voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交9…『新たに現れた謎の男』

 
綺麗とは言いがたい床の上に、カイが寝転がっている。そんな彼のお腹の上では、スーも一緒に爆睡中だ。シドは隣りの席の椅子を並べて横になり、介抱すると言っていたルイはテーブルに顔を伏せて眠っている。同様にアールも酔い潰れ、酒に強いヴァイスさえも離れた席でテーブルに伏せて酔いつぶれていた。
唯一起きていたのは薬の入っていない酒を飲んでいたジャックだった。
 
「見事に眠ったようだねぇ」
 と、クラウンが歩み寄る。
 
ジャックがひとりひとり声にを掛け、誰一人起きないことを確かめた。
 
「念のため、シキンチャク袋を奪って厨房でアーム玉を探して来い。探してる最中に起きられちゃ敵わないからな」
 
ジャックは言われたとおり、アール、ルイ、カイ、シドのシキンチャク袋をベルトから取り外した。ただヴァイスに至っては、シキンチャク袋が見当たらない。
 
「こいつ持ってないのか?」
 と、ジャック。
「仲間が持ってる可能性があるねーえ。とりあえず先にそいつらのアーム玉を探すんだ」
「あぁ……」
 
ジャックは4人のシキンチャク袋を持って厨房に移動した。待っていたサンジュサーカスの一味とシキンチャク袋を漁る。
一方クラウンはヴァイスの横に立ち、暫く眺めていた。赤い目をした種族を知らないわけがなかった。
 
──ハイマトスか? 本物かどうかは定かではないが、興味深い。
 
アーム玉を持っているのなら奪っておきたいところだが、ポケットを漁るも二つ折りの平たい財布しか出てこない。大概、外で旅をする者は真っ先に作るものだが。
仕方なくクラウンは近くの席に腰を下ろし、一同を見張った。強力な薬を含ませた酒を飲んだため、しばらくは起きないが念には念を入れる。
 
厨房にいたジャックらはルイ、カイ、シドのアーム玉をなんなく見つけ、残すはアールのアーム玉だけだ。しかしいくら探しても見つからない。それもそのはず、アールはまだ自分のアーム玉を持っていないのだ。それを知らない彼らは必死になって袋を漁った。
 
「クラウン」
 と、浮かない表情で厨房から出てきたジャック。「アールちゃんの……あの女のアーム玉がない」
「なに? よぉーく探したのか?」
「あぁ、全員で探した」
「ふーん」
 と、クラウンは立ち上がり、酔いつぶれているアールに近づいた。
「……クラウン?」
 嫌な予感がしてジャックがクラウンに歩み寄ると、クラウンは躊躇なくテーブルに伏せていたアールの首元から服の中へと手をすべり入れた。
「おいッ!!」
 ジャックはクラウンの腕を掴んで引っ張り出すと、胸倉を掴んで怒鳴った。「なに考えてやがる?!」
「なにって、アーム玉を探すのさ」
「……ッ」
 ハッと我に返り、立場をわきまえる。胸倉を掴んでいた手を下ろした。
「お前こそなにを考えているんだーい? 彼女は我々の敵だよ?」
「……あぁ。わかってる。すまない」
 と、顔を逸らした。
「巨乳ちゃんなら谷間に隠してそうなもののー、谷間がないから隠しようがないようだねーえ。下着の中にもなにもない」
 クラウンはそう言いながら再びアールの胸をまさぐった。
 
ジャックは顔を逸らしたまま、こぶしを握り締めていた。苛立ちがつのる。助けようにも組織に足を踏み入れてしまった以上、下手に行動が出来ない。
 
「んじゃ、今度はズボンの中かなーぁ」
 
アールの体を床に寝かせ、服を脱がし始めた。ジャックの頭に血が上る。我慢の限界だった。クラウンの背後に回り、こぶしを振り上げたそのとき、誰かに手首を掴まれた。
驚いて振り返ったジャックは、いつの間にか背後に立っていた男を見て驚愕した。
 
「クラウン。そんな面倒なことしなくてもいいものありますよ」
 その声に、アールの服を脱がせようとしていた手を止めて振り返る。
 
そこには若い見慣れた男が立っていた。冷淡な顔つきで、哀れな者でも見るかのようにこっちを見下している顔つきの男。
クラウンはその男に警戒心を向けたが、男はにやりと笑って言った。
 
「安心しろ、俺は第三部隊の副隊長、ドレフだ。以後お見知りおきを」
 
そう言って男は小さな虫眼鏡のようなアーム探知機をポケットから取り出して見せた。アールの体にいくら翳しても探知機は反応しなかった。
 
「第三部隊……なんでそんな上の野朗が……」
 と、厨房にいたサンジュサーカス一味がぞろぞろと顔を出した。
「部隊が違えどやることは同じだろう?」
 と、ドレフと名乗った男はアールたちを見回した。「俺も彼女らを狙っている」
「やっぱり本物か……」
「さぁなぁ。そこまではわからないが」
「アーム玉は俺たちが手に入れた。お前には渡さないぞ」
「今はいい。仲間内の争いは無意味だからな。誰が持っていようが、シュバルツ様の元へ運ばれる」
「……邪魔したいわけじゃねーのか」
 と言ったのはジャックだった。
「邪魔などしない。特にお前らは下っ端の下っ端。カスとやりあったってしょうがないだろう」
「なんだとッ?!」
 と、ピエロがドレフに掴みかかった。
「落ち着け」
 クラウンがピエロを宥めるように手首を掴んで下ろさせた。
「けどコイツ俺らをバカにしやがった!」
「すまないな、ドレフ……かな?」
「彼女のアーム玉だけは譲れないがな。今は持っていないが、時期に手に入れるだろう。お前らこそ邪魔するようならそのときは迷わず殺す」
「それはそれは楽しみですねーえ」
 と、クラウンの表情は引き攣っていた。
 
ドレフという男がジャックらに背を向けたとき、ジャックは気になって落ち着かなかったことを訊いた。
 
「……ドレフ。お前はいつから彼女たちを狙ってるんだ」
 
しばらく沈黙があった後、男は振り返って言った。
 
「いつからだと思う? 少なくとも、ジムがお前を襲う前からだ」
 

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©Kamikawa
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