voice of mind - by ルイランノキ


 心憂い眷恋15…『芽生え、定着する』 ◆

 
「ルイ……」
 と、アールはスープを煮込んでいるルイの裾を掴んだ。
「はい……」
 
嫌な夢をみた。彼女が元の世界に帰れずに絶望する夢だ。そのせいで自然に顔向けができない。
 
「頭痛い……頭痛薬あるかな」
「大丈夫ですか?」
 と、ルイはシキンチャク袋から頭痛薬を取り出した。「ストックしていた分は?」
「もうない……」
「いつ飲まれたのですか……? なるべく具合が悪いときは知らせてくださいね」
「はい……」
 
アールは粉薬を受け取り、椅子に座った。水で流し入れる。苦味が口の中で広がり、顔をしかめた。頭がズキズキと痛む。おそらく偏頭痛だろう。
 
「う”−……」
 両手で頭を押さえた。
 
朝食が出来てからカイを起こし、シドも戻ってきた。顔色の悪いアールを見て、馬鹿にしたように笑う。
 
「お前なんか急に老けたな」
「うっさい! 頭が痛いの!」
 隣りに座っているカイがアールの顔を覗きこんだ。
「寝すぎて?」
「カイじゃないんだから」
「じゃあ考えごとしすぎて? 例えば俺のこととか」
「それはない。偏頭痛だと思う」
「いや、俺のこと考えすぎたんだと思う」
「しつこい」
「…………」
 
ルイはアールのことを気に掛けていた。その様子はシドの目に煩わしく映っていた。
ヴァイスも戻り、カイとアールはテントで布団を畳み、ルイが後片付けをしているところにシドが忠告をした。
 
「お前、立場考えろ」
「え?」
「惚れんなよ? 女に」
 
動揺した。これまでなら迷いなく「惚れませんよ」と否定できたというのに、喉をつっかえた。
心に痛みを感じた。その痛みはなんなのか、自分に問い質さなくても薄々分かってしまう。自分の中に芽生えた特別な感情が、はっきりとくっきりと姿を現してゆく。
望んでいないのに、くっきりと、色づいてゆく。
 
「ルイ、お前……」
「大丈夫です……」
「なにがだよ。冷静になれ。どこがいいんだあんな女。その辺の女の方がまだ扱いやすいぞ。立場上、世話を焼かねーとなんねぇからなにかと気にするのはわかるが、間違っても惚れんな」
「…………」
 
心が痛い。視界がぼやけていく。
手を差し伸べたかった。夢の中で絶望を見ていた彼女に。そこに自分しかいなかったのも、今なら痛いほどわかる。自分が支えたかった。他の誰でもない、自分が。
 
「そういう感情はいらねんだよ。邪魔だ」
 と、シドは強く切り捨てた。
 
風が吹いた。なんの味気もない風が通り過ぎていった。心を撫でるように。
頭痛が治まったと笑顔でテントから顔を出した彼女から目が離せなくなる。
 
「お前、自覚していなかったようだがだいぶ前からチビに惚れてたろ。本気で忠告すりゃあ、余計に意識するだろうと思ってはっきり忠告出来なかったが、自覚したんなら自分で制御しろ。あいつには男がいるし、別世界の人間だ。旅に必要ない無駄な感情は捨てろ。いいな?」
 
「……はい」
 
彼女に恋心を抱いたのは運命なのかもしれない。
これも必要な感情だというなら僕は──
 

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