voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交6…『声を』

 
「なんか静かになった」
 と、カイ。「さっきまで怒鳴り声聞こえてたのに」
「なにかあったのかな……」
 アールは心配そうにそう言ったが、その心配を面白がるようにシドが答えた。
「殺したんじゃね?」
「縁起でもないこと言わないで!」
「様子を見てみましょうか……」
 と、ルイも気が気ではないようだ。
「二人きりにさせておけよ。二人の問題だろうが」
「そうですが……」
 
アールはログ街の鉄工所でジムと別れる際に言われた言葉を思い返していた。ムスタージュ組織について。そして、仲間を殺した理由。詳しくは話してくれなかったけれど。
 
路地裏にいるジャックはジムに、自分がムスタージュ組織に入ったことで知った情報を話した。自分が入院していたときにアールから聞かされたこと。彼女が自分のせいかもしれないと言っていたこと。なぜ彼女が関係してくるのかわからなかったが、突然目の前に現れたクラウンによって、謎が繋がったこと。そして今目の前にいる自分らを裏切ったジムのことも。
 
「俺はこう解釈した。お前は元からムスタージュ組織という連中の仲間で、単独行動をしていた。その理由は知らねぇ。そんなお前の前に現れたのが俺らだ。そのときお前がなにを考えていたのかもわからねぇが、お前は俺らを利用することにしたんだろう? なにか俺らと行動を共にすることで都合がいいことでもあったんだろう。そんな中、奴らが現れた。アールちゃんたちだ。お前はその日を待っていたのか? だから俺らが邪魔になって殺したのか?」
 
ジムはジャックの背中にある属印を目にしてから、憔悴しきっていた。
 
こんな組織に関わるな……。そう思ってももう遅い。属印を捺されたからにはもう後戻りは出来ないのだから。そこに身を置いていた自分だからこそ思う。代われるのなら代わってやりたいと。でもこれはジャックが自分で選択した結果だ。彼をそうさせたのは自分だろう。
 
「ジム。答えろ。俺は生半可な気持ちで組織に入ったわけじゃない。なにも知らずにお前に殺されたコモモとドルフィ、そしてエディの思いも抱えてるんだ」
「ジャック……」
 
ジムは大きく息を吸い、覚悟を決めて吐き出した。自分がムスタージュ組織に入った経緯と、ジャック等を襲い、今に至るまでの話を始めた。その間、ジャックは口を閉ざしたまま聞いていた。
 
ジムがムスタージュ組織に入隊したのはある男に目をつけられたのが原因だった。ジムはその頃、父親がいなかったせいで家族を支えるためにクエストボードの依頼を受けながら生計を立てていた。とある魔物の駆除依頼を終えたジムは依頼主の元へ金を受け取りに行った。
その依頼主こそ、ムスタージュ組織の人間だったのである。
 
「ん? お前一人で駆除したのか」
 と、依頼主は玄関先で驚いたようにジムを見遣った。
「大した魔物ではなかったからな。賞金をもらえるか」
「あぁ、その前に金が必要ならいい話がある」
「…………」
「安心しろ、依頼の賞金はきちんと払うさ」
 
男はジムを家の中へ招き入れ、お茶を出した。先に報酬の受け渡しを済ませてから、おいしい話を持ちかけた。ムスタージュという組織に入らないか? という勧誘だった。
 
「ムスタージュ?」
 と、ジムは眉をひそめる。聞いたことがない組織だった。
「結構デカい組織でね」
 男はそう言いながら資料をテーブルに並べた。
「デカいわりには聞かないが」
「裏の仕事だからな」
「悪いがそういうのには興味がない」
 と、席を立つ。
「まぁ待て。裏と言ってもこれは世界を救うために立ち上がり作られた組織なんだよ」
「…………」
「聞くだけでいい。座ってくれ」
「…………」
 
ジムは仕方なく腰を下ろしたが、男に対して不信感を抱いていた。簡単に大金が手に入る仕事などない。それはこれまでがむしゃらに仕事を見つけて働きながら生きてきてわかったことだ。おいしい話には裏がある。
 
