voice of mind - by ルイランノキ |
「あああぁあああぁ!」
「うっせぇ黙れ!」
カイは進み続けるトロッコの中で頭を抱えていた。
次々と襲ってくる吸血コウモリ。シドは足を踏ん張り、刀を振るった。
トロッコはレールの上を走っているが、進行方向を前に左側は壁、右側は深い穴。地下7階ほどある深さの穴の回りを、トロッコのレールは渦を巻くように下降している。
その中央下から吸血コウモリが沸いて来るのだ。
「テメェも戦え!」
「動いてんだよ?! ブーメラン投げたあと移動してる自分の元に戻ってこれるように計算しながら投げるなんて俺には出来ない!!」
立ち止まっていれば投げたブーメランを元の位置に戻ってこさせることは出来るが、移動し続けている自分の元に戻すことは難しい。大体どのくらいのスピードでどのくらいの距離を飛ばしてどの角度で投げればいいのか考えただけで頭が痛くなった。
「計算なんかせんでいい!! 感覚で戦え!」
「感覚で……?」
カイはすくと立ち上がる。背中に背負っていたブーメランを構えた。
「俺だって計算しながら戦ってるわけじゃねんだ。感覚で覚えろ」
と、同時に2匹の吸血コウモリを薙ぎ倒した。
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「ここは倉庫ですね」
右の道を選んだルイは、すぐに行き止まりにたどり着いた。鉄材が積まれ、シートがかけられている。
「せっかくスーさんも来ていただいたのになんの収穫もなくて残念です」
しかしスーはぴょんぴょんと跳びはねながら、その鉄材の後ろに回った。
「なにかありましたか?」
ルイが覗き込むと、鉄材の後ろに宝箱が置いてあった。
「さすがスーさんですね。ありがとうございます」
スーは拍手をして、喜びを示した。
ルイは宝箱から飛び出してくる魔物を警戒してロッドを片手に宝箱を開けた。魔物はおらず、アーム玉が3つも収納されていた。
「当たりですね」
と、ルイはスーに微笑んだ。
「それにしてもなぜかデータッタが反応しないときもあるようですね」
──その頃アールたちは、更に奥へ続く道を進み、突然広闊な場所に出た。
岩肌が広範囲に広がり、所々柱のように削られずに残っている場所がある。巨大な岩もゴロゴロと置かれ、その影からなにかが飛び出してきてもおかしくはなかった。
アールとヴァイスは警戒心を強めながら足を踏み入れ、なにか面白いものはないかと目を凝らした。
「ここはなんだろうね? ただなにか掘った後なのかな?」
「それにしてはレールが続いていない」
「そうだよね」
レールはアール達が進んだ道へは繋がっていなかった。ここで何かを採掘していたのだとすると、トロッコではなく一輪車かなにかで運び出すことになる。
広闊を真っすぐに進むと、行き止まりの壁かと思いきや、更に奥に入る出入口のような場所があった。なにか大きな魔物が潜んでいるかもしれない。足音を抑え、覗き込んだ。
「……え」
アールはなにもいないことを確認し、中へ。そこは縦長のスペースで、奥には銅像が立っていた。しかしその銅像には錆びた鎖が巻き付いており、無数の太い釘が突き刺さっていた。その為、はじめはなんの銅像なのかわからなかったが、ゆっくりと歩みより、それがなにか、知ることができた。
「これって……アリアンの像じゃない?」
「そのようだな」
と、ヴァイスも見上げる。
「なんでこんな酷いこと……」
目に突き刺さっている釘が痛々しい。釘が刺してある場所からはひび割れが広がり、あと一本どこかに釘を打ち付ければボロボロに崩れてしまいそうだった。
「崇拝する者がいれば、その逆もいるということだ」
「ムスタージュ組織……彼等もなのかな。シュバルツの崇拝者は、シュバルツを封印したアリアン様を嫌っているのかな」
例え英雄になっても、世界中の誰からも愛されるとは限らない。誰もが世界平和を望んでいたとしても、その望む平和の形は皆違う。
こんな世界、一度滅びてリセットされたほうが平和だと思う人もいるかもしれない。自分だけが笑って過ごせる世界を平和と呼ぶ人もいるかもしれない。
アールはアリアンの像を見上げながら、自分と重ね合わせた。もしかしたら自分も、例え世界を救えたとしても、一部の人間から忌み嫌われることになるのかもしれない。
「宝はないようだな」
と、ヴァイスが引き返す。
アールもアリアン像の痛ましい姿を目に焼き付け、その場を後にした。
Thank you... |