voice of mind - by ルイランノキ


 臥薪嘗胆8…『ノームさがし』

 
ストーンサークルに近づくにつれて、新たな魔物が姿を現した。
犬を人型に進化させたようなコボルトという魔物である。二本足で立ち、厄介なのは人間が落としたと思われる武器を持って現れることだ。時に斧、時に錆び付いた刀など様々で、その扱い方も雑なせいで動きが読みづらい。
 
何度目かに現れたコボルトはカイを標的に捉えると、持っていた短剣を突き刺すように投げてきた。
 
「うわぁっ?!」
 カイは咄嗟にブーメランを楯として使い、難を逃れた。
 
シドがコボルトを目掛けて刀を振る。コボルトは二本足で飛び上がり、シドの背後に着地して鈎爪を立てた。シドは姿勢を低め、振り向きざまに刀を払った。刀の刃はコボルトの足を斬りつけ、動きを鈍らせた。そこですかさずアールが留めをさした。
 
「おい……」
「ん?」
 アールは武器を腰の鞘に戻す。
「お前最近、人の獲物を横取りして留めを刺してばっかだな」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。クロエ……じゃなかった。剣が重くなってから、振り回しづらくなって」
「だからっていいとこ取りすんじゃねーよ。慣れたいんなら腕の筋肉鍛えろ」
「……はあい。」
 
アールは鞘から剣を抜いて歩いた。重さに慣れるには使いまくるに限る。
──と、勢いづくも、昼が過ぎた頃には使い過ぎで腕を痛めてしまった。
 
「いたたたたた……」
「無理しすぎましたね」
 ルイはアールの右腕を後ろへググッと引っ張っり、軽くほぐしてやった。
 
切り株の上に腰掛けているアール。周囲にはのこぎりで切られた切り株が、他にも点々とある。
 
「だれかが伐ったのかな」
「ハクの木ですね。ハクの木は他の木に比べてとても丈夫なんですよ。誰かが見つけて伐り倒したのでしょう。板にして売るだけでもかなりの額になりますから」
「そ、そうなの?!」
 と、アールは立ち上がる。「高いの? これ……」
「切り株も高値で売れると思いますよ」
 
その辺をうろついていたシドが歩み寄ってきた。
 
「城の中で使われてる木製の家具は大概ハクの木で作られてると思えば価値がわかるだろ」
「えぇっ、超高いじゃん!」
「えぇ、ちょう高価な木です」
 と、ルイは笑った。
 
昼食用のおにぎりを食べて一休み。
20分ほどの休憩を終えて一行は再び地図にそって歩き始めた。
次第に日が暮れはじめた頃、分かれ道に出くわした。分かれ道といっても右へ向かう道は細く、本道から外れている。しかし一同はその道の先にあるものを眺めずにはいられなかった。
 
「行き止まりだねぇ」
 と、カイ。
「行き止まり……なのかなぁ」
 と、アール。
 
細い道の先は、鋭い棘の蔦が絡まり合い、壁のように道を塞いでいた。
 
「この先がトゲトゲの森なのでしょう。確かにこれでは通れませんね」
 と、ルイはレプラコーンから聞かされた情報を思い出した。
「ぶった斬れば行けるだろ」
 と、シドは刀を抜く。
 
よくみれば複雑に絡み合った蔦の下の地面からも棘が上に向かって生えている。一番大きな棘は人の体に大きな穴を空けて貫くほど太く、その太い一本の棘に無数の小さな棘が生えている。近くの木々にも棘の蔦が巻き付いて上れそうにない。
 
シドは刀を左下から右上へと振るった。蔦は思った以上に硬く、蔦の半分ほど切り込みが入ったあと、軽さもあって上に持ち上がってしまった。更に厄介なのは、ツンと鼻の奥を刺激する異臭が蔦から出た液体から漂ってきたことだ。
 
「うわっ……なんかヤバいよ!」
 カイがそう言って袖で鼻と口を覆った。
「毒性がありそうですね。やはり通り抜けるのは無理のようです。これがどこまで続いているのかわかりませんし」
 
シドは苛立ちながら、刀を仕舞った。
ストーンサークルを目指して左の本道を行く。道が狭いと戦闘が厄介だった。突然森の草むらから魔物が飛び出してくるため、常に警戒心を向けておく必要がある。また、固まっていると敵との距離をとるときにぶつかってしまうため、一同はそれぞれ距離を空けて歩いた。
 
ストーンサークルがある開けた場所に辿り着いたのは、1時間ほどした頃だった。
見上げるほど大きな楕円の岩が、円を描くように立っている。ただそれだけの、殺風景な場所だった。
 
「ノームってどこにいるんだろ?」
 
アールは周囲を見回した。100m四方の平地が広がり、その周囲は森で囲まれている。風が木々を揺らす音が涼しげに聞こえてくる。
 
「おそらく、地下かと」
 と、ルイは足元を見遣った。
「入口は?」
 一同は地面に視線を落とした。
「ノームは静かな場所を好みますから、そう簡単には見つけられないようにしているのかもしれません」
「おーい!」
 と、カイが叫んでみる。「ノームさーん! 出ておいでー!」
 
しかし何者かが現れる気配はない。
 
「こんなんじゃ出て来ないかぁ。聞こえないとか?」
「静かな場所を好むんだろ?」
 と、シド。「カイ、テープレコーダー持ってたろ」
 
ホワイトメイズでカイを見つけることが出来たのはそのテープレコーダーによる爆音のおかげだった。
 
「全員で叫んでりゃそのうち嫌になって出て来るだろ」
「なんか楽しそう!」
 と、アールが目を輝かせた。
 
ストーンサークルのど真ん中にカイのテープレコーダーを起き、音量を最大にしてカイの歌声が響いた。そして一人を残して全員で足踏みや跳びはねながら、ノームの名前を叫び続けた。
 
「ノームさーん出っておーいでー!」
「ノームさーん!」
「出て来い! さっさと出て来い!」
「ノームさぁーん!」
 
ヴァイスだけは腕を組み、静かに見守っていた。ヴァイスの肩に乗っていたスーは、ぴょんと地面に飛び下りて、柔らかい体を一同と一緒に弾ませた。
 
騒ぎは1時間以上も続いた。夜が更けはじめ、喉の痛みと疲労が限界を超えようとしていた頃に漸く変化があった。ボコッと地面の一部が盛り上がったのである。しかしそれに気づかない一同は、くたくたになりながら足踏みをし続けた。
 
「ノームさぁーん……ノームぅ……」
 

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©Kamikawa
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