voice of mind - by ルイランノキ


 相互扶助10…『リンドン村』

 
「君たち、どこから来たんだいんどん」
「…………」
 
リンドン村に到着した一行は、出迎えた一人の男性の随分と訛ったしゃべり方に少し戸惑った。ルイが咳払いをし、一歩前に出た。
 
「こんにちは、東の方から参りました。僕はルイと申します。お尋ねしたいのですが、村長さんはいらっしゃいますか」
「村長? 村長はおめー真っ直ぐ行ぐだろん? 右手に畑が見える。更にその向ごう側に、4件家が建っでで、そのうぢの青い屋根が村長のホーツさんの家だろんどん」
 どうやらこのしゃべり方はこの村特有のものらしい。イントネーションは青森弁に似ている。
「どんどんどろんこどんどこどん?」
 と、カイが言ったがルイは取り合わずに続けた。
「ホーツさんですね、ありがとうございます。伺ってみます。──ここは身分証明書など必要でしょうか」
「暴れるようなら必要だがん……こんな辺鄙な村で暴れでも、なにも手に入らんどん、暴れる輩はおらんどろん」
「ではお邪魔させていただきますね」
「おじゃまさせていただぐどん」
 と、カイが続けて言った。
 
リンドン村に建っている家はわずかに10軒ほどだった。村の出入り口の左右に店が並んでいる。左手に手前から防具店、武器店。右側には手前から魔法・アイテム店、アクセサリー店。外を旅する者にとって出入り口から近いのは助かる。
そして出入り口からまっすぐにメイン通路があり、左側には宿、木々で遮られたその隣に住宅街、右側には畑、その隣に住宅、更に奥には小さな木々が植えられ、草も覆われている。あえて開拓していないように思える。
 
ルイを先頭に、一行はリンドン村の村長、ホーツという人物を訪ねた。
村人が言っていた青い屋根の家の前まで来ると、玄関先に30代前半くらいの男性が胡坐を組んで煙草を吹かしていた。
 
「こんにちは。ホーツさんはいらっしゃいますか」
「ホーツなら俺だがん」
 と、立ち上がる。
「村長と聞いていたのでもっと年配の方かと思いました」
「俺のじいさんが村長だったんだが死んじまっだから俺が引き継いだんだどん。親父は早ぐに亡くなってていないからさ」
「そうでしたか。あの、突然すみませんが、若葉村のヴァニラさんをご存知ですか?」
「ヴァニラ……あぁ、じいさんから聞いたことあるんどん」
「ではあなた自身はヴァニラさんをご存じないということでしょうか。この村でヴァニラさんとお知り合いの方はいらっしゃいますか?」
 
ホーツは煙草を吹かし、一行を意味深な眼差しで一瞥した。
 
「人数が多いなぁ」
「え?」
「じいさんから聞いでいたんだどん。ヴァニラという女性を辿っていつかこの村を訪問する冒険者が訪れるだろうと。聞いていた人数とだいぶ違うようだがん、仲間が増えだんか?」
「……えぇ、まぁ、そんなところです」
「少々待ってもらえるか? 連絡を入れて確かめんど、信用できんどん」
 そう言ってホーツは煙草を地面に落とし、足で踏みつけて火を消してから拾い上げ、室内へ戻って行った。
 
「青森弁聞いてるみたい」
 と、アールは言った。
「あおもりべん?」
 と、カイ。
「私の世界に青森県っていうところがあって、方言の訛りが凄いの。似てるなって」
「アールは訛ってないねぇ?」
「私は青森県民じゃないし。大分県」
「おーいたけん?」
「大分弁は、なんしよんの? とか、ちょっとまっちょって、とか」
「ん? まっちょ?」
「ちょっと待っててって言うのを、まっちょってって言うの」
「ほえー、面白い! 他には?」
 
アールとカイの会話を物珍しそうに聞いているのはクラウンたちだ。別世界から来た人間。別世界の話。自然と耳を傾ける。
 
「面倒くさいは、よだきーって言う」
「聞いたことない! アールよだきーって言う?」
「子供の頃は言ってたけど、大人になるにつれてあまり方言は使わなくなったかな」
「なんで?」
「なんでだろう。自然と標準語で話すことが多くなったかな」
 
