voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交4…『隠し事』

 
「お父様」
 
リアが廊下を走ってきた。廊下を歩いていたジェイとゼンダは立ち止まり、振り返った。
 
「リアか。なんの用だ」
「気になることがあってお聞きしたいのですが」
「なんだ」
「城内にある宮殿の一室、昔から開かずの間とされている部屋ですが、最近何者かがよく出入りしているようなので……」
「それがどうした」
「ご存知なのですか? あの部屋で一体なにをなさっているのですか?」
「お前には関係の無いことだ」
「ですが……、あそこは昔から私にも近づくなと言っていつも鍵がかかっていたから……気になるのよ」
 と、リアは上目遣いで教えてほしいと訴えた。
「あそこは限られた人間にしか出入りを許していない。なにがあるのかも秘密だ。それより少し太ったんじゃないのか?」
「──?! 失礼ね! 体重管理は毎日してるわよ! 最低!」
 と、リアはゼンダに背を向けてその場を後にした。
 
「ゼンダ様、リア様にも話されていないのですか」
「様はやめろと言うとろう」
「失礼しました。ゼンダさん」
 と、二人は再び歩き出した。
「リアに話してどうする」
「そうですが……」
「彼女らと親しいようだからな。余計なことを話しかねん」
「彼女らとは……アール様たちのことでしょうか」
「あぁ」
 
━━━━━━━━━━━
 
「さて、そろそろ出るか」
 ジャックはそう言って席を立った。
「久々にお会いできて良かったです」
 と、ルイ。
 
シドは寝ているカイを叩き起こした。
 
「このあと少し時間あるか? アーム玉を取りに行くから待っていてほしい。それか一緒に……」
 と、話を中断した。ポケットに入れていた携帯電話が鳴ったからだ。「わりぃ、ちょっと待っててくれ」
 
ジャックは店の前に出てから、電話に出た。大体誰からかは検討がつく。じわりと嫌な汗が滲んだ。
 
「──なんだよ」
『ジャーック。どれだけ手間を取らせる気だ?』
「ちょっと待ってくれ。アーム玉を出させるいい口実が見つからないんだ。怪しまれたら終わりだろう? 俺が泊まっている宿に呼んで酔い潰して奪うってのも考えてるんだが、普通に誘っても断られるだけだろうしな……」
『ならばこれから指定するレストランに連れて来い。行けばわかる』
「え……」
 
電話は一方的に切れてしまった。ジャックは戸惑いながら電話を切り、店のドアを開けてアール達を見遣った。眠気に負けそうになりながらふらふらと揺れているカイを見ながら笑っている彼女達は、いつか世界を破滅に向かわせるなど想像も出来ない。
 
「あ、ジャックさん。お電話は終わりましたか?」
 と、ルイ。
「あぁ。けどおかげで気分が下がっちまった。飲みなおしたいんだがもう一軒付き合ってくんねーか? もちろん俺のおごりでよ」
「ありがたいのですが……なるべく早く宿に戻って、明日の朝には街を出たいと思っているので。それにカイさんも眠いようですから」
「なんだよ付き合いわりぃな……」
 と、焦りを見せた。
「じゃあシドが行ったら?」
 と、アール。「シドお酒好きでしょ?」
「まぁ酒を飲むのはかまわねぇが……」
「アールちゃんも付き合ってくれよ。酒は飲まなくたっていい。女の子がいないと寂しいだろ。話に付き合ってくれるだけでいいんだ」
「うーん……じゃあ少しだけ」
「なら俺も行く!!」
 と、目を見開いたカイ。「ジャックからアールを守らなければ!!」
「誰もアールちゃんに手ぇ出したりしねーよ」
 ジャックは苦笑した。けれど、なるべく全員を連れて行きたいジャックにとっては好都合だった。
「ではカイさんが心配なので僕も行きましょう」
「おぉ、ありがとうな! ──じゃあそっちの兄ちゃんはどうするんだ?」
 
カウンターに座っていたヴァイスが振り返る。
 
「ヴァイスも来るでしょ?」
 と言うアールに。ヴァイスは歩み寄った。
「いや、私はいい」
「でも宿に戻ってもなにもないし外もなにもないかもよ?」
「…………」
「ヴァイス」
 と、ジャック。「次はレストランに行く予定でな、そこのワインがまた美味いんだ。来て損はないと思うぞ」
「…………」
 ヴァイスは黙ったままため息をこぼした。
「仕方ないから行くってさ」
 アールは無言でいたヴァイスの表情からそう言った。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -