voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交14…『重なる』 ◆

 
ヴァイスの目に、かつて恋人だったスサンナの幻影が映った。彼女は花がよく似合う清楚な女性だった。花を摘んで冠を作っていた姿が脳裏で再生される。
 
「ルイが一休みしませんかって」
 
幻影と重なるようにアールの姿が目に映る。花の冠を乗せていた。
 

 
「アタシはいいよ」
 と、モーメルは畑仕事を続ける。
「ヴァイスは?」
「……いや」
「そう?」
 
ヴァイスも作業に戻り、薬草に触れた。
 
「ちょいちょい、おふたりさん、なにか言うことない?」
 と、アール。
「なんだい」
 モーメルはアールを見遣った。
 
アールは花の冠に手を添えて笑みを浮かべた。
 
「似合ってるよ」
 と、呆れたように笑って再び作業に戻ったモーメル。
 
アールは頬を膨らませ、その場を後にした。──なにさなにさ。そりゃ似合わないだろうけどスーちゃんでさえ気を遣ってくれるのに。
スーはアールがムッとしていることに気づき、気にしなさんなと言ってあげたかったが意思表示の仕方を思いつかなかった。
 
ルイからコーヒーを受け取ったアールは、テーブルの端に置かれていたCDに目を止めた。拾い上げ、ジャケット写真に写っている女性を凝視した。何度か見たことがある。ファッション雑誌や街中のポスターに載っていた女性だ。名前を確認し、確信する。
 
「エイミー…」
「エイミー人気ですよね」
 と、スタッフの一人が声を掛けてきた。手にはティーカップを持っている。
「そうなんですか?」
「え? ご存知ないんですか?! 女優としてもモデルとしても歌手としても成功して今一番人気があるのに……」
「あ、私外を旅してるからその辺疎くて」
「外を?!」
 
この話になると大概驚かれる。女だから珍しいのか理由を訊かれ、その度に適当に答え、でも仲間がいるから大丈夫という流れが面倒だった。
一通り話し終えてから、改めて訊き直した。
 
「なんでこの人のCDが?」
「結婚式のときにBGMとして流したいとミシェルさまが」
「へぇ、そうなんですね」
 
不意に、子供の笑い声が記憶から呼び覚まされた。女の子の笑い声。ココモコ村で出会った女の子。アールの世界に存在する陽月というアーティストの歌を知っていた。あの子は言っていた。お姉さんに教わった歌だと。ルヴィエールでお店のガラスに貼っていたポスターに載ってる女性に似ていた、と。
 
「…………」
 
アールは目を凝らしてエイミーを眺めた。もしかしたらというありえない考えは消え去るほど、エイミーと陽月は似ていなかった。
同一人物なわけない。陽月は突然行方をくらましたからもしや、なんてことを考えた。でもどちらも美人だが、似ていない。整形をしていればわからないけれど。
 
「あの、エイミーさんていつから有名に?」
「彼女は15の時にデビューしたの。今確か23だから、8年前かな。デビュー当時はモデル一本で、可愛いかったから一目置かれていたの。でもまだテレビに出たりはなかったから知ってる人は知ってるって感じだった。そこからドラマにも出始めて一気に知名度が上がってからは彼女を越える逸材はもう出てこないんじゃないかってくらい人気が落ちないの。トーク番組とかには出ないのよ、音楽番組も彼女だけトーク無しだし、プライベートは謎めいてて」
「そうですか……。あの、陽月って知ってます?」
「ヒズキ? 誰かの名前?」
「あ、いえ、知らないならいいんです。このCD、今訊いてみることってできますか? あ、ミシェルのものですか?」
「ううん、こちらが用意したものなの。ちょっと待ってね」
 
女性スタッフは小型のCDプレーヤーを机の下から取り出して、テーブルの上に置いた。CDをセットし、ミシェルがBGMとして選んだ曲を流してくれた。
 
その歌声はどことなく陽月に似ている気がするのは思い過ごしだろうか。儚く透き通った美しい声だった。
 
その頃、ヴァイスは薬草でいっぱいになった篭を持って立ち上がった。モーメルは草むしりをしながら言った。
 
「ヴァイス。あんたも結婚式に参加するんだろう? あんたもかつては婚約者がいたんだ。心が痛まないかい」
「…………」
「あの子は大丈夫かね。今は自分のことのように喜んでいるが、自分と重ねて心が痛まなければいいんだがね」
「…………」
 
ヴァイスは黙ったまま薬草を家の中へ運んだ。
 
「まったく、無口すぎて何を考えているのかさっぱりだね」
 土がついた手を叩き、立ち上がって青空を見上げた。
「──あんたが見た未来は全てその通りになるのかい? ギルト」
 

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