家のドアが開き、ホーツが顔を出した。その表情はどこか動揺しているように見えたが、すぐに笑顔を向けてきた。
 
「この村には地下があっでの、立ち入り禁止になっとるんだどん。そこの奥に鍵があるっでじいさんが言っでだが、地下に入るんなら武器をそろえておいたほうがいいんでどん」
「魔物がいるのか」
 と、シドが歩み出る。
「そういう噂だで」
「噂?」
 
シドが歩み出たことで、アールがすぐ隣にいた。アールは気まずさを感じて一歩距離を取った。あれほど傍にいて同じテントの中で過ごしてきたというのに、今はもう完全に他人行儀になってしまったような壁を感じる。気安く触れられない距離を感じていた。
 
「これまでに地下へ入っだ人もおったけんど、帰ってきていないんだいんどん。誰かが中に入っで暫くすっど、地響きがして静かになる。待でど暮らせど、戻ってこんどん」
「どんな魔物がいるのかわかんねえってことか。まぁ、問題ねぇけどな」
「念のため、回復薬など揃えておきましょう」
 と、ルイ。「地下への入り口はお近くに?」
「準備が出来たら話しかけてくれたら連れてってやるんどん」
「ありがとうございます」
 
シドたちが武器屋に向かったのを見て、ルイは魔法・アイテム店へ向かった。アールはルイについて歩きながら、気になっていたことを訊いた。
 
「ルイはシドに対して普通だね」
「え?」
「私は……気まずくて前みたいには話せないよ」
「……僕も、シドさんとは距離を感じています」
「ルイも?」
「えぇ。ですが今は気にしても仕方がないので。一日でも早くアリアンの塔を見つけることに専念しましょう」
 
ルイはおとなだなぁと、アールは思った。
わかってはいるものの、 正直、アリアンの塔よりもシドのことのほうが気がかりだった。塔が見つかるまでに、シドの本心を聞き出したいし、ベンの本性も暴きたい。そして、望んでくれるのであればシドを組織から救いたい。
 
アールは武器屋の前で待機しているジャックを見遣った。ちょうど彼もアールに目を向けていた。
 
「…………」
「アールさん? 回復薬は揃っていますか?」
「あ……この前ひとつ使っちゃった」
 と、アールはジャックから目を逸らして店内へ。
「なるべく多めに購入しておきましょうか。属性の魔法を使う魔物がいる場合、それに合った魔道具や武器を揃えていたほうがいいのですが、相手がわからないと困りますね。一通り買い揃えてもいいのですが、次に向かう場所ではもっといいアイテムが売られているかもしれませんし、悩みどころです」
「その属性って、水とか炎とかでしょ? 私が使う剣の魔法攻撃は属性じゃないの?」
「あれは無属性ですね。魔物によっては全く効かない場合もありますが、敵を選らばず無難ではあります」
「属性魔法って私でも取得できたりする?」
「…………」
 ルイは随分と積極的なアールに驚いた。
「……それはまだわかりません。素質があれば可能かと」
 
すると話を聞いていたカイが、店内の棚にあったサルのマスコット人形を手に取りながら会話に入ってきた。
 
「アールの潜在能力は無限大だよ。俺信じてる。これほしい」
「なんですか? それは」
「これを身につけてるとジャンプ力がアップするらしいんだ」
「いりませんね」
「でっかい魔物が現われたとき頭を狙うにも届かないじゃん? そんなときは高らかにジャンプをして──」
「地下にそこまで大きな魔物が出るとは思えません。それにひとつ8000ミル、高いですね」
「ていうかカイはそのサルが可愛いからほしいんでしょ?」
 と、アールは店内を見回した。ヴァイスは外で待っているようだ。
「なんでもいいからほしい」
「なにそれ」
 
ルイは店内を見て歩きながら、使えそうなアイテムや回復薬を買い物かごに入れていった。
 
「雑貨屋さんとかさぁ、洋服屋さんとかさぁ、入ったらとりあえずなんか買いたくなんない?」
「そんなだから無駄遣いが減らないんだよ」
 アールは呆れながらルイの後ろをついてゆく。
「いやいや、結局なにも買わずにお店を出るときもあるんだよ? こう見えても」
「お金がないときでしょ?」
「なんでわかんの?!」
「それしか考えられない」
 

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