voice of mind - by ルイランノキ


 心憂い眷恋14…『訪問者』

 
信じるしかなかった。
自分達は間違っていない。シュバルツは世界を滅ぼす。だから倒さなければならない。
単純なこと。
そのために力を身につけて、旅路を行く。
平和な未来を手に入れるためのルートを辿って。
 
━━━━━━━━━━━
 
彼女は重厚で何メートルもある巨大な扉の前にいた。扉が開くのをずっと待っていた。
ルイはそんな彼女の背中を眺めていた。手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、触れることが出来ない。
自分に向けられた背中が自分を拒否しているように見えたからだ。
 
「ねぇルイ」
 と、彼女は言った。
「なんです? アールさん」
 
アールはルイに背を向けたまま、語りかけた。
 
「どうして開かないんだろうね」
「…………」
「全て終わったのに」
「…………」
「私、言われたとおり頑張ってきたのに」
「…………」
「どうして?」
 
 どうして元いた世界への扉が開かれないの?
 
ルイは答えられなかった。ルイの口もこの扉のように堅く閉ざされていた。
 
僕は知っている。
どんなに待っても、扉は開かない──
 
  * * * * *
 
「おいっ」
 と、シドの声で目が覚めた。「結界外せ」
「え……あ、はい」
 と、ルイは寝袋から起き上がった。左隣の寝袋にはアールが眠り、右には起きているシド、その向こうにはカイが眠っている。
 
危険な道端で一夜を過ごすことになり、結界を張ったのだ。そして朝を迎えた。ルイは周りに魔物がいないのを確かめてから結界を外す。
 
「お早いですね」
「魔物の気配のせいで眠れなかったんだよ」
「すみません……」
 ルイは結界を張りなおした。出入りが自由に出来る結界にしたため、カイの寝相を気にかけなくてはならない。
「ヴァイスさんは……」
「しらねーよ」
 
ヴァイスは結界の中で眠らなかった。またどこかへ姿をくらまし、出発の時間になるとふらっと戻って来る。

シドはストレッチを済ませ、魔物を狩りに出た。ルイはテーブルを出し、朝食の準備に取り掛かる。
テンプスには今日中に着くだろう。ふと、エリザベスは無事に財布を見つけただろうかと頭を過ぎる。
 
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「モーメルさん?」
 
朝になり、顔を洗いに階段を下りたミシェルだったがモーメルの姿はどこにもなかった。裏庭にでもいるのだろうかと思ったが、テーブルに置き手紙があることに気づく。
 
≪出かけてくるから留守番頼むね。男は連れ込まないでおくれよ? 夕方に帰る≫
 
「連れ込まないわよ!」
 と、苦笑する。
 
紙に書かれているのはそれだけだった。なにかしておいてほしいという頼みごともない。急にやることがなくなってしまったミシェルは顔を洗い、台所で朝食の準備を始めた。食事を終えたらなにをしよう。裏庭の草むしりと、部屋の掃除でもしようかしらと思い立つ。
 
しかし朝食を終えて食器を洗っていると、「ごめんください」と訪問者がやってきた。水道の水を止め、不安げにドアを開けた。
 
「あ、どうも」
 と、スーツ姿の男。「随分お若くなりましたね……」
「え? あ、私はここでお世話になっている者です。ミシェルといいます。あなたは?」
「あ、なんだ、驚きました。てっきり若返りの薬でも作り出したのかと。私はモーメルさんの下で働かせてもらっております、ギップスという者です」
「ギップスさん?」
「新商品をお届けに」 
 と、手に持っていたスーツケースを見せた。
「えっと……ごめんなさい、モーメルさんは今留守なの。夕方頃に帰ってくるそうです」
「え?! 今日の朝伺うと前以てお伝しておいたのに……」
 と、ギップスは肩を落とした。
「もしよかったらお茶でもいかがですか? 私ひとりで退屈だったの。新商品って気になるし」
「宜しいんですか? ではお言葉に甘えて……」
 
ミシェルはギップスを招き入れ、お茶を出した。モーメルの家に見知らぬ人が訪ねてくることはない。ここに来るには専用の鍵と暗号が必要だからだ。その為、ギップスと会ったのは初めてだったミシェルも快く招き入れることが出来た。
 
「新商品というのは……」
 と、スーツケースを開けようとした手を止めたギップス。
 
改めてミシェルを見遣る。彼女はどこまで知っているのだろうと。選ばれし者のことである。もしなにも知らないのであればあまりアールたちのことは口に出来ない。

「どうされました?」
 と、向かい側に座っているミシェル。
「ミシェルさんはアールさんをご存知ですか?」
「え? もちろんよ。だってモーメルさんを紹介してくれたのは彼女だもの。あなたも知っているのね」
 と、笑顔で答えた。
「では……アールさんが旅をされていることは?」
「もちろん知っているわよ。時々電話でお話しをするの。昨日は恋愛相談にのってもらっちゃった」
「…………」
「なにか?」
「あ、いえ。では……旅をされている理由は?」
「知らないわ」
 と、視線を落とした。「詳しくは知らないの」
「そうですか」
 
ミシェルという女性にどこまで話していいのか、大体の範囲はわかったギップス。
 
「あなたは知ってるの?」
「え? いえ、私もあまり……」
 と、めんどうにならないようにと返答を濁した。
「そう……」
「モーメルさんの知り合いということで、私は彼女達に役立つアイテムを提供しているのです」
 と、スーツケースを開けた。
 
ぱっと見た限りではガラクタにしか見えない商品が沢山詰まっていた。
 
「以前アールさんにこのネックレスを差し上げたんです」
 と、チェーンを見せた。「触れたものが小さくなり、ペンダントトップとしてお使いいただけるのです」
「あ、知ってるわ! 一緒にお買い物に行ったときに見せてもらったの! 剣をぶら下げていたのよ」
「そうでしたか! 活用していただけているようでよかった。カイさんにはお返事うさぎというぬいぐるみを」
「ふふ、なんだか可愛いわね」
「そして今回は新作をいろいろと持ってきまして──」
 と、ギップスは自信作を次々に紹介していった。
 

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©Kamikawa
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