voice of mind - by ルイランノキ


 臥薪嘗胆13…『地下へ』

 
ドカーン!と、大きな物音が洞窟内に響き渡り、砂埃が舞った。トロッコは粉々に砕け、乗っていたはずのカイとシドはそれぞれ地面に放り出されている。
 
「シド……なんでブレーキかけなかったんだよぉ……イテテテ」
 と、カイは痛む体を気遣いながら寝返りを打つように身を起こした。
 
終点にたどり着いたトロッコはそのままレールを外れて壁に激突していた。
 
「ゲホッ! ゲホッ! ……勝手に止まると思ってたんだけどな」
「バカなの?!」
 
シドは俯せに倒れていた体をむくりと起こした。
 
「けどお前、使えるじゃねーか」
 と、成長したカイの戦闘力を褒めた。
 
カイはまんざらでもない表情で辺りを見回した。ふたりで倒した吸血コウモリがゴロゴロと転がっている。その上に重なって落ちていたブーメランを拾い上げ、背中に担いだ。
 
頭上を見遣り、随分と高い場所から下ってきたなぁと思う。
 
「奥に続く道がある。トロッコ使えねぇし、行くだろ?」
「もちろん!」
 シドの後ろをついて歩くカイは不意に嫌な予感が過ぎった。
「ねぇシド」
「なんだよ」
「このまま奥に行って行き止まりだったら俺達帰れないよね」
「…………」
「出口なかったらどうすんのさ」
「その時考えればいい」
「そりゃそーだけどさぁ……ぶっ!」
 
突然シドが立ち止まったせいでカイはシドの背中にぶつかった。
 
「急に止まらないでよぉ、“カイは急に止まれない”って聞いたことなあい?」
「構えろ」
「え」
 
シドは刀を握り、前方に広がる空間の中央で寝ている魔物にじりじりと歩み寄る。
 
「やばい奴じゃん……あれでしょ、三つの頭を持ったケロ……ケロロ……」
「ケルベロス」
 
シドがその名を口にした瞬間、三つの頭のうち、一つの目が開いた。

「財宝がある証だ。先手で行くぞッ」
「えぇーっ?! 心の準備ーっ!!」
 
心の準備などする隙もなく、シドの後に続いた。
 
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アールとヴァイスは来た道を戻り、分かれ道の前でルイと合流した。ルイの肩に乗っていたスーがヴァイスの肩へと移動する。
 
「そっちにはなにかあった?」
「えぇ、アーム玉が三つほど」
「やった! こっちはなにもなかったよ……。アリアン像があっただけ。しかも鎖でぐるぐる巻き」
「そうですか……」
 と、ルイは不快な表情を見せた。
「誰からも愛されてるんだと思ってた」
 
アールたちはトロッコのレールがある場所へと戻りながら、話しを続けた。
 
「ムスタージュ組織の一味も、アリアン様を敵視していると言っても間違いないでしょうね。かつてアリアン様に敗れたシュバルツを敬慕しているのですから」
「けいぼ?」
「絶対的なものとして尊敬し、慕っている、ということです」
「悪者なのに……」
 アールは腑に落ちない様子でぼそりと呟いた。
「…………」
 ルイはそんなアールの横顔を一瞥した。
 
トロッコのレールが続いている洞窟の前まで戻ってくると、ヴァイスが微かに眉をひそめた。
 
「魔物がいるようだな」
「え、どこに?」
 と、アールは武器を握る。
「ずっと下だ」
「下?」
「もしかしたら」
 と、ルイはレールにそって歩き出す。「この洞窟は下へ続いているのかもしれません」
「下へ下へ掘ってあるってこと?」
「えぇ。トロッコが使われているくらいですから、距離はかなりあるかと」
「シドたちは地下まで下りてったのかな」
「ヴァイスさん、最初に通ったとき、魔物の気配はしましたか?」
「いや」
「ん? ヴァイスは魔物の気配を感じたの? それとも匂いを感じたの?」
 と、アールはヴァイスを見上げる。ライズのことを考えると、人間よりは嗅覚が発達していそうだ。
「匂いが先だ」
「最初に通ったときに匂いがしなかったのだとすると、静かに眠っていたのかもしれませんね。動き出したせいでその匂いがここまで流れてきた可能性があります」
「動き出したのはシドたちのせいかな」
「そう考えるのが妥当でしょう」
 
暫く歩き進め、シド達がトロッコで下って行った巨大な穴にたどり着いた。

「うわ……これ歩いて下りてくの?」
 と、アールは恐る恐る眼下を覗き込む。
「危ないですよ。連絡してみましょうか、戦闘中なら出れないかもしれませんが」
 ルイはそう言うとポケットから携帯電話を取り出した。しかし洞窟内は電波が入らない。
「ダメですね。僕は下りてみますが、アールさん達は洞窟の外で待っていますか?」
「ルイが行くなら私も行くよ」
 アールがそう口にすると、ヴァイスも小さく頷いた。
 
レールの上を歩きながら、下へと歩みを進めてゆく。足場が悪く、躓いてバランスを崩しでもしたら深い穴の下へと落ちてしまいそうだった。
 
「ヴァイスなら向こう側のレールにひょいと飛んで、また向かい側のレールにひょいと飛んで、すぐ下まで行けるんじゃない?」
「運んでもらいますか?」
「えっ! そ、そういう意味で言ったんじゃないよ! やだなぁもう!」
 あまりの慌てぶりに、ルイはくすりと笑った。
「ヴァイスさん、先に行って様子を見てきていただけますか? 魔物と戦っている最中で、苦戦しているようでしたら手を貸してあげてください」
「わかった」
 と、ヴァイスはレールから飛び降りた。
 
「シドが怒鳴りそう。『なにしに来やがったんだ! テメェの助けなんかいらねんだよ』って」
「目に浮かぶようです。足元に気をつけてくださいね」
「うん。あ……」
「はい?」
「いや、なんでもない」
 と、アールは微笑んだ。
 
ルイの後ろを歩いていると、ルイが背中に背負っているロッドが目に入る。そういえばルイはシャボン玉のような結界を使えたなぁと思い、その結界に入って一気に下まで下りれないだろうかと頭を過ぎったが、さすがに緊急事態でもないのにこんなことに魔力は使えないなと思い止まったのである。
 
「傘があったら、開いて飛び下りたらゆっくり下降しないかな?」
「…………」
「…………」
「アールさん、しんどいのでしたら待っていてくださってもいいのですよ?」
「いや、大丈夫です。冗談です」
 
中間地点まで歩いたが、ヴァイスはまだ戻って来なかった。それはなにを意味するのかわからず、少し不安になる。
 
「シーツだったら、シーツの端を両手両足に結んで飛び下りたらモモンガパラシュートみたいに着地出来ないかな」
「……アールさん」
「違うの、退屈なだけだから」
 
ちょっと疲れてきましたと、言えないアールだった。
 

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