voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交8…『酒盛り』

 
なら尚更、他になにか彼女らの情報を持っているのなら聞かせて欲しい。
何度もそう訊いたのは、まだジムがなにかを隠しているように思えたからだった。けれどジムは頑なに口を開かなかった。
 
「まぁいい。──別れる前に、コモモとドルフィのアーム玉を返してくれ」
「なんの話だ……」
「しらばっくれるなよ。あいつらを殺した後、奪ったんだろう? 俺のもな」
「冗談言うな。そんな余裕……俺にはなかった」
「…………」
 
あの日を思い出す。エディの車で移動していたときのことだ。コモモが突然歌い出し、酒を飲んでいないのに車内は賑やかだった。けれど突然後部座席から運転席にいるエディの首に鎖が巻きつけられた。鎖はジムの愛用武器、鎖鎌だった。見る見るうちに首を絞め、咄嗟にブレーキを踏んだのか車は停車。同じく後部座席に乗っていたドルフィとジャックは突然のことに身動きがとれなかった。  
泣きながら鎌を振り回していたジムの顔は、二人にどう映っていたのだろう。
 
「もしかしたら十七部隊の連中かもしれない。いや、ログ街の住人か……」
「なら手元には戻って来ねーわな」
 やり場のない怒りや悲しみがこみ上げてくる。
 
そしてアールたちと何か話すか? と訊ねると、ジムは後ずさりをしながら「なにも話すことはない」と言って、その場を後にした。
 
なにか引っかかる、すっきりしない別れだった。
 
クラウンからの電話を終えたジャックは、アールたちに歩み寄り、レストランへ急ごうと促した。アールが思っていた通り、飲みたい気分だと言い足して。けれど実際はクラウンの命令だった。下手に反抗して、命を奪われてしまってはなんの意味もない。アール達を危険に晒してしまう可能性もあったが、ジャックは信じていた。アール含め、彼らならちょっとやそっとじゃやられてしまうこともないだろうと。
 
「では少しだけ」
 と、ルイは代表してそう言った。
 
指定されたレストランはあまり派手ではない街らしく、高級レストランとはほど遠い外観だった。古い建物で、壁はひび割れが目立ち、窓にはそれなりに高級感を出そうと白いレースと赤いカーテンが下がっているが、シミが多く清潔感はない。店内も、ゴミは落ちていないものの田舎にある名前も知らないファミリーレストランのようにこじんまりとしていた。
 
「お待ちしておりました。席へご案内いたします」
 と、タキシード姿の店員が出迎えた。
 
一向は店の奥にある一際大きいテーブルに招かれた。団体席だろう。メニューを渡し、店員は戻ってゆく。
 
「他に誰も客いないけど大丈夫ぅ?」
 と、カイは店内をきょろきょろと見回した。
「貸切だからよ」
 と、ジャック。
「まじ?!」
「貸し切っても大した額じゃねーだろ」
 そう言ったのはシドだ。礼儀を知らない。
「すみませんジャックさん。わざわざ貸し切ってくださってありがとうございます」
 ルイだけは場をわきまえている。
「いいってことよ。シドの言うとおり、知り合いの店だし大した額じゃない。好きなもの頼んで思う存分飲んでくれ!」
 
その頃、一行を席へ案内した男性店員は厨房へ足を運んだ。そこには第十部隊の部下であるスペード、ハート、ダイヤ、クローバー、ピエロが不慣れながらに料理を作っていた。
 
「おい。まだ注文も来てないってのになにやってんだ」
「いや、先に作っときましょうと思って。来てからじゃ慌しくなるじゃないですか! それにしても……」
 と、部下の一人、クローバーは店員の顔を見て噴き出した。「白塗りじゃないと誰かわかりませんね、クラウンさん!」
「…………」
 クラウンは無表情を決めた。
「あ、すいません」
「酒の用意はしているのか?」
「もちろんです!」
 と、部下達は口を揃えて言った。
「例のあれは?」
「こちらに」
 と、ダイヤが木箱を取り出し、開けて見せた。中には小瓶がいくつも入っており、その中には白い粉。「酒に入れたらあっという間に酔いがまわり、どんな酒豪も潰れるはずです」
 
「なぁルイ、お前も飲め。最初の店でほとんど飲んでなかったろ」
 と言ったのはジャックだった。「アールちゃんもな」
「いえ、僕は仲間が酔いつぶれたら介抱しなければならないので」
「私はあまりお酒得意じゃなくて」
「酒癖わりぃからな」
 と、シド。
「は? 誰がよ」
「覚えてねぇのがまたタチ悪い」
「まぁまぁ、今日別れたらもう当分会うこともねぇかもしれねーんだし、付き合ってくれよ」
「仕事でも見つかったのか?」
 シドはそう言ってメニューをルイに見せながら飲みたい酒を指差した。
「……まぁ、そんなところだ。もう昔みてぇに仲間作って外で旅すんのはやめにした。街ん中の仕事は大した金にはなんねぇが、安定はしてるからな」
 安定という言葉に反応したのはアールだった。
「安定した仕事についたら、奥さんも見つけやすいかも。婚活婚活!」
「コンカツ?」
 と、ルイ、シド、カイが口を揃えた。ヴァイスは声には出さなかったものの、アールを見遣った。
「結婚活動、略して婚活」
「ケッカツでよくね?」
「言いにくいじゃん。ていうか私が考えたわけじゃないし」
「婚活ねぇ」
 と、ジャック。自分にそんな余裕はもうないだろうと思う。
「私の友達はVRCの……」
 そう言いかけて、口をつぐんだ。
 
ミシェルとワオンの話を出そうと思ったが、ミシェルから別れたと言われたばかりだったことを思い出し、憂鬱になった。
 
「婚活、いいと思いますよ」
 と、ルイ。
「まぁ、縁があればな」
 ジャックは適当にそう答えた。
 
しばらくして、つまみと酒がテーブルに運ばれてきた。注文していなかった料理まで運ばれてきたが、店からのサービスらしい。
 
「就職祝いってことでもいい。ルイもアールちゃんも飲め飲め!」
「…………」
 アールとルイは困ったように顔を見合わせた。
「じゃあ少しだけ」
 と、アールが先に折れた。
「僕も一杯だけいただきます」
 
全員でグラスを持ち、二度目の乾杯をした。その様子を遠目からクラウンが眺めている。厨房の奥には店内にある監視カメラの映像が映し出されたモニタールームがあり、店内の状況は部下達にも筒抜けだった。
 
「スーちんも酒に浸かって酔っ払おうよ!」
 と、カイが取り分け皿にお酒を入れてヴァイスの前に移動させた。
 
スーはヴァイスの肩からテーブルにおり、ゆっくりとお酒に浸かる。
 
「スーちゃんも酔っ払ったりするの?」
 アールが訊くと、スーは両手で拍手をした。
「そんなんだ!」
 
ジャックはちらりとクラウンを見遣った。彼は電話でこう言っていた。
──酔いつぶれたら、アーム玉を奪うんだ。全員分のな。
 

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