voice of mind - by ルイランノキ


 暗雲低迷19…『真実を知る』

 
「そういえば。アリアンの塔って知ってる?」
 と、ミシェル。
「……あぁ、聞いたことはあるがね」
「ルイくんたちにも訊いたんだけど、知らないっていうの。私はワオンさんから聞いて、ワオンさんはVRCに訪れた旅人から聞いたらしいんだけど、ヌーベという地域にしかない噂話で、昔その塔にアリアン様が住んでいたんですって」
「その塔を実際に誰かが訪れた話も、調べた話も聞いたことがないがね」
「やっぱりガセなのかなぁ。その地域に大きな塔が隠されてるっていうのよ。その地域では昔からの言い伝えとしてあって、実際に見た人がいるらしいんだけど証拠はないって。もしその塔が本当に存在していたら、まだ世に出回っていないアリアンに関するなにかがわかるかもしれない」
「アリアンが存在した時代から随分と経っているのに、今更見つけられるかね」
「その塔は隠されてるっていうくらいだから、ヌーベという地域の人々もその存在を知っていながら隠し続けてきたんじゃないかしら。でも時代と共にどこからか広まってしまった」
「なるほど、考えられかもしれないねぇ」
 と、虚空を見遣る。
 
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「ぐはぁッ?!」
 
ワオンとギップスの体が、地面に叩き付けられた。
傷を負ったヴァイスはよろめきながらも銃を構えるが、蹴り飛ばされてしまう。銃は高らかと跳ね上がり、崖の下へと落下した。
 
男たちは槍使いだった。それもただの槍使いではなく、魔力も伴っている。一人は炎を、一人は水を、一人は雷の魔法だ。更にその槍を回転させることによって楯代わりとなる結界を作り出し、攻撃を跳ね返す力があった。
 
「ドレフさんが目をつけていた一味として、少しは期待したんだがなぁ」
 と、一人の男はシドをコードネームで呼んだ。
 
3人の男は地面に倒れたワオンたちを横目に、モーメルの家の中へと侵入し、金になりそうなものや役に立ちそうな物を物色し始めた。物が割れる音やガラガラと乱暴に扱う音が外まで聞こえてくる。
 
回復薬を飲もうとしたギップスをワオンが止めた。
 
「それ以上飲むな……身体に悪い」
「ですが……」
「案ずるな。私が始末する」
 と、ヴァイスが立ち上がる。
「しかし武器は……」
「必要ない」
 
ガラガラと容赦なく室内を荒らす男たちに、苛立ちが募っていた。
ヴァイスはドアに手をかけ、男の背後に迫った。そして一人の男が振り向いた瞬間、獣と化し、相手が唖然と驚いた隙に噛み殺した。それから二人目の足に噛みついた。室内には3人と一匹がいたため槍を振り回すには狭すぎた。よろめいた男の体はもう一人に寄りかかり、3人目が強引に押しのけながら槍の刃先をヴァイスに向けたが、素早い動きで足の間をすり抜けて背後から男の首に噛み付いた。
 
「は……ハイマトス族ッ!」
 
気が動転し、足の痛みにもがいていた男の首にも噛み付こうとしたが、逃げられてしまった。
 
外にいたワオンとギップスは突然飛び出してきた男に驚いた。その男は足首から血を流しながら青ざめた表情でゲートへ走り、立ち去った。
 
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その頃、シドの家にいたアールは、階段を下りてヒラリーたちがいるリビングへ戻った。その手にはタケルの私物を抱えている。外でタバコを吸っていたデリックもリビングに戻っていた。
 
「アールちゃん……」
 と、ヒラリーは立ち上がり、アールが抱えているものを一瞥した。
「これは本当はタケルの亡骸と一緒に城に保管されていたものです。誰もシドが持ち去ったことを知らないようでしたから、勝手に持ち出したんだと思います。だから……」
「えぇ、大丈夫よ」
 察したヒラリーは、そう答えた。
 
アールは一先ずタケルのシキンチャク袋に彼の私物をしまってから、自分のシキンチャク袋に入れた。
 
テーブルの上いたスーを可愛がっていたヤーナが、ちらりとヒラリーに目を向けた。
 
「なにか知ってるなら話したほうがいいよ、ねぇさん」
「……え?」
「なにも気づいてないと思った? 私もねぇさんがなにか隠してるのかなって感づいてたよ。様子が変だから。──勘違いならいいけどさ」
「…………」
 ヒラリーは黙ったまま視線を落とした。
 
ソファに座っていたエレーナもヒラリーに目を向け、口を開いた。
 
「アールちゃんはシドの心配をして家まで来てくれたのよ。ヒラリーねぇさんが話したくないのなら知らないふりをするつもりだったけど……このまま帰していいわけ? ねぇさんはそれでいいの?」
 
アールはリビングのドアの前で立ち尽くしていた。床に座っているデリックはテーブルに置かれたコーヒーに手を伸ばし、一気に飲み干した。
 
「そうよね……わかったわ……話すわ」
 か細い声でそう言ったヒラリーは、床に腰を下ろした。
「ヤーナにも、エレーナにも聞いてほしいの。アールちゃん、座って?」
「はい……」
 
アールはデリックの隣に腰を下ろした。
 

ヒラリーさんから話を聞いたとき、シドに真実を伝えなければならない苦痛を感じた。真実を知ったあなたがどう思うか、知るのが怖かった。
そして、どうすれば複雑な迷路の闇に陥ったあなたをそこから救い出せるのか考えなければならなかった。
私の思考では、ろくな考えが浮かばなくて、仲間としての無力さに絶望した。
 
シド
 
タケルはこのとき、私と同じようにあなたを思っていたんだと思う。そして私に託したんだと思う。
運命は誰かが動くことによって決まってゆく。
タケルはもういないけれど、そこにいた。
ずっと、私たちと共にいた。
 

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