「まず、君の手で世界を救えるとしたら……君はどうする? 救えるかもしれないというのに、手を貸さないかい?」
「世界を救う? どういう意味だ」
「その質問には簡単に答えることができる。だが、簡単に答えるほど君は信じないだろう。ザハール、だったかな? 君の名は」
「回りくどい話は苦手だ。聞く気も失せていく」
「ならば手法を変えよう。──シュバルツを知っているか?」
 
知らない者などいないだろう。子供でも知っている名前だ。かつてこの世界を支配しようとしていた伝説の魔導師。そして必ずその男の名前を知ると同時に知るのはアリアンという伝説の女神。
 
「彼が目覚めようとしていることは知っているか?」
「なに……?」
「彼は悪党だ。そう思っている輩が大半だろう。ザハール、おそらくお前もそうだろうが、もしそれが間違いだとして、再び彼の目覚めを封じようとする新の悪が現れたらどうする。ほとんどの人間は善人顔をしてシュバルツを封じようとする者の肩を持ち、崇拝するだろう」
「シュバルツが悪者ではないのならなんだというのだ。奴はこの世界を変えた。悪いほうにな。外に出ればシュバルツが解き放った魔物がそこら中にいる。そのせいで人間は隔離され、今も──」
「彼はなんのためにそれほどの力を身につけたのだと思う? この世界を支配しようと異世界からやってくる脅威な力に備えるためだ。そのためには少なからず犠牲は必要だった。皆は言うだろう、あれほどまでに美しい女性が侵略者なわけがないと」
「まさか……。だとするならこれまで言い伝えられてきた歴史が変わる」
「そうだな。でもこれこそ真実だ」
「なぜそう言える」
「直接聞いたからさ。シュバルツ様のお声を」
 
 今こそ、力ある者が終結し、次の災いに備えなければならない
 
彼はそう言ったと、男は言う。決して冗談を言っているようではなかったが、半信半疑でしか受け入れられなかった。
 
「シュバルツ様は一刻も早く目覚めることを望んでいる。異界から来た者の力が上昇し、手遅れになる前に。その異界から来た“グロリア”と呼ばれる者を排除するか、より強いアーム玉を集めてシュバルツ様の目覚めを促進させていくことが我々に与えられた任務になる」
「……そんな大それた組織なら報酬もいいんだろうが、悪いが俺は」
「家族は3人か」
「…………」
 ジムは不安げに男を見遣った。
 
なぜ家族の人数を知っているのだろうと。依頼を受ける際に連絡先と住所を聞かれた。住所を訊いてくる依頼主は少なくない。結果報告を偽る連中もいるからだ。中には依頼を受け、怪我を負ったり命を落としてしまった際に家族へ連絡を入れるために控えてくれる人もいる。
 
「母親と、妹か」
「なぜ知っている……」
 と、ジムは立ち上がり、腰に掛けていた鎖鎌に手を添えた。
 
そのときだった。隣りの部屋のドアが開き、能面の男がジムの前に現れた。不気味な能面の男は第十七部隊の隊長、ハーヴェイだった。
 
「君の母親も妹も、家族思いで助かった。感謝すべきだな」
「どういう意味だ!」
「私はあなたのご家族にこう話しました。『あなたの息子さんに仕事仲間になって欲しいと頼んだら拒まれて困っている。仕事内容はアーム玉を集めること。それだけで毎日贅沢に暮らせるだけの報酬がもらえるんですけどね』と。するとあなた思いの母親は『うちの息子でお役に立てるなら宜しくお願いします』とおっしゃった」
「卑怯だぞ! 悪いが断らせてもらう。アーム玉探し? どうせそんな生ぬるい仕事だけじゃないんだろう」
「今更キャンセルは受け付けられない」
 と、ハーヴェイはあざ笑った。
「何か契約書でも書かせたのか……」
 ジムは鋭い目つきでハーヴェイを睨んだ。
「いや、もっと簡単だ。──属印、お前の代わりに捺させてくれたよ」
 
「……は? なんだその属印っていうのは」
 

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