voice of mind - by ルイランノキ


 友誼永続15…『晴朗』

 
「ぎゃああぁあああぁあ!!」
「うっせーッ! また来たぞッ! お前も少しは刀抜け!!」
 
青空の下、カイの悲鳴とシドの怒鳴り声が朝っぱらから響く。
 
「静かにしてください。アールさん達はまだ寝ているのですから」
 と、ルイは冷静に言った。
「お前のせいだろーが!」
 と、シドが叫ぶ。「大体なんで結界張らずに料理してたんだよ! 匂いで魔物が寄って来たんだろーがっ!!」
「すみません、寝ぼけていてここは結界が張られていなかったことをすっかり忘れておりました」
 と、ルイは照れ笑いしながら、後から張った結界の中で料理をしている。
「アホかッ!!」
 そう叫ぶと、シドは次々に現れる魔物を斬りつけて行った。寝起き早々、いい運動である。
「ルイーっ! 結界ん中入れてくれよぉ!」
 と、カイは結界の外からルイに向かって叫んでいる。
 
早朝5時。耳を塞ぎたくなるほど騒がしい朝だ。──実際、テントの中ではシェラが耳を塞いでいた。
 
「もう! 朝からうるさいわね! これだから嫌なのよオスは!!」
「ん……シェラ……?」
 と、アールはシェラの怒り声に目を覚ます。
「あら、起きた? おはよう」
「おはよ……」
 目を擦り、欠伸をした。外からは彼等の叫び声がする。「なにごと……?」
「魔物が寄って来たらしいわ」
 そう言うとシェラは、ポーチからクリームを取り出した。「アールちゃん、背中出して」
「背中……?」
「この前、泉で背中を見て驚いたわ。青痣だらけじゃないの。お薬塗ってあげるわ」
「ありがと。そんなに酷い?」
 と、訊きながら、アールは服を脱いだ。
「えぇ。大きな痣もあるわ。痣というか、血が滲んでいるわね」
「うそ?! おかしいなぁ……この服、防護に優れてるって言ってたのに」
「防護に優れているからこそ、痣だけで済んだんじゃない」
 と、シェラは答えながら、アールの背中にクリームを塗り始めた。
「わっ! くすぐったいって!!」
 アールは身をよじりながら笑う。
「我慢しなさい」
「あ、じゃあこの服着てなかったら……もっと酷いことに?」
「骨が折れてるところよ。アールちゃん、受け身下手でしょう? だからこそ痣が出来やすいのよ。どんなに防護に優れてる服を着ても、受け身が下手なら意味がないわ」
 
アールは尻餅をついたときのことを思い出していた。この服を着ていなかったら、アールの尾てい骨に皹が入っていたことだろう。
 
「ふふっ……くすぐったい」
 痛みを感じないようにとシェラが優しくクリームを塗るせいで、アールはくすぐったさに耐えていた。
「我慢しなさいったら」
「なんか背中がポカポカしてきた」
「薬が効いてる証拠よ。痛みが先に引いて、痣も治りが早くなるはずよ」
「泉に浸かっても痣は消えないのかぁ……」
「治りは早くなるはずよ? アールちゃんの場合は治る前にまた痣を作っちゃうんでしょ」
「あ……なるほど」
 と、アールは自分に情けなさを感じながら納得した。
「さ、塗り終わったわ。このクリームもあげる」
「いいの? 貰ってばっかり……」
「気にしないの。同じ女として同情してるのよ」
「あははは……」
 苦笑するしかない。
 
外に出ると、ルイがいつもの笑顔で朝の挨拶をした。シドは並べた椅子にグッタリと横たわっている。
 
「アールぅ……遅いよ、俺死んじゃうところだったんだからぁ……」
 と、カイは半ベソをかきながら言った。
「もしかして全部シドに任せたの……?」
 アールはゴロゴロと転がっている魔物を眺めながら言った。
「俺、朝弱いもん……。でも珍しく起きてることを褒めていただきたいものだね!」
「食事出来ましたよ」
 そうルイが言うと、全員席につき、朝食を摂った。
 
アールは仲間に迷惑をかけたというのに、いつもと変わらない皆の態度に優しさを感じていた。そして、一日を取り戻す為にも、今日は無理をしてでも頑張ろうと心に決めたのだが──
 
「無理はしないでくださいね」
 と、食事を終えて食器を洗い流しながらルイが言った。
「でも……頑張らないと。カイが歩くのをやめたとき、私自分のことを棚に上げて散々怒っちゃったし。カイに悪いことしちゃったな……」
 
アールがルイと話している間、シドは朝の筋トレを始め、カイはシェラと何やら楽しそうに話している。アールは皆の食べ終えた食器を、バケツに移した泉の水で洗い流しているルイの元へと運び、手伝った。
 
「カイさんのことは気にしなくて大丈夫ですよ。それから、頑張るのは良いことですが、無理をしてまた体調を崩してしまっては元も子もありません。一人で、頑張ろうとしないでくださいね」
「うん……。ルイは優しいね」
「そんなことはありませんよ……。気遣う言葉なら、誰だって言えますから」
 と、ルイは謙遜して言った。
「そんなことない。うまく言えないけど、なんていうか、ルイの言葉は本当に温かくて、ホッとするよ。落ち着くっていうか……ルイだからこそだと思う」
 そう言ったアールの言葉に、ルイは笑顔を見せた。
「ところでルイの髪ってなんでそんなサラサラなの?」
 と、ルイの髪が風にサラサラと靡くのを見て、訊いた。
「え、唐突ですね」
 ルイは笑って、「母親に似たのかもしれません」と答えた。
「ルイのお母さんは美人そうだね」
「……どうでしょうか。でも、とても温和な人で、自慢の母でした」
 
言い方が、過去形だった。
 
「温和なのもお母さん似なんだね」
 そう言うと、ルイはまた優しく笑った。


──どうして過去形なの? と、深く訊こうとしなくてよかった。
誰にだって話したくないことのひとつやふたつ、あるものだから。
 
あの時もし訊くことを選択していたら、最後に優しく笑ってくれたルイの笑顔は消えていたと思う。
 
ルイの過去を知ることになったとき、そう思ったの。

 

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©Kamikawa
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