voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生6…『ローザ』

 
翌日の朝を迎えたフマラ町の空は青々と澄んでおり、小鳥の鳴き声がどこからか聞こえてきた。
アールは辺りを見回し、小鳥を探すも姿が見えない。
 
「どうしたんだい?」
 と、村の老人が家の前にいたアールに声をかけて来た。
「あ、鳥の鳴き声がしたから」
「あれじゃよ」
 と、老人が指差したのは電柱の上についているスピーカーだった。
「え……」
「演出じゃ演出」
「…………」
 
──ものすごくガッカリなんですけど。
 
アールは軽くストレッチをしてから運動がてら小走りでとある場所へ向かった。
村の中心辺りに人が集まる広場がある。集会を行う公民館が建てられ、その横に村の掲示板があった。
アールはその掲示板に張り出されている短期の求人情報を見ていた。しかしその視線はすぐに隣のチラシに向けられた。
 
「え……エイミー?」
 
そのチラシには、エイミーのチャリティコンサートが行われることが書かれていた。日付を見るとまだ先のようだ。場所はヌーベと書かれている。
 
「ぬーべ?」
 と、小首を傾げた。
 
ルイからの電話でアリアンの塔を探しに行くと言われたときに場所の名前も聞いたことを思い出す。
 
「導かれてる……」
 咄嗟にそう思った。
 
コンサートに関するチラシは近くに設置されている箱に何枚か入っていたため、一枚拝借し、再び求人情報に目を向けた。村に市場があるらしく、そこで特定の魔物の羽根や爪などを買い取ってくれる業者が定期的に訪れるらしい。迷っていると、背後から30代半ばくらいの一人の男性が声をかけて来た。
 
「仕事探してるのか?」
「あ、はい。この特定の魔物って近くにいるんですか?」
「いるやつといないやつがいる。こいつなんかはこの辺にはいないから生息地へ行って仕留めないと駄目だな」
 と、求人情報に掲載されている魔物リストを指差した。
「時間がないので手っ取り早く稼げないですかね?」
「いいとこ知ってるぞ。俺はゲルク狩りで生計を立ててるんだが、ゲルクがよく集まってくる場所を知ってるんだ。今から向かう予定だが、ついてくるか?」
「いいんですか? でも……そこまでいくらくらいかかります?」
「金の心配はいらない。ゲルクの爪10本分だからな。少し歩くが」
「じゃあお供させてください」
「はいよ」
 
━━━━━━━━━━━
 
捕らえられていたモーメルとミシェルを逃がした黒髪ショートヘアの女の二の腕にはムスタージュ組織の属印が捺されていた。同じ属印を持つ男が公衆トイレに入って行くのを見た彼女は、トイレの前で待ち伏せた。
しばらくして、用を済ませた男は洗った手を振って水気を飛ばしながら外へ出てきた。
 
「お元気?」
 と、女は男にハンカチを渡す。
「……誰だお前」
 と、男は警戒してハンカチは受け取らず、自分の服で手を拭いた。
「あんたと同じ、第一部隊の仲間よ」
 二の腕にある属印を見せ、ハンカチをポケットにしまった。
「へぇ、第一部隊にも女部員がいるんだな」
「把握していなくて当然よ。何名部員がいると思っているの?」
「そうだな。──で? 俺に何か用か?」
「偶然見かけたから声を掛けさせてもらっただけよ。ねぇ、第二部隊がゼフィル城に押し入ったけど、退散したらしいの。エテルネルライトはそのままに」
「らしいな」
「このままエテルネルライトの研究が進められて国王の思うままになるなんて嫌だわ。どうにかできないのかしら。そもそもあっけなく退散だなんて、何かあったの? 第二部隊だって結構使える奴揃ってるのに」
「俺に訊くなよ。とりあえず下見に行っただけかもしれねぇし、他に方法が見つかったのかもしれん。いくつかプランがあって、思わぬ事態にプランを変更したとも考えられる。城にあるエテルネルライトに関しては奴等が任されてるんだ。俺等は俺らの仕事を全うするまでさ」
「……そうね」
「不服そうだな」
「そりゃそうよ。世の中男会社で、女部員はかわいくて楽な仕事しか与えてもらえないもの。それでも愛想振り撒いて嫌味に対してもニコニコして、そうしなきゃ居場所すら与えてもらえない」
「愚痴か。まぁ仕方ないな。お前、名前は?」
「ローザ。宜しくね」
 
━━━━━━━━━━━
 
シドがいる第三部隊のアジトに、第十部隊が集合した。もちろんその中にはジャックの姿もあった。しかし一人足りない。重傷を負っていたダイヤの姿がなかった。
 
「生き残っている十部隊は4人じゃなかったのか?」
 と、訊いたのはジムだ。
「死んだ。使い物にならないと上からの判断だろう」
 あくまで重傷の末にではなく切り捨てられたのだとそう答えたのはジョーカーだった。
「そうか。──第十部隊は解散、全員第三部隊へ移行でいいな? リーダーはどうする」
 
その質問に眉間にシワを寄せたのはシドだった。ジョーカーは隊長とはいえ第十部隊の頭だ。第三部隊の頭であるエルドレットを失った今、副隊長を務めていた自分が上に上がるのが当然ではないのかと。
 
「……シドじゃないのか?」
 と、訊いたのはジャックだった。
「…………」
 ジムは黙ってシドを見遣る。
「俺は別に構わねぇが」
 と、シドは他に誰かいるなら名乗り出たらどうだ? といわんばかりに視線を交わした。
「信用していいんだな?」
「どういう意味だ」
「長らく不在だっただろう。しかも奴等と長旅をしてきたんだ。情があるんじゃねーのか?」
「あるわけねーだろ」
 と、語調を強めた。
「ならいいが。──反対の者はいるか?」
 と、ジムは一同を見遣る。
 
誰もなにも言わなかった。シドが隊長を務めることを望んでいるようでもないが、他に名乗り出る者はおらず、仕方なくといった空気が漂っている。
 
「副隊長は俺だ。いいな?」
 と、ジム。
「問題ない」
 シドはそう言って、今後の計画を練り直し始めた。
 
そんなシドを、ジャックは黙ったまま眺めていた。──情がないだと? んなわけあるか。あいつらと一緒にいたときのこいつは随分と気が緩んでいて楽しそうだった。騙して命を狙おうなどと考えているそぶりは一切感じなかった。あれは演技だというのか?
 
「まずはアリアンの塔に行く。奴等に手を出すのはその後でも遅くは無い」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -