voice of mind - by ルイランノキ


 相互扶助11…『地下道』

 
「ねぇ」と、触れることができた腕も、今では嫌悪感に満ちた目で睨まれて振り払われてしまいそうで、例え腕に小さな虫がとまっていたりゴミがついていても見てみぬふりをしてしまうのだろう。
 
シドがいない。目の前にいるのに、いないと感じる。
寂しいと思っているのは私たちだけで、彼は少しも感じていないのかな。
戦闘中にルイがシドを結界で守った。シドはそれに対して顔色一つ変えなかった。鬱陶しそうにするわけでもなく、礼を言うわけでもなく。あの頃に戻って二人の波長が合ったように見えたけれど、なにも、感じなかったのかな。
こんなにも目で追っているのに、シドと目が合うことはほとんどない。
 
旅を始めたばかりの頃、シドのことが一番苦手だった。こんな怖そうな人と打ち解け合えるなんて思いもしなかった。けれど、ルイとカイが間にいてくれたからなんでも言い合える仲になれた。
でもそれも、そう思っていたのは私だけ……
 
「さて、出発しましょうか」
 
地下へ向かう準備を終えた一行は、再びホーツを尋ねて地下への入り口まで連れて行ってもらった。村の右奥に開拓していない草木が鬱蒼としている場所にそれはあった。地面にある大きな岩をスライドさせるように退かすと、地下への階段が下へと伸びていた。
 
「全員中に入っだら、出入り口を塞ぐがら、出るときは自分で開けてくれんどん。閉めねーど、中の松明に火が灯らないんどん」
「わかりました。お願いします」
 と、ルイ。
「気をつけで、帰っできてくれんどろんどん」
「行ってきますんすん」
 と、カイが答えた。
 
全員が階段を下りると、階段の上から岩の扉を閉める音がした。真っ暗闇だった地下に松明の火が灯り、辺りを照らした。階段を下りてすぐの正面と、左右に道が続いている。ただし、右の道は鍵つきの鉄格子で行く手を塞がれていた。
 
「この道の向こうへ行くにはどこかで鍵を入手しなければならないようですね。鍵穴の上に《A》と刻まれています。もしかしたら他にも鍵が必要な扉とその鍵が隠されているのかもしれません」
「道がいくつも分かれているなら手分けしたほうがいいだろう」
 と、ベンが言った。
「そうですね。ではどうしましょうか」
「俺たちは向こうの道へ行く」
 と、ベンは左の道を選んだ。
「では僕らはまっすぐの道を。階段下で落ち合いましょう」
 
ルイ、アール、カイ、ヴァイスは決めた道を歩み進めたが、すぐに突き当たって、右へ曲がった。その先は左右に分かれている。迷路のようなつくりをしているため、ルイはノートとペンを取り出して地図を描き始めた。
 
「私右行こうか?」
「では……ヴァイスさん、アールさんと右へ。僕とカイさんは左へ。これ以上は分かれないようにしましょう。バラバラになりすぎても集合するのが大変になりますからね。電波が届かないようですし」
 と、携帯電話を見遣る。
「了解、じゃあ後で」
 アールはヴァイスと顔を見合わせ、右へ進んだ。ヴァイスの肩にはスーもいる。
 
その頃ムスタージュ組織は階段下から左へ続く道を進んでいた。少し進むと右へ入る一つ目の通路があったが、ここも鉄格子の扉で閉ざされている。鍵穴があり、ここを通るにももうひとつ鍵が必要だ。既に突き当りが見えていたが、突き当りを右に進む道の少し手前にも右へ伸びている道があった。覗き込むと、その道は少し進むと今度は左に曲がっている。なにかあるのだろうか。
 
