voice of mind - by ルイランノキ


 心憂い眷恋12…『悩み相談』


 
あなたと出会って、あなたと仲良くなって、あなたの幸せを願ってた。ずっと、思い描いていたの。ミシェルが幸せの中で笑ってる姿を。
 
恋の話を訊くのは大好きだった。ワオンさんとのデートの話。
ずっと気に掛けていたから、いい報告が聞けると素直に嬉しかった。
 
でも、自分の話はあまり出来なくてごめんね。
話したかったよ。
でもきっと、幸せだったときの話をすればするほど、辛くなっていきそうな気がして。
 
ルイがシェラにだけはと私のことを話したように、私はミシェルにだって話したかった。
私ね、別の世界から来たんだよ。
だから恋人とは離れ離れなの。って。
 
そんな話が出来ていたら、なにか変わっていたのかな。
 
女として生まれてきたんだから、女としても幸せになりたいよね。
でもきっと、私には叶えられない。
 
どう思う? ミシェル
私は……最低なのかな
 
最低なんだろうね……
 
どうか私の分も幸せになってほしい
心からそう思うよ。

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「ねぇ、モーメルさんって恋占いとか出来ないの?」
「アタシは占い師じゃないよ」
 台所で薬草を洗いながら呆れたようにそう言った。
 
ミシェルの恋は順調だった。メールは毎日しているし、電話も時間が合えば掛け合って、互いの声を聞いている。
ただ、人より少し、慎重な滑り出し。男に騙された経験のあるミシェルに気遣うワオンと、最低な男と付き合っていた分、ワオンの優しさに惹かれてもう少し先へ進みたいミシェル。
 
「あんたは怖くないのかい」
「え?」
「面倒な男と付き合っていたんだろう? 今の男がいい奴なのはわかったけど、暴力を振るわれていたんならトラウマってもんがあるんじゃないのかい」
「…………」
 
ミシェルは視線を落とし、考えた。でもいくら考えても、リアルな想像が出来ないのだ。ワオンが暴力を振るう姿を。彼の人柄がそうさせているのかもしれない。
 
「大丈夫よ。私ちゃんと彼のこと好きだし、彼とならって思うもの」
「そうかい。それならいいんだけどね」
「どういうこと?」
「焦ることはないってことさ」
 
ミシェルは少しふて腐れた。焦っているつもりはないけれど、早く愛されたいと思っている。新たに愛する人が出来て幸せだというのに、最後に自分の体に触れたのは前の男だ。
心も体も、早く彼のものになりたいのに。
 
「自分から誘うのって、なしかな……?」
「手伝わないなら向こうに行っておくれ。邪魔だよ」
「もう……相談してるのに!」
 
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ルイは寝袋の中から顔を出したアールに、コーヒーを運んだ。
テントのない、いつもと違う朝だ。寝心地はテント内で布団を敷いた時とは比べ物にならないが、思っていたよりかは快適だった。
 
「アールさん、おはようございます」
「おはよ」
 と、コーヒーを受け取る。「ありがとう」
 
シドは既に朝食を食べ終え、軽くストレッチをしている。カイはまだ寝袋の中で、ヴァイスは聖なる泉の縁に腰掛けていた。
 
「ヴァイスも寝袋で寝たの?」
 と、テーブルの上でアールとカイの朝食の準備をしているルイに声を掛けた。
「なぜです?」
「ミノムシみたいに包まってるの想像できない。私が寝るときヴァイスまだ起きてたし」
 アールはコーヒーを一口飲んだ。
「実は僕も気になっていたのですが寝袋は使わなかったようですよ」
「そっか。ちょっと見たかったのに。ミノムシヴァイス」
 そういうと、ルイはくすりと笑った。
「あと一日半くらいでテンプスに着くんだよね?」
 と質問した瞬間、アールのポケットから携帯電話が鳴った。「電話だ……」
「どなたです?」
 
携帯電話を取り出して確認すると、ミシェルからだった。思わず笑みを浮かべ、誰からの電話なのかルイに伝え忘れたまま電話に出る。
 
「もしもしミシェル?!」
 
ルイは電話の相手を知り、ほっとした。
あれからだいぶ経つが、シオンからはなんの連絡もない。
 
「え? 恋愛相談? 聞く聞く!」
 と、アールは休息所の端に移動した。聞かれたくないからだ。
 
しかしミシェルの電話はまずデートの惚気話からはじまってしまった。それでもアールは楽しそうに聞いた。不意に、そういえば昨日の男、エリザベスはどこに行ったのだろうと周囲を見回したが、どこにもいない。
 
