voice of mind - by ルイランノキ |
「断崖絶壁だな……」
と、シドは目の前にそびえ立つ崖を見上げた。
「ノームさん、ありがとうございました。本当にキャベツ一玉でよろしかったのでしょうか」
「キャベツでいい。最近値上がりしてなかなか手が出せなかった」
と、キャベツを抱き抱える小さなノームはどこか可愛く見える。
「これもやろう」
と、元の姿に戻ったヴァイスは、巾着袋を渡した。
「なんだい?」
「グリフォンがいた付近に赤い実がなっていた」
「おぉ!」
ノームは一度キャベツを下に置き、巾着袋の中を確かめた。「素晴らしい!」
「気が利きますね」
と、ルイ。
「ねぇアールん」
「ん?」
「ヴァイスんが元の姿に戻った瞬間、見た?」
「見てない」
「俺も」
「穴から出て来たときにはヴァイスだったもん」
「うん。期待して損した。期待損」
「服も着てるし」
「裸だったらよかった? アールやらしぃー」
「そういう意味じゃないったら!」
と、アールはカイの腕を叩く。
「それじゃ、気をつけて行けよ?」
と、ノームはキャベツと赤い実を持って地中に帰って行った。
「それにしても」
と、ルイは見上げる。「雲の上までありそうな崖ですね」
一同は崖の上を見上げた。ルイの言った通り、崖の頂上は雲か霧に覆われて見えない。
「ここからどうすんだよ。浮き島ってことは上にあんだろ? 崖を上るかしねぇと近づくことも出来ねんじゃねーのか?」
「そうですね……ですがさすがにこの崖を上るのは難しいでしょう。とりあえず崖にそって歩きましょう。なにか上へ行く手がかりがあるかもしれません」
ルイは地図を広げた。
崖にそって歩きながら、途方に暮れる。ノームはこの先の行き方を知らなかった。
すっかり辺りが暗くなり、これ以上の探索は不可能と考え、今日はもうテントで休むことにした。崖の前にテントを張る。テントの後ろは断崖絶壁の崖で、前は森が広がっている。崖の森の間はスペースがあり、通路のようになっているが、テントを張ったことで道を塞ぐ形になった。
「誰か来たら邪魔だよね」
夕飯を食べ終え、外で歯を磨くアールとカイ。
「誰も来ないっしょー。それより寝てる間に崖の上から岩が落ちてきたら怖いよぉ」
「テントは丈夫じゃないの?」
「さすがに巨大岩は支えられないんじゃないかなぁ」
「…………」
「……怖いねぇ」
「うん、超コワイ」
一度不安になると、その不安を取り除くのは難しい。アールは時折崖の上空を見遣った。地震が起きたら終わりだなと思う。
「念のため結界でテントを覆いますから、安心して休まれてください」
と、ルイも歯ブラシセットを持ってテントから出て来た。
「結界ってどのくらいまでの衝撃に耐えられるの?」
「強度は魔導士の力次第です」
と、見上げる。「きっと大丈夫でしょう。結界を壊すほどの巨大ななにかが落ちてくる確率は低いでしょうから」
「…………」
確率というものは当てにならないのだけど。
アールの不安は消えることはなかった。
━━━━━━━━━━━
翌日の天候は晴れ晴れとしており、爽やかな風が吹いていた。崖と木々の間から見える真っ白い雲が少しずつ形を変えながら流れてゆく。
ふいに何か森の奥から空へと上がって行くのが見えた。それはゆっくりと崖の方へ近づいてゆく。
「…………」
アールは口を半開きにし、眺めていた。
「アホ面になってんぞ」
と、テントから出て来たシド。「何を見てんだ?」
「え? あ、気球……かな?」
「……気球だな」
と、シドも視界に捉えた。
一行は朝食を食べ終えてから、気球が上がった方角へ歩み進めてみることにした。森に入る細道を見つけた先に、崖の中へ入る洞窟があった。
「面白そうだな」
と、シドが洞窟へ向かう。
「先を急がないと」
と、珍しくアールがシドを引き止めた。
「少しくらいいいだろ」
「そうだよ! お宝あるかもしんないじゃん!」
と、カイもシドの後をついて行く。
「シドって自分には甘いのか厳しいのかわかんないときある」
アールはそう呟きながら、仕方なく自分も洞窟へ向かう。
「仕方ありませんね。少し立ち寄りましょう。カイさんが言うように、洞窟には宝箱が置いてあることが多いですから、探索する価値はあるかと」
洞窟に足を踏み入れると、錆び付いたレールが敷かれており、木箱のようなトロッコがあった。カイは目を輝かせて乗り込む。
「鉱山ですね。なにか採掘されていたのでしょう。長らく使われた形跡はありませんが」
「みんなも乗ろうよ!」
「動くのか?」
と、シドは乗らずにレバーを引いた。
カイが乗ったトロッコがカタンカタンと動き始める。
「お、動くな」
と、シドが飛び乗った。
「アールもおいでよー!」
「私はいいよ、いってらっしゃい」
と、笑顔で手を振った。
内心、乗ってみたいと思っていたが、魔物が出そうな場所だ。トロッコに乗っている時に襲われたら危険だと思い、安全第一に考えた。
洞窟は直ぐに二手に分かれており、レールも両方へ伸びている。
「カイたちどっち行ったんだろ?」
と、アールが言った矢先に右側の奥からカイの悲鳴が聞こえてきた。
「右へ行かれたようですね」
「うん。じゃあ私たちは左の道行ってみよう」
アールは首にかけていた武器を元の大きさに戻し、鞘から引き抜いた。
左の道を抜けると、木材が山積みにされた場所があった。そこから更に分かれ道がある。
「僕は右へ。アールさんとヴァイスさんは左の探索をお願いします」
と、ルイは右の道へ向かった。
「スーちゃん、ルイと一緒に行って?」
アールがスーに呼び掛けると、スーはヴァイスの肩から飛び降りて、ルイの後を追った。
Thank you... |