voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生5…『回復』 ◆


自分がわからなくなるときはよくあった。
考えたってわからないんだからと考えないようにしていたときもあった。
 
私はなぜこの世界にきたの?とか
なんで私なの?とか
 
何回思っただろう。だからもういいやって。
よくないんだけど、もういいやって思うときもあったりして。
そう思うときも必要だった。
毎回毎回疑問に思うたびに深く悩んでいたら壊れてしまいそうだったから。
どうでもいい。どうでもよくないけど。
そう繰り返すことでバランスをとっていたように思う。

 
 
「もしもしルイ? ヴァイスと連絡とれたよ。色々あってしばらくそっちにいけないかも。詳しくは……会ったときに話すね。って私もよくわからないんだけど」
 と、イウビーレ家から電話をかけたのはアールだった。
『えぇ……わかりました……』
「ん? なんか元気ない?」
『あ、いえ……また明日お電話しますね』
「あ、はーい……」
 
アールは電話を切り、小首を傾げた。いつものルイとは違うような。
 
その頃、ルイとカイの目の前には太った大柄の女性看護師が仁王立ちをしていた。
 
「お電話は終わりましたか?」
「は、はい……すみませんでした」
「勝手に病室から出ないようにと言いましたよね? おトイレに行くときは声を掛けてくださいと」
「はい……」
「特にあなた」
 と、看護師はカイを指差した。
「はい……」
「寝てなきゃだめでしょ?」
「トイレに行きたくってぇ……」
「尿瓶があったでしょう」
「えぇ?! あれやっぱ俺のなの?! やだよ恥ずかしい! 両足骨折してるわけじゃないのにさぁ!」
「看護師を呼んでくれたら手を貸してあげますから勝手にベッドから起きないで! 傷口が開いたらどうするの!」
「ひぃ! 手伝ってもらうほうが恥ずかしいよ!」
「なに言ってるの! あなたは患者なんだから恥ずかしいとか言ってる場合?」
「じ、じゃあこの際だから言っちゃうけど、本当は恥ずかしいんじゃなくって、あの尿瓶の入り口が小さすぎて俺のじゃ入らないと思ったんだ。あれじゃこぼれちゃう。子供用なんじゃなーい?」
「あんたの大きさなら十分でしょ。さっさと病室に戻りなさい」
 と、カイの局部に目を向ける。
「いつの間に見たの?! 変態!」
 と、カイは両手で局部を覆った。
「カイさん、大人しく戻りますよ……」
 と、カイの手を引くルイ。
「俺に気があるからって勝手に見ないでよ! エッチ!」
「ほら、我慢して尿瓶使いましょう」
「ルイが使えばいい!」
「僕は使いません」
「ルイだけかっこつけないでよ!」
「そういうわけでは……」
 
看護師は二人が病室へ戻るのを見届けてから、呆れたようにため息をこぼした。
 

━━━━━━━━━━━
 
アールは携帯電話を部屋にある机の上に置いて、時間も時間なので眠ろうとベッドに腰掛けた。しかし部屋をノックしたサンリがもう一度シャワーでも浴びたら?と言ってくれたため、お言葉に甘えてシャワーを浴びなおしてからベッドに横になった。目を閉じると二人組の男の顔が浮かび、落ち着かなくなってすぐに体を起こした。
頭をかきむしり、もう一度横になる。
 
コンコンと再びドアをノックされ、ベッドから起きてドアを開けるとトクが立っていた。
 
「もう寝るところだったか?」
「いえ……」
「じゃあ少し付き合ってくれないか?」
 と、リビングのテーブルを見遣る。
 
お酒が用意されていた。午前0時前。晩酌のお誘いだ。
 
「あ、私あまり飲めないんですけど……いいですか?」
 お酒は好きじゃない。けれど今日は呑みたい気分だった。
「もちろんさ」
 
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消灯時間になった病室で、カイは仕切りのカーテン越しに隣のベッドにいるルイに声をかけた。
 
「ねぇルイっち、起きてる?」
「起きてますが、他の患者さんもいるので静かにしましょうね」
「…………」
 
カイは言われた通り、黙って布団に潜ったが、散々寝た後なので眠れなかった。こそこそとベッドを抜け出して、病室を出る。
そんなカイに気づかないわけがない。ルイは病室のドアが閉まる音を聞き、仕方なくベッドから下りてカイの後を追った。
 
カイは看護師に見つからないように忍者さながら気をつけながら廊下を歩き進め、男子トイレに入った。
 
「おトイレでしたか」
 と、声を掛けられビクリと肩を震わせた。
「なんだルイかー」
「どうしても尿瓶を使いたくないのですね」
「尿瓶は使いたくないけど別にトイレに来たくて来たわけじゃないんだ」
「手洗いですか?」
「いやー、病室にいると独り言も言えないじゃん? 俺のむかい側の患者、知ってる?」
「もちろんです。同じ病室ですからね」
「あのおじいちゃん、飯食うときずーっと俺を見ながら食うんだ。米食って俺見てもぐもぐ。味噌汁飲んで俺見てごっくん」
「気になるのでしょう」
「なにがさぁ。俺昔からご老人と女の子にはモテるけどさぁ、じーっと見られてたら穴が空いちゃうよ」
「仕切りのカーテンを閉めておけばいいでしょう。トイレに用がないのなら戻りましょう。また怒られますよ」
「息が詰まるんだってー。アールがいるならいいけどさぁ、男ばっかしだし」
「……仕方ありませんね。少し暇を潰してから戻りましょう」
 と、ルイは腕を組んで壁に寄りかかった。
 
カイは個室の便座の蓋を下ろして座った。ドアは開けっ放しにしてルイと会話を続けた。
 
「シド、協力してくれるとは思わなかった」
「カイさんが提案されたのですよ?」
「そうだけどさ。大丈夫かな。シドはともかく、ついてくるのはシドだけじゃないんでしょ?」
「えぇ、おそらく。一応カイさんはアールさんから離れないようにしてもらえますか?」
「言われなくても!」
「アリアンの塔……無駄足にならなければいいのですが」
「それよりさ、エルドレットって弱かったの?」
「…………」
「だってアール一人でやっつけたんでしょ?」
「その場にいたわけではないのでなんとも……」
「覚醒……したのかな?」
 と、カイは個室から出てルイを見遣った。
「わかりません。ただ、ヴァイスさんがフマラへ様子を見に行ったとき、アールさんはVRCに行っていたようです。自分の力を確かめに行ったのでしょうか……」
「え。アールん重症だったんじゃないの?」
「えぇ。アールさんは一度大手の病院に運ばれています。そこからフマラのイウビーレ家に連絡があったようで、迎えに行ったそうです。回復薬の使いすぎでこれ以上魔法による治療は身体への負担が大きいので本来ならば避けられるのですが、その病院ではゼクス薬を投入しているようで」
「ゼクス薬?」
「最近開発されて話題になっている治療薬です。魔力の浴びすぎによって負った身体への負担を取り除く薬です。要はリセットを行うわけです。それによって改めて魔法による治療を行えるというわけです。この薬があれば僕等が今使っている回復薬ももっと気軽に使用できるようになるかもしれません。旅人への味方ですね」
「すっげ。医療は進歩してるねぇ……」
「ただ、まだ一般的に普及はしていないのですよ。その薬自体に副作用がないとは言い切れないようなので。負担が大きい小さな子供には使えないようですしね」
「体が小さいアールには使えたのですね」
「……アールさんは子供ではありませんから」
 

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©Kamikawa
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