voice of mind - by ルイランノキ


 暗雲低迷3…『僕らの出会い』

 
宿にいるルイは携帯電話を握ったまま部屋の窓から外を眺めていた。
ベッドで眠るカイに目を向け、シドと出会ったときのことを思い出す。カイと初めて出会ったのも同じ日だった。
 
初めてゼフィル城へ招待されたルイは、城内にある一室へ促された。第7の客間だった。
ルイがその部屋へ通されたときにはまだ誰もいなかった。緊張の面持ちで高級感のあるソファに座り、姿勢を正していた。
自分を迎えに来たゼフィル兵から大まかに聞かされていた。シュバルツの話はまだ聞いていなかったが、世界に危機が迫っていて、世界を救うために国王から直々に力を貸して欲しいとのことだった。
 
緊張で喉の渇きを感じていると、騒がしい声が廊下から聞えてきた。
 
「えー、それってさーあ、冗談とかじゃないよねー?」
「さっきからうっせーな!少しは黙ってろよ!」
「えーだってさぁ、シドならわかるけど俺もー?」
 
──シド?
人の名前に耳を傾けていると、部屋のドアが開いた。そして、そこで初めてシドとカイと対面したのだ。
 
「しばらくこちらでお待ちくださいませ」
 と、ゼフィル兵が頭を下げ、部屋を出て行った。
 
ルイは慌てて立ち上がり、二人に頭を下げた。
 
「初めまして。ルイ・ラクハウスと申します」
「え、あ、俺はカイ! カイ・ダールストレーム! こっちはシド! 泣く子も黙る、シド・バグウェル」
「どうも」
 と、シドは短く挨拶をした。
 
3人はソファに腰掛け、国王との対面のときを待っていた。
 
「ジュースくらい出してくれたらいいのにねぇ」
 と、カイはルイとシドの間に座っている。
「お前は黙っとけ」
「なんだよぉ。──あ、ねぇ、ルイってお姉さんか妹いる?」
「え? いえ……」
「なんだつまんないなぁ」
「人の姉に手を出そうとすんな」
 と、シド。
「なんだよただお姉さんか妹がいるか訊いただけじゃん!」
「いないと聞いてガッカリした時点でねらってんじゃねーか」
「勝手に決め付けないでよ! 俺そんなに飢えてないから!」
「童貞のくせになに強がってんだよ」
「童貞じゃぬわぁーい!!」
 
二人の口論が始まり、ルイは少し二人から距離を取るように座りなおした。
彼らも国王に呼ばれた者だろうか。シドという男は見た限りでも剣士として力がありそうだが、隣にいるカイという男は腰に刀を掛けているものの、剣士のようには見えない。
 
「黙れ能無し! ところでテメーはなにもんなんだよ」
 と、突然声を掛けられたルイはギクリとした。
「何者……と申されますと?」
「見たところ武器も持ってねーし」
「あ、僕は魔導師です。武器として使うとすればロッドになりますが、今日は必要ないかと思い、持参しておりません」
「てめーの喋り方くっそムカつくな」
「…………」
「あ、ルイっち気にしなくていいよー、シドは口が悪いけどいい奴だから!」
 
“てめー”などとあまり呼ばれ慣れていないルイは少し動揺していた。
そしてこの後、彼らと共に旅をすると聞かされたときは無謀だと思えてならなかった。

それでも旅を始めてからは互いに歩み寄り、共に命をかけ合って戦ってきたつもりだった。
彼はいつから組織の人間だったのだろう。
 
ルヴィエールでアールが自称研究者、もしくは魔術使いだと名乗っていた男に捕まり、朝になって彼女の姿がないことに気づいたとき、シドと二人で街中を走り回った。アールを捜しに出たものの、手掛かりは何一つ無く、途方に暮れていた。その時の彼は本気で心配しているように思えた。
 
「あの女……世話がやけるな……」
 
シドは少しうんざりしたようにそう言ったが、内心は酷く心配しているのが顔に出ていた。あれは、偽りだったのだろうか。彼がいつから組織の仲間になったのか、わからないが。
 
そんな風に物思いに耽っていると、部屋をノックする音がした。部屋のドアを開けると、頭にスーを乗せたアールが立っていた。
 
「お帰りなさい。ヴァイスさんは?」
「モーメルさんとこ。ゼンダさんから連絡は?」
「それがまだ……」
「忙しいのかな」
 と、床に座った。
「そちらはどうでした?」
 と、ルイも腰を下ろした。
「やっぱりモーメルさんもミシェルもいなかった。家の中は綺麗だったよ、いつもと変わらない感じ」
「手荒に連れて行かれたわけではなさそうですね。ミシェルさんも一緒だから下手に動けなかったのかもしれません」
「そうだね……。私明日の朝、シドん家に行こうと思うの」
「ワードさんとベンさんのことですね」
「うん。ルイ、どうする?」
「一緒に行きましょう」
「カイは……寝てるかな」
「カイさんはここでシドさんを待つと思いますよ」
「居場所知らせたの?」
「いえ、シドさんからの連絡を待っているようです」
「そっか……」
 
部屋の中は静かだった。寝言が聞えてこないところを見ると、おそらくカイはまだ起きているのだろう。
アールはシキンチャク袋から布団を取り出し、床に敷いた。決して綺麗な床とは言えないが、ベッドはカイが使っているひとつしかないのだから仕方ない。
 
今日はいびきも聞えてこない、静寂な夜になるだろう。
 

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©Kamikawa
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