voice of mind - by ルイランノキ |
助けて!!
喉が擦り切れるほどの叫び声を聞いたアールは、はっと体を震わせ、周囲を見遣った。ドクリと鼓動が鈍い音を立て、額から汗が滲み出た。
「なにこれ……」
アールの喉から掠れた声が零れる。
人が、赤黒い血を流して倒れている。まだ息がある者は血走った目で助けを求め、すぐに力尽きた。子供が駆けてくる。涙を流しながら両親に助けを求め、そのまま地面に倒れこんだ。首から流れた血が地面を這う。
「助けて……助けてください……」
背後から助けを求める声がして振り返る。足元を這いながら近づいてくるお腹の大きな女性。妊婦だった。
「お願い……たすけて……」
女はアールの足をガシリと掴んだ。
「何があったんですか?!」
アールは地面に膝をついた。
女はアールの後ろに目をやった。恐怖に怯え、這い蹲りながら逃げてゆく。
──なに……?
アールは立ち上がり、首にかけている武器を握りながら振り返った。
ここは小さな村。そこで暮らしていた住人を襲った20頭以上もいる獣がアールの前に立ちふさがった。村人の泣き叫ぶ声がこだまする。アールの心がぎゅっと握りつぶされた。
「ライズ……」
今、アールの目の前で村人を襲い、その肉を喰らっているのは狼に似た姿のハイマトス族だった。思わず“ライズ”と名前を口にしてしまう。
「ぎゃあああぁああぁぁ」
と、断末魔の声がする。
声を辿れば目を覆う光景がそこにある。母親の腹を噛み切り、胎児を取り出して喰らう。それに群がるハイエナのようなハイマトス族。
「おねぇちゃん……」
か細い声がした。一軒家の玄関前で左足を食われた幼い少年が悲しみに満ちた目を向ける。
「助けて……みんなを助けて……」
少年に覆いかぶさる獣。生肉を喰らう音が耳に残る。
アールは震える手で剣を元の大きさに戻し、握り直した。次から次へとやってくるハイマトス。乱れる呼吸を懸命に堪えようとするものの、うまくいかない。
──殺せない……ヴァイス……
「誰か……」
耳を塞ぎたくなるほどだった村人の声が、小さくなってゆく。
「助けてください……」
震えがとまらない。動けない。助けたい。助けられない。ヴァイス……ヴァイス……。
アールはヴァイスが話していたことを思い出していた。人の姿になるために人を喰らう。それがハイマトス族だと。
「おねーちゃん!!」
前方から駆けてくる少女。その後ろを四本脚で追いかけてくる2匹のハイマトス。そして少女に飛び掛った。少女が躓き、地面に倒れ込んだ瞬間に2匹のハイマトスの首が飛んだ。
ドサドサと頭を切断された胴体が地面に落下した。少女は獣が息絶えたのを確認し、アールに抱きついた。
「ありがとう……ありがとうっ!!」
まだ生き残っている村人の声が時折風に乗って聞こえて来る。
少女を安全な場所に移動させ、アールは駆け出した。剣を振るい、村人を食い殺すハイマトス族を、一匹残らず、斬り殺した。
脳裏にずっと、ヴァイスを思いながら。
Thank you... |