『すっごく楽しかったの!』
「よかったね! ワオンさんが上映中に寝ちゃう人じゃなくてよかった」
 と、笑う。
『ふふ、私もね、寝ちゃうんじゃないかと少しハラハラしてたの。それでね、映画が終わって食事して買い物して……』
「うん」
『彼の家に泊まったのよ』
「…………」
『…………』
「えぇっ?!」
 
アールは思わず大きな声を上げてしまった。急に訪れた大人の展開!
 
『あ、何もなかったのよ? まだ……』
「あ、そうなの?」
『うん。朝食を作ってくれないかって頼まれたのよ』
 
ミシェルは昨日の出来事を詳しく説明した。
 
「そっか。ワオンさん、ミシェルのこと大事に思ってくれてるんだね」
 アールは心がほかほかしてくるのを感じた。旅をしている最中には感じれない、くすぐったくて愛おしい感情だ。
『うん。でも……ここで相談なの』
「うん、どうしたの?」
『次の展開って言うのかな、そういうのって女の方から誘うのって、無しかなぁ……』
「次の展開? 次のデートの約束とか?」
『違うわよ……手をつないだり、キスしたり……その先とか?』
「──?!」
 
アールは言葉に詰まった。──いや、別に大人になれば当たり前の展開なのだが、あまりこういう話には慣れていなかった。話すだけでも少し恥ずかしい。
 
「えーっと……」
『まず手を繋ぐのは別にこっちからでもいいわよね?』
「うん、いいと思う。ワオンさんもきっと喜ぶよ」
『じゃあ、キスは?』
「喜ぶんじゃないかな……」
『でももし引かれたら? 積極的な女の子が苦手な男の人だっているでしょう?』
「そうだけど……。あ、じゃあ誘ってみたら? 顔を近づけてみる、とか……」
『不自然じゃない? それ。要は寸止めみたいなことよね?』
「うん。例えばまた映画に行くんだったら、パンフレット見ながら顔を近づけること出来ると思うし」
『あ。そっか。それなんでも使えるかも!』
「あとは何もついてなくても睫になにかついてるよ? って言って顔近づけるとか」
『きゃー! なにそれ素敵! そんなことできるかなぁ……でもやってみたい!』
「私には出来ないけど、昔テレビで恋愛テクニックとして紹介されてたのを観たの」
 
もちろんそれは自分の世界での話だ。懐かしいテレビ番組を思い出し、少しだけ気分が曇った。
 
『アールちゃんそんなの観てるの?』
 と、ミシェルは笑う。
「たまたまだよ! いつも見てたバラエティ番組で色んな企画やってて」
『へー、なんていう番組?』
「えっと……」
 言葉に詰まった。冷やりと汗が滲んだ。
『あ。でも教えてもらってもモーメルさん家にはテレビないから意味ないかー…』
 と、すぐに付け加えたミシェル。そのおかげで番組名を言わずに済んだ。
「そっか、モーメルさん家ないもんね。まぁ番組名忘れちゃったし、それより恋愛テクニックとか書いてる本とか見てみたら?」
『えー、ああゆうのって興味あるけど……買うの恥ずかしくない?』
「あははは! わかる! 買うとしてもネットで買うよねー」
『ネットで? アールちゃんパソコン使えるのね、すごい!』
「え? あ……うん」
 
パソコンはろくに使えない。ネットで注文するときはいつも携帯電話からだった。でもこの世界の携帯電話はネットで買い物も出来るのだろうか。知らないアールはまた言葉に詰まってしまうのだった。
 
「アールさん、朝食できましたよ」
 と、ルイが電話中のアールに声を掛けた。
「あ、うん。すぐ食べる」
 そう答え、もう少し話したかったのにと思いながら、ミシェルに伝えた。
「ミシェルごめん、これからご飯なの」
『そう……もう少し話したかったのに、残念ね』
「私も。相談の件なんだけど私も考えとくね。ろくにアドバイスできなくてごめん」
『ううん、聞いてくれただけでも嬉しい。じゃあ、今日も頑張ってね!』
「ありがとう! ミシェルもね!」
 

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