voice of mind - by ルイランノキ


 心憂い眷恋13…『成長』

 
ルイは朝食のサンドイッチをほお張るアールをじっと見つめた。アールもサンドイッチを食べながらルイを見つめている。水を入れたコップにはスーが浸かり、泉の縁に腰掛けていたヴァイスは空いている椅子に座り、紅茶を飲んでいる。
アールの横では目を閉じて半分寝ながらサンドイッチを食べるカイ。
 
「…………」
「ルイ? 質問に答えてもらっていい?」
 と、痺れを切らしたアールはそう言って水を飲んだ。
「え……えっと……?」
「あまり何回も訊きたくないんだけど……だから、女の子から積極的に手を繋いだりハグ以上のスキンシップを求めるのってあり? なし?」
「えっと……なぜそんなことを?」
 と、ルイもあまりこういう話は得意ではなかった。
「友達から訊かれたの」
「あぁ……」
 電話の相手はわかっている。
「ルイはどう思う?」
「僕は……どうなのでしょうね……」
「自分だったらあり? なし?」
「えーっと……」
「もう。わかんないならいい」
 
訊こうか散々迷って、参考になればと勇気を出して訊いたのに答えてもらえないなら訊かなきゃよかったと後悔した。
 
「俺は襲われたい……」
 と、カイは寝ぼけながらも話を聞いていたのかそう呟いた。
「カイは訊かなくてもわかるよ」
「…………」

アールはサラダに手を伸ばしながら、ヴァイスも近くにいるけれど彼には訊けないなぁと思った。なぜだろう、年上で大人だし、なんだか生々しい気がする……。
 
「あ、そういえばあの人は? 昨日の……」
「エリザベスさんですか? 朝食を食べられたあと、休息所を出ました。風が止んでいたので早めに財布を探しに行くと」
「そっか。元気になったんだね? 仲間を襲った魔物は大丈夫なのかな……」
「魔物はわかりませんが、腕の腫れはだいぶよくなっていましたよ」
「それならよかったね。無事に見つかるといいけど……街に着く前に無くしたものなんて見つかるかなぁ」
 
風は治まっていたものの、いつまた吹き荒れるかわからない。一向はいつもより足早に旅路を急いだ。ここからテンプスまで休息所がないため、暗くなればどこかの道端で寝袋を敷くしかない。少しでも安全な場所も探しておきたいところだった。
 
しかし急いでいるときに限って邪魔者が入る。急いでいるからこそ邪魔に感じるのだろう。
一行の前に、5人の敵が現れた。
アールは仲間の後ろに身を隠した。相手は魔物ではなく、人間だったからだ。人とは戦いたくはない。彼らはアールたちの行く手に待ち伏せをするように現れ、近づくと武器を向けた。
 
「なんだテメーら」
 と、シドも刀を抜く。
 
鍛えられた体を持った男らは、それぞれ刀剣を身につけていた。長剣、短剣、様々だ。
 
「自己紹介、必要か?」
 そう言って一人の男がシドを目掛けて刀を振るった。シドは攻撃を跳ね返し、それを合図に戦闘が始まった。
 
人が死ぬところは見たくない──
アールの顔はみるみる青ざめてゆく。
 
「アールさんは待機を」
 と、すかさずルイがアールを結界で囲んだ。
 
残りの4人はルイ、ヴァイス、カイが請け負った。アールの目に、特撮映画のような光景が飛び込んでくる。アクション映画を観て必ず思う。こんなにジャンプできないし、目で追えないほどこんなに素早く動けないし、相手の動きを読みすぎだし、それに──
 
「寝起きに暴れるのも悪くない!」
 と、カイは敵の攻撃をブーメランで防ぎ、隙をついて打撃を加えた。
 
シドはとっくに地面にうつ伏せになっている男の背中に足を乗せ、ルイはロッドで振り払いながらみぞおちを狙い、蹲ったところを結界で囲んだ。ヴァイスにいたってはガンベルトから銃を抜くこともしなかった。軽々と交わし、弄んだあと背後に回って男の腕を掴み、取り押さえた。
 
アクション映画を観て必ず思う。相手の動きを読めすぎだし、それに、かっこよすぎる。
 
「あっという間だ……」
 アールは高ぶる思いで呟いた。
 

気づかなかったんだ。
いつも自分のことで精一杯で、みんなのことちゃんと見てなかった証拠だよね。
私が少しでも力をつけようと頑張ってる中で、みんなも成長していたんだ。始めは随分と弱い敵だったなって思ったけど、違うんだね。
みんながそれだけ素早さも攻撃力も上がったんだ。
 
特にカイには驚いたんだよ。いつのまに逃げなくなったの?
感動したと同時に、なんかちょっと寂しくなった。一番弟みたいだったカイが、男らしくなっちゃったから。
 
でも、毎回じゃないのは相変わらず。
カイには悪いけど、カイが敵によっては真っ先に逃げる姿を見るとホッとしてたの。
ごめんね。

 
「で? お前ら何者なんだよ。物取りか?」
 シドは足の下で潰れている男に問う。
「シドさん、どうやら彼らは例の組織の一員のようです」
 結界に閉じ込めていた男の腕を捲くり、そこにある属印を見つけた。
「ムスタージュか。部隊はどこだ」
「…………」
「答えろ!」
 と、体重を乗せた。
「うっ……第十四部隊だ……」
「んだよ、かなり下っ端じゃねーか。残ってる部隊はあと何部隊あるんだ?」
「そんなもん知るかっ。俺達はあまり顔を合わせることがない」
「でもさぁ」
 と、カイが歩み寄る。「噂とか聞かないの? 十六部隊がやられた、とか」
「例え聞いてもお前らには話さん!」
「負け犬のくせにー」
「話しても話さなくても俺達は──」
 
彼らの腕に刻まれている属印が光りを放ち始めた。一向はすぐに彼らから距離を取った。
 
「防ぐ方法はないのですか?!」
 と、ルイは表情を凍らせる。
 
アールは彼らから顔を背けた。人が爆発するところなど見たくはない──
 
「何故自分の命を賭けてまでこんな──」
 
彼らは一箇所に集まると移送魔法を発動させ、ルイに言った。
 
「お前たちが行おうとしていることは間違っている。俺達はそれを命がけで防ぎたいだけだ」
 
彼らの足元に魔法円が広がり、彼らの姿を消したと同時に生ぬるい液体が飛んできた。血だ。移送される前に弾け飛んだのだろう。
重く沈んだ空気が一行を包み込んだ。直接手を下したわけではないが、勝利を手にすれば相手は消されてしまう。それも木っ端微塵に。
 
アールを囲んでいた結界に小さな血肉がはり付いていた。赤い線を描きながらゆっくりと地面に落ちた。
その血の臭いを風が運んだのか、魔物が集まってきた。
 
「ルイ、出して」
 アールはルイに結界を外してもらい、剣を構えた。相変わらず自由に出入り出来てしまうときと出来ないときがある。
「俺パスー……」
 と、戦う気力を無くしたカイが一番後ろに回る。
「シドは?」
「やるに決まってんだろ」
 
二人は魔物を目掛けて武器を振り上げた。
ルイはシキンチャク袋からタオルを出し、水にぬらした。顔に飛び散った彼らの血を拭った。
 

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