voice of mind - by ルイランノキ


 臥薪嘗胆10…『ヴァイスのひみつ』

 
「やーめーてーあーげーてーっ!!」
 と、アールはシドの背中にしがみつき、後ろに引っ張った。
 
シドはヴァイスが運んできたバケツの水を躊躇なくノームが入っていった場所から流し入れた。
 
「シドさん!! 殺す気ですか?!」
 と、ルイもバケツを取り上げて阻止した。
「残りの10%は中で溺れ死んだ場合だ」
「ふざけるなーっ!!」
 と、地中から飛び出してきたのはびしょ濡れのノームだった。
「ほれみろ。出て来た」
 平然とそう言ったシドのスネを、小さなノームはおもいっきり蹴り上げた。
「イテッ!」
「中には家族もいるんだぞ! 居間がびしょ濡れだ!」
「すみませんノームさん……」
 と、ルイはノームの前で正座をした。「どうしてもトゲトゲの森を抜けなくてはいけないのです」
「教えねぇなら今度は火炙りにしてやる」
「全く……無茶苦茶だなあんたらは! ちょっとおとなしく待っておれ!」
 
ノームはそう言って再び塒(ねぐら)の中へ戻って行った。
 
「この下ってどうなってるんだろ。居間って言ってたけどちゃぶ台とかあるのかな」
 と、アール。
「アリの巣みたいになってると思う!」
 と、カイ。
「アリの巣って、どんどん縦に潜ってるよね。梯子かなんかないと無理じゃない?」
「きっとあるんだよ梯子が」
「うーん」
 
想像出来ない。
ノームが塒に戻ってから15分が経過し、ようやく地中からモグラのようにノームが顔を出した。
 
「遅くなった。さ、入れ」
「えぇ?!」
「入口は狭いが中は広くしておいた。トゲトゲの森の下を通って抜ける道がある。中腰になればお前たちでも十分行ける」
「わくわくするー!」
 と、カイが真っ先に穴の中へ。
 
「そういえばヴァイス、お疲れさま」
 と、水を運んできたヴァイスに声をかけるアール。
「……あぁ」
「スーちゃんもね」
 
カイに続いて、シドも後を追うように地中へ足を踏み入れた。
 
「アールさん、お先にどうぞ」
「あ、はーい」
 穴に近づいて下を覗き込むと、中は松明の明かりで燈された洞窟になっているのがわかった。
「お気をつけて」
「うん」
 
アールも地中の中へ潜った。
 
カイが想像したアリの巣とは違い、道は横に伸びている。その両端に木のドアがあり、部屋になっているようだ。
 
「凄い。普通に住めるね、ちょっと狭いけど」
「お前なら余裕だろ」
 と、アールの前を歩くシド。
「そこまで小さくないから」
 
高さは低いが、横幅はある。ノームはアールたちを見遣り、忠告した。
 
「これからトゲトゲの森の下を通っていくが、抜けるのに約2時間」
「げぇ?! 中腰のまま2時間も歩くのかよ」
 と、シドはうんざりした。
「一番きついのは一番背の高いヴァイスだと思……うよ? あれ?」
 
アールは一番後ろにいるはずのヴァイスに目を向けたが、そこにいたのは一回り大きな狼だった。
 
「…………」
 一同は無言で狼を見遣る。
「ヴァ……」
「…………」
「えっと、“ライズ”だよね」
「…………」
「いろいろとつっこみたいんだけど」
「まぁまずテメェだけ卑怯だな」
 と、シド。
「自由自在に変身できたんだねぇ」
 と、カイ。「なんで今まで黙ってたのさ」
「出来れば戦いの最中とか、見せ場のときに変身したほうが、何て言うかこう……驚きと感動とかっこよさみたいなものがあったんじゃないかな……?」
 と、アール。
「ヴァイスさんの着ていた服はどこへ消えたのでしょうか」
 と、ルイ。
 
ルイに一同の視線が集中する。──いや、まぁ確かにそれ一番気になるとこだけど。という顔をして。
 
「スーちんは気にしないみたいだね」
 カイはそう言って、ライズと化したヴァイスの頭に乗っているスーを見遣る。
「魔物付きとは珍しい」
 と、ノームは言った。
「魔物付き?」
「自身の中に魔物を飼っている人間のことさ」
「ヴァイスは……魔物付きってわけじゃないよね」
「そしたらなんだ?」
「うーん……」
「とにかく2時間もかかるなら早いとこ行こうぜ」
 と、シドが先頭にいるカイを押し退けて歩きだす。
「ノームさん、ここは魔物が出ますか?」
 ルイは周囲を気にし、言った。
「いや、出ない。侵入させないようにしているからな」
「それならよかったです」
「侵入してんじゃねーか2匹」
 と、シド。
「どこだ?!」
 と、ノームは慌ただしく辺りを見回した。
「一番後ろな」
「なに?! ──おらんぞ?」
「すみませんノームさん、おそらくヴァイスさんとスーさんのことかと。彼の言うことは真に受けなくて大丈夫です」
「まったく! 親切に道を通してやっとるというのに驚かしたりからかったりと失礼な人間だ」
 
ルイは地中を歩き進めながら、なにかお礼は出来ないかと考えていた。失礼なことをした挙げ句、助けてもらっているのだから。
 
「ノームさん、なにか必要なものはありませんか。大したものは持っていませんが、なにかお礼に差し上げられるものがあれば……」
「必要なものか」
 ノームはアールの隣を歩きながら考えた。
 
道はいくつか枝分かれしていたが、暫くすると一本道になっていた。
 
「ルイは食料を持ってて、カイはおもちゃ、シドは筋トレグッズ、私は……なんだろ。化粧品」
「狼は?」
「ヴァイスは……わかんない。なにか持ってる?」
 と振り返るが、ヴァイスは黙ったまま首を振った。
「これといってなにもないみたい」
「僕は掃除道具なども揃えていますよ」
「俺おもちゃ持ってるけどあげられるものはひとつもないよ」
「うそつけボケ。ガラクタばっかじゃねーか」
「筋トレグッズはどんなのがあるんだ?」
 と、ノームは興味を示す。
「お前が使えそうなのはねぇよ。化粧品でも貰っておけ」
「奥さんとかいるの?」
 と、アール。
「化粧など必要ないくらい美人の妻ならおる」
「あらま、素敵っ」
「厭味だと気づかないバカがいるな」
「え、厭味だったの?」
「いいや、あんたも美人さんだ」
「わぁ嬉しい!」
「つーことはノームの妻は大して美人じゃねぇってことだな」
「ヴァイス、シドに噛み付いて」
「……いいのか?」
「ダメですよ!」
 と、ルイが止めに入る。
 

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©Kamikawa
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