voice of mind - by ルイランノキ


 臥薪嘗胆16…『妖精さん』 ◆

 
絶壁だった崖の上は平らになっており、ノッカーが運んだ岩がゴロゴロと山積みになっていた。崖の上にも、待機していたノッカーが10人ほど。
 
アールたちは気球から降ろしてもらい、ルイとシドが上がってくるのを待つことにした。
それにしても、ここから先はどう進むのだろう。崖の下は柔らかそうな白い雲に覆われ、なにも見えない。崖の上は途方もなく広い。山ひとつ分ほどあるが、見える範囲ではノッカーらが運んだ岩以外なにもない。
 
「浮き島、ないね」
 と、雲の海を眺めた。
 
四方八方、どこを見てもなにもない。雲を突き抜けてそびえ立つ山々の頭が見えるくらいだ。
 
「浮き島はもっと先さ」
 と、アールたちを気球に乗せてここまで運んでくれた、妙にハンサムなノッカーが言った。
「知ってるの?」
 アールは中腰になり、訊く。
「行ったことはないが、行った奴が言うにはここからは見えない。ずっと向こうさ」
 と、どこまでも広がる雲の先を指差した。
「ここから行けるの?」
「魔女に連絡を取る必要がある。連絡先を知らないのならシルフに道をつくってもらうといい。シルフは風を操る妖精で、雲を集めて浮き島まで続く一本の橋を作ってくれる。その橋を渡っていけるのは俺達妖精だけだが、人間が歩けるように雲を固める魔法の粉がある。それを雲の橋に振りかければ忽ち人間も雲の上を歩けるようになるのさ」
「そのシルフっていう妖精は可愛いの?」
 と、カイが訊いたがアールがすぐに別の質問をかぶせた。
「そのシルフにはどうやったら会えるの? 人間のお願いなんて聞いてくれるかな」
「事情を説明するといいさ。浮き島の魔女は妖精と仲がいいからね。君達が魔女に会いに行く理由を話し、シルフが直接魔女に訊きに行く。魔女が了承すれば橋をつくってくれるさ」
 
ノッカーが説明をしているときに、後から上がってきたルイたちを乗せた気球が雲の中から顔を出した。
 
「妖精から慕われてるんだね。そのシルフはどこに?」
「呼んであげよう。ただし君達には見えないさ」
 そう言ってノッカーはポケットから一枚の葉っぱを取り出すと、口に当て、ピーと鳴らした。
 
崖の上に着地した気球からルイとシドが降りてきた。アールはノッカーから聞いた話を二人に伝えた。
 
「シルフですか」
「知ってるの?」
「姿を見たことはありませんが、魔術を習っていたときに講師がシルフを呼び出したことがありました。その姿は残念ながら人間には見えないのですが、講師が白い粉を撒くと、そこに妖精の影が見えました」
「そっか、ルイは魔術も習ってたんだね」
「ええ、魔法学校に通うものは皆さん、ある程度は」
 
そんな会話をするふたりの間を一瞬不自然な風が通り過ぎた。
 
「今のは?」
 アールがノッカーを見遣ると、ノッカーは来ましたよと言った。
「どこにいるの?」
「あなた達の目の前に。まず俺が軽く事情説明を」
 
ノッカーはシルフがいると思われる方角を見据えながら、アールたちが浮き島の魔女に用があって呼び出したことを伝えた。
 
その後、ルイがウィルという少年から浮き島について聞き、その少年から預かったお守りのことなどを話した。
シルフは浮き島にいる魔女の元へ向かい、一向はその帰りを待った。
 
「酸素が薄くて走り回る気になれないね」
 と、カイは地面に座り込んだ。
「走り回る必要もないけどね」
 と、アールも隣りに腰を下ろした。
 
ノッカーたちは気球に乗せた岩を運び続けている。
30分ほど待ち、ハンサムなノッカーがアールに歩み寄ってきた。
 
「戻ってきたようだよ」
「シルフはなんて?」
「魔女は歓迎すると言ったそうさ。これから風で雲を運び、橋をつくる」
「魔法の粉は? 私達持ってないけど……」
「魔女から預かっているそうさ」
「よかった」
「ノッカーさん」
 と、ルイはノッカーの前で膝をついた。
「ん?」
「ここまで運んでくださってありがとうございました。なにかお礼を」
「じゃあ魔女にあったら給料を上げてほしいと伝えてくれ」
「そんなことでいいのですか?」
「まぁ上がらないだろうけどさ」
「一応伝えてみます」
 
一面を覆う雲が形を変えて一本の橋になるまで、10分もかからなかった。その橋を崖の上から眺めていると、キラキラと光る粉が橋の上に落ちていくのがわかった。そして、ルイがロッドの先を雲の上に下ろしてみると、コツンと音がして固まっていることを確認した。
 
「もう渡れるそうさ」
「ありがとうございます。シルフさんにお礼を……」
「伝えておくさ」
 
ルイは一礼し、雲の橋を渡り始めた。その後をシド、アール、カイ、ヴァイスがついていく。
 


「落ちないように気をつけるんだぞ」
 と、見送るノッカーが言った。
 
「落ちないようにって言われたら余計に意識して怖くなってきた」
 そういうアールに、シドは鼻で笑う。
「車一台分通れる幅だぞ。余程のことがない限りまず落ちねぇだろ」
 
しかしそれから数分後、一行の前に巨大な翼を持った魔物が現れた。
 
「余程のことがおきましたね」
 と、ルイがロッドを構える。
「私ここで戦うのは無理だよ!」
「俺っちも!」
「カイはブーメランなんだから行けるでしょ!」
「自分のところに戻ってくるように投げるのは至難の業なのに! ここはヴァイスんでしょ!」
 
四の五の言っている間に、魔物は奇声を上げながら襲い掛かってきた。
 

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