voice of mind - by ルイランノキ


 心憂い眷恋10…『暴風注意報』

 
「モーメルさんただいま……」
 
ミシェルは昨日出かけるときに着ていた洋服と同じ服で帰宅した。
モーメルは裏の畑で野菜を収穫しているところだった。
 
「おや、“早い”帰りじゃないか」
「あはは……すみません。すぐ手伝いますね」
 
ミシェルは一先ず二階の部屋で着替えを済ませてから、裏庭に戻った。
 
「急にすみませんでした」
 と、収穫を手伝う。
「いいんだよ」
「私も予想外で……」
「いいって言ってるだろう?」
「まさかあんなお願いされるとは思わなくて……」
「…………」
 モーメルは手を止め、ミシェルを見遣った。「話したいんだろう? まったく、わかりやすい子だねぇ」
「聞いてもらえます?!」
 と、ミシェルも手を止めてモーメルを見遣った。
「聞くけど手は動かしておくれよ?」
「はい! 実は……って、どこから話そう! あ、映画館に行ったんですけど──」
 
ミシェルの話は今日一日尽きることはなさそうだと、モーメルは覚悟した。
 
「ワオンさんったらポップコーンをほお張るのよ! もう子供みたいで可愛くって!」
「そうかい」
「ていうか映画といえばポップコーンだよなって、可愛くないですか?!」
「……そうかい?」
「想像してみてください! ガタイの大きい大人の男性がポップコーンをほお張るんですよ?!」
「…………」
「もうそのギャップにきゅんとしてしまってやばかったんですから!」
「そうかい……」
「私もポップコーンいただいたんですけど──」
「ポップコーンの話はいつまで続くんだい?」
 
なかなか話が進みそうにない。
 
━━━━━━━━━━━
 
テンプス街へ向かう道中、ルイの腕に嵌められているデータッタが音を鳴らした。
 
「なに? アーム玉?」
 と、アール。
「いえ、注意報です」
「注意報? なにそれ……」
「これから約5時間後、暴風地域に突入することになるようです」
「なにそれっ?!」
 
アールは自分の世界でのことを思い出していた。
天気予報などで暴風警報が出たときは基本、外には出ない。当たり前だ。危険だから。
台風が来ているというのに外に出て海を見に行く命知らずのばか者がニュースで取り上げられていたこともあった。ほんとにバカだなって思った。実際それで命を落とした人もいる。
そしてそういう輩の考えが全く理解できないよねと、久美と電話で話したっけ。
 
「うひょーッ!! とーばさーれるぅぅぅぅ!!」
 
カイの騒がしいはしゃぎ声も聞き取れないほどゴオオオオオオオオオオという爆風が吹き荒れ、目が開けられないほどだった。木々は今にも折れてしまいそうなほど横倒しになり、折れた枝が凶器と化して飛んでくる。
 
「わぁ?!」
 と、後ろに飛ばされそうになったアールの体を、後ろにいたヴァイスが咄嗟に支えた。
 
ヴァイスとルイのロングコートがマントのようにバサバサと暴れ靡いている。
 
「アールさん! 大丈夫ですかッ?!」
「いいえッ!!」
 キレ気味に答えるにはわけがあった。
 
暴風域に入る前にテントを張って休みましょうとあれほどルイが言ったのに、聞かなかった仲間が2名。テレビニュースで見た“ばか者”が仲間にいるとは思わなかった。
 
「こんな風に負けてたまるかっつんだッ!! もっと来いッ!! もっとだ!!」
 と、ぐんぐん進んでゆくシドと、
「お”ぉぉぉぉぉ!!」
 と、ぐんぐん後を追うカイ。
 
とうとうアールはしゃがみ込んでしまった。そんな彼女の背中を片手で支えるヴァイス。
前にいたルイは吹き飛ばされないように足を突っ張りながらアールのもとに歩み寄った。
 
「テントを出しますね!」
「出せるの?! 風で吹き飛ぶんじゃない?!」
「ペグの部分が地面に着けば固定されますから大丈夫ですよ!」
「なんてー?!」
「ペグの部分が地面に着けば固定されますから大丈夫です!」
「……ペグってなに?」
 
ルイはテントを出す紙をポケットから慎重に取り出した。飛ばされてしまわないように気をつけながら地面に置いた。問題なくテントが出現したが、風に煽られ斜めになっている。
 
「入れるの……? これ」
「さ! アールさん入ってください!」
 と、斜めに傾いているテントを支えるルイ。
「ありがとう!」
 アールが四つん這いになりながらテントに入ろうとしたとき、大きな獣がテントに向かって飛んできた。「きゃあ!」
「──?!」
 
その獣はルイに激突し、テントもろとも吹き飛ばされてしまった。
 
「ルイッ!」
「ここにいろ。私が連れ戻す」
 と、ヴァイスが飛ばされたルイの元へ急ぐ。
 
アールは一人で地面に伏せるように蹲った。少しでも風を受けないように体を小さくする。
カイとシドはどこまで行ったのだろう。飛んできた獣は生きていただろうか。もしシドが倒した獣だったら絶対に許せない。
 
「ひょほほほほほー」
 と、能天気な声が風に流れて聞こえてきた。
 
ソリに跨ったカイが平らな地面の上を滑ってくる。
 
「これちょー凄い! アールも乗るー?! って……みんなは?」
 と、アールの横で停車した。
「ルイがテントと一緒に吹き飛ばされちゃったの! 獣が飛んできたから!」
「え、マジ? シドが倒したやつじゃないかなぁ。飛んでったもん」
「バカッ!!」
「えーっ俺のせいじゃないのにー!!」
「シドはどこよ!」
「シドは絶対戻らないって言ってる! 戻るのも嫌なのに向かい風に背を向けるのは負けを認める行為だってさ!」
「飛ばされればいい! ゼフィル城まで飛ばされればいいわ!」
 

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©Kamikawa
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