るがアールの姿はない。剣で頭を切り落とせば毒を吐くのを止められるのだが。
 
と、そこにシドが隣の通路から姿を見せた。真横から刀振り上げて大百足の頭を斬り落とした。斬り下ろされた大百足は尚も動き続けた。動きがおさまるまで15分ほどはかかった。シドによって撃退できたものの、通路で伸びきっている大百足が邪魔だ。背中の上を通るしかない。
 
「シドさん、ありがとうございます……」
 ルイが礼を言ったが、シドは振り返りもしなかった。
「こっちの通路は分かれ道はあるがこれといってなにもなかった」
 と、ベン。「女は?」
「呼んでこよう」
 ヴァイスがそう言って道を戻った。
 
アールは階段の一番上で小さく丸まって震えていた。その手には剣が握られている。自ら戦う気はないが、ここまで迫って来たら戦わざるおえない。
 
「アール」
 と、階段下からヴァイスが声をかけた。「行くぞ」
「……ムカデは?」
「倒した」
「本当に? まだ動いてたりしない?」
 と、その場からなかなか動こうとしない。
「動いていない。シドが頭を斬り落とした」
「うっ……」
 不快な顔をして、腰を下ろしたまま一段ずつゆっくりと階段を下りる。
「でも……死骸は?」
「…………」
「あるの?!」
「問題ない」
「大ありだよ! 通れないじゃん!」
「上を歩けばいい」
「無理!!」
 と、階段を下りるのをやめた。「ここで待ってる!」
「…………」
 余程苦手なんだなと、ヴァイスは小さくため息をついた。
「ごめん……呆れられてもしょうがないけど、ほんとダメ……見たくもない……」
「わかった。スーとここにいろ」
 
ヴァイスがそう言うと、肩に乗っていたスーがアールの膝の上に飛び乗った。
 
「ごめん……」
 と、いたたまれなくて顔を伏せた。
「誰にでも苦手なものはある」
「ヴァイスにも……?」
 と、顔を上げる。
「私は人ごみが苦手だ」
「…………」
 
人ごみと一緒にするのってどうなの? そう思ったが、ヴァイスはルイたちの元へ戻って行った。
アールはスーを指で撫で、シキンチャク袋から水筒を取り出してコップに水を入れた。まずは自分が飲んでからもう一度注ぎ足し、スーが浸かった。
 
「今度VRCに行ったら虫系と戦う練習する……。見ただけでダメージを受けるとかしゃれになんないよね」
 
落ち込むアールに、スーは拍手をして励ましたつもりだったが水に浸かっているためしぶきが飛び散った。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -