voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交20…『ミシェルへ』 ◆

 
「──ここからはいつも通り、ミシェル、と呼ばせていただきます。
私とミシェルが出会ったのはとある廃れた街のホテル内にあるお風呂場でした。
まさかお風呂場で出会った女性と親しくなって、こうして彼女の結婚式に招いていたいただける日が来るなど、想像もしておりませんでした。けれど、今はとてもいい思い出で、私にとってはなくてはならない出会いだったなと、今改めて思います。
 
当時の私は心身共に疲労を抱えており、安らげる場所と言うものを見つけられずにいました。私と常に共にいてくれる仲間はみんな男性ですし、自分の全てをさらけ出すには抵抗がありましたので。
そんなときに私は、ミシェルと出会いました。シャンプーを部屋に忘れてきた私に、シャンプーを貸してくれて、とても優しくて綺麗で、落ち着いた女性だなと第一印象から思っておりました。
それから何度かまたお会いする機会があって……」
 
一息つき、言葉を選びながら続けた。
 
「私は彼女の存在に何度も助けられて来ました。新郎のワオンさんとは、VRCで知り合いました。私のトレーナーがワオンさんでした。自分で言うのもなんですが、二人を結びつけたのは私だと思っています」
 
笑顔でそういうと、ミシェルとワオンは顔を見合わせて笑った。
 
「でも、元はワオンさんがしつこくミシェルを紹介してほしいと言ってきたからなのですが」
「おいおい! それはいいから!」
 と、ワオンは顔を赤く染めた。
「はじめは仕方なく、だったんですけど、二人を見ているとお似合いだなって思うようになって……。自分を犠牲にしてでも相手を思いやる優しさを持っているところ、不器用だけど、まっすぐなところ、可愛らしいところ。自然と応援している自分がいました。
だから、おふたりが結婚するって聞いたとき、自分のことのように心から嬉しかったです。
ふたりの幸せを願っていたから、私の願い事がひとつ、叶いました。
末永い幸せを、心からお祈りしています。
 
以上をもちまして、お二人へのご結婚のお祝いの言葉とさせていただきます。
ワオンさん、ミシェルさん、本日は本当におめでとうございます」
 
深々と頭を下げると。惜しみない拍手が会場を包み込んだ。ミシェルの目から嬉し涙が流れる。
アールもまた、こみ上げて来るものがあった。目頭が熱くなる。
 
司会の女性が次の余興へ進行を進めた。
アールは、大仕事を終えてふうとため息をつき、自分の席はどこだろうかと会場を見回した。ルイが手を上げてこちらですよと知らせてくれている。
 
「緊張しちゃった! って、みんなかっこいいね!」
 と、仲間のスーツ姿に驚きながら席に座る。「……あれ? カイだよね? 知らない人かと思った!」
 
全員スーツ姿で男らしい。互いにいつもと違う仲間にギクシャクし、少し動揺していた。
 
「カイ前髪おろしてるほうがいいよ」
 隣りに座っているカイ。
「アール……」
「ん?」
「アールさん、その衣装はどうされたのですか? とてもお綺麗ですし、よく似合っています」
 と、反対側の隣りに座っているルイ。
「あ、ありがとう」
 アールは嬉しくて照れ笑い。「ミシェルがね、内緒で用意してくれてたみたいなの」
「そうでしたか」
「ちょっとぉー! 俺がアールに綺麗だねって言おうと思ったのに横取りしないでよ!」
 カイはむっとしながらエビを口に運んだ。
「ありがとう、カイ」
「…………」
 めかし込んでいるアールを横に、妙に緊張する。いつもの感じが出せないのはそのせいだ。
「馬子にも衣装だな」
 と、シドはワインを飲んだ。
「それバカにしてるでしょ」
「…………」
「アール、よく似合ってるじゃないかい」
 と、モーメル。
「ほんとですか?! ありがとうございます!」
「この後ダンスパーティがあるそうですよ」
「ダンスパーティ?」
「二次会も兼ねて、だそうですよ」
「へぇー、ダンスパーティかぁ……踊ったことないなぁ」
「ではお誘いしても?」
 と、ルイ。
 
それを見ていたモーメルは使い慣れないナイフとフォークでステーキを切りながら言った。
 
「随分と積極的だねぇ」
「……いえ、その、せっかくですから参加してみてはどうかと思いまして」
「リードしてもらえる? 全然踊れないけど」
 と、アールは不安げに訊く。
「えぇ、お任せください」
 そう言ったルイは、シドの視線を感じていたが気づかないふりをした。
「ではルイのあとは俺とお願いします」
 と、カイ。
「カイも踊れるの?」
「ブレイクダンスなら」
「うそぉ?!」
「うそぴょん」
「…………」
「俺パス。先、部屋帰っとくわ」
 そう言ったのはシドだ。
「無理に踊らなくてもいいんでしょ?」
 アールはルイに訊く。
「えぇ、それは勿論。でもせっかくなんですから、踊らなくても顔を出されては?」
「苦手なんだよ」
 と、あからさまに嫌な顔をする。
 
アールはチラリとヴァイスを見遣った。年上というだけあって、一番大人の男性らしくスーツが似合っているように思う。
アールの視線を感じたヴァイス。アールと目を合わせた。
 
「ヴァイスも苦手そうだね、部屋に戻ってる?」
「……あぁ」
「なんでコイツは部屋に返して俺は参加勧めんだよっ」
「だってヴァイスはふたりとあんまり面識なかったし、でもシドは違うじゃない。特にワオンさんにはお世話になったんでしょ?」
「世話になった覚えはねぇっつの」
 と、そっぽ向いた。
 
「なんでもいいが、アタシのダンスの相手は誰がしてくれるんだい?」
 と、モーメルは踊る気満々のようだ。
 

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©Kamikawa
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