voice of mind - by ルイランノキ


 暗雲低迷20…『タケルの行動』

 
「タケルさんのことを、話していただけませんか」
 
訓練所にいた二人の兵士は、自分を訪ねてきたルイとリアに驚いた。はじめは何のことかわからなかったが、すぐに思い出した。
 
「…………」
 二人の兵士は顔を見合わせ、俯いた。
「あなたたちの部屋って、タケルさんが泊まっていた部屋の近くだったんでしょう? 確かタケルさんとモーメルさんがどうとかって廊下で話していたわよね」
「はい……」
「彼との約束で、言えないんでしょう?」
 リアがそう尋ねると、二人は顔を上げた。
「約束を守りたいのはわかるわ。でも、不可解なことがあって。タケルさんの私物が何者かに盗み出されていたの。犯人は、シドくんだった」
「え……」
「アールちゃんが彼の家で見つけたの。タケルさんが使っていた携帯電話の暗証番号をアールちゃんが解除して、中に入っていたデータを見たの。そしたら“本当の選ばれし者”に宛てられたメッセージが入っていたそうよ。それから、彼は自分が偽者だって知っていたことと、モーメルさんに会って、アーム玉を作ったことも、本人が証言してる」
「…………」
「今こそ、知るべきだと思うの」
「ここではなんですので、部屋でお話してもよろしいですか?」
「もちろんよ」
 
二人の兵士はルイとリアを自室に招いた。そして、タケルと交わした当時の会話を思い返しながら、話しを始めた。
 
「俺たちはいつもドアをきちんと閉め忘れる癖があって、その日も開いていたんだと思います……」
 
タケルと一般兵の記憶が蘇った。
タケルに不信感を抱いていた2人が部屋で彼のことを「イケてるTシャツ君、略してイケティ」と呼び、タケルが廊下でその話を聞いていることにも気づかずに「可哀相だよなー、選ばれし者だっておだてられてその気になっちゃってんのに、今更……嘘でしたーなんてよ」と話してしまったことを。
  
「それで……詳しく聞かせてほしいというので話しました。リア様とゼンダ様が対談しているところにたまたま居合わせた者がおりまして、お二方がタケル様の事を話されていたのを聞いたと……。選ばれし者は他に存在するということと、その選ばれし者とタケル様の共通点は、ただ同じ世界で生きていた、ということだけであると……」
 と、兵士は話しながら、タケルに罪悪感を覚えた。
 もう一人の兵士も口を開き、タケルを思い返しながら交わした会話を伝えた。 
「タケル様は、『俺はただ、実験に使われただけの人間だ』と落ち込んでおられましたが、実験台だとしても少しは役に立てたことに安堵されて、これからはひとりででも修行を積んで仲間になれるようにがんばりたいとおっしゃっていました。そのあと、部屋に戻る前に紙とペンはないかと聞かれたのでお渡ししました。それからもうひとつ、聞きたいことがあるとのことで……」
「聞きたいことというのは?」
 と、ルイがタケルを思い返しながら訊く。
「アーム玉のことでした。そしてモーメルさんの居場所と、そこへの行き方を」
「教えたのですね」
「いえ……我々は国家魔術師のお名前は存じておりますが、どこにいらっしゃるのかまではわかりませんでしたので、連絡先だけをお伝えしました。メモ帳を何に使ったのかまではわかりません」
「モーメルさんの家への連絡先をメモされたのでは?」
「それがメモ帳の紙を2枚、必要としていて、一枚目にはその連絡先を。もう一枚の方はその場では何も書かれませんでした。ただ、『本物の選ばれし者もあの部屋に通されるのでしょうか』と尋ねられました」
「あの部屋って、タケルさんが泊まってた?」
 と、リア。
「はい。わかりませんとお答えしましたが、結局アールさんもタケル様が泊まっていたお部屋に通され……」
「わかったわ。きっとアールちゃんにメッセージを残したんだわ。タケルさんの携帯電話の暗証番号を書いた紙をその部屋に置いていたんじゃないかしら」
「なるほど……」
 と、ルイは頷いた。「それをアールさんが見つけた」
「もし同じ部屋に通されず、選ばれし者が自分を調べようとしていたらあの部屋へ行くよう伝えてほしいと頼まれました。ですが、自然とアールさんも同じ部屋でしたので」
「そうですか……」
「あのあとタケル様は一度部屋に戻られてから再び我々の部屋を訪ねました。携帯電話を貸してほしいと」
「モーメルさんに連絡を?」
「そのようです。内容まではわかりません。タケルさんに携帯電話を貸すと彼はすぐに返しますといって自室へ戻られましたから」
「城のゲートを使って行ったのかしら。だったら見張りが見ているかもしれないわね」
「そうですね。ですが確認はやめましょう。モーメルさんに会いに行ったのは確実でしょうから」
 
複雑だった。彼はどんな思いでアーム玉を作りに行ったのだろう。兵士たちに話した心情のほかにも、複雑な思いがあったに違いなかった。
 

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