「見てこい」
 と、ベンはジャックに命令した。
「お、おう……」
 
躊躇しながらも短剣を構えて道なりに進み、その突き当りのスペースで眠っている魔物、バニファを目で捉えた。バニファはジャックに気付くと体を起こして襲い掛かってきた。
 
「魔物だッ!」
 声を荒げて仲間にそう伝えたが、駆け寄ってくる気配はない。
「くそッ……」
 ひとりで戦うしかないようだ。
 
突き当りから右へ伸びる道と、その少し手前から右へ伸びる道との間隔を考えても、ジャックが右へ入って一周回るように即左へ曲がった先のスペースにさほど大きな魔物が潜んでいるようには思えなかった。その為、誰も手助けに行こうとはせず、ジャックを置いて突き当たりの道へ進んだ。右へ曲がると3箇所ほど更に右へ入る道があるだけで真っ直ぐに伸びている道の先には突き当たりの壁が見える。左へ曲がる道はない。
 
一番最初に右へ入る通路の手前まで来たところで、ジャックが走ってきた。ジャックも元々は外で旅をしていたこともあり、強い魔物でない限りは一人で対応できたようだ。
 
「置いてくなよ……」
 と、苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「なにかあったかーい? 魔物以外には」
 と、クラウン。
「いや、なにも……」
「この先にも右へ入る道がある。俺とシドはここを曲がる。お前等はもう一つ先の道へ行ってくれ」
 ベンがそう指示し、二手に別れた。
 
アールは武器を手に持ち、警戒しながら角を曲がった。ヴァイスは背後を気にしながら付き添っている。
 
「あれ? なにもないね」
 と、構えていた武器を下ろす。
 
アールとヴァイスが選んだ右の道は、すぐに突き当たって左へ、更に数歩歩いて左へ。このまま行くとルイたちと別れた道へ戻るだけの長方形の道だった。
ルイとカイはアールと別れて左へ進み、少ししてまた左へ進む道を曲がっていた。
 
「カイさん、アールさんと一緒がよかったのでは?」
「うん、まぁ」
 と、後ろを歩く。
「珍しいですね、言い出さないのは」
「俺と一緒にいても助けてあげられないし」
「…………」
 ルイは足を止め、振り返る。
「カイさん、なんだか元気がないのはシドさんとのことだけではないように思うのですが」
「え、俺元気だよ?」
 笑顔を見せたが、いつもの笑顔とは少し違って見える。
「あまり、無理をなさらないでくださいね?」
 無理に訊き出すのも悪いと思い、そう言った。
「大丈夫大丈夫。元気元気」
「…………」
 
カイを気にかけながら再び道なりに進み、突き当たりにあった宝箱を見つけた。時折魔物が飛び出してくることもあるため、ルイはカイを下がらせたが、中には薬草とアーム玉が入っていただけだった。
アール達と分かれた道に出ると、丁度斜め向かいの道からアール達も出てきて合流した。
 
「こっちはなにもなかったよ、ただ歩かされただけ」
「そうでしたか、こちらは宝箱がありました」
 と、手に入れたアイテムを見せた。
「迷路みたいになってるから無駄な道も多いのかなぁ……」
「そこまで複雑なつくりにはなっていないようなので、迷うことはないとは思いますが少し厄介ですね」
 ルイはアールに歩いてきた道を訊きながらノートに地図を描き加えた。
「階段の右横の通路、鍵かかってたけどやっぱ通るのかな、塔の鍵を手に入れるには」
「そう考えるのが妥当でしょうね。例えば通路の先が崩れていて通れないというだけなら鉄格子の扉まで作る必要はないでしょうしね」
「魔物のにおいはする?」
 と、アールはヴァイスを見上げた。
「あぁ。充満している」
「匂いから何の魔物かわからない?」
「混ざっているからな。そこまで万能ではない」
「そっか」
 
またも一行は道なりに歩き進め、分かれ道に出くわすたびに二手に別れるも、行き止まりばかりでなんの収穫もなく道を戻り、合流を繰り返した。
 
「向こうが当たりだったりしてね」
 と、アール。
「シドさんたちですか?」
「うん。ちょっと前に誰かが叫んでた。魔物だ!って。大丈夫かな」
「それハズレじゃん」
 と、カイ。
「なにもないよりはなにかあったほうが捜索のしがいがあるじゃない」
「怪我したらそんなことも言えなくなるよ」
「そうだけど……」
 
いつもと違うカイに、調子が噛み合わないもどかしさを感じる。住み慣れていた居場所が形を変えてしまって、住みにくくなってしまった。そんな感覚。
 

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