voice of mind - by ルイランノキ


 臥薪嘗胆7…『なかま』

 
  * * * * *
 
森の中を駆け抜ける。
武器が重くて持って走るのが鬱陶しい。
 
アールの背中を狙っているのは4メートルはある巨体のゴブリンだった。
 
「あーもう……戦うしかないっ」
 
足を止め、振り返る。ゴブリンが巨大なハンマーを振り上げていた。
 
──潰される?!
 
攻撃を仕掛けるよりも回避を優先し、左の草むらに飛び込んだ。
その直後、ゴブリンの巨体が不自然に揺れ、そのまま前へと倒れた。倒れたゴブリンの背中には、深い斬り傷が肩から腰にかけて斜めに入っていた。
 
「シド……?」
 
草むらから起き上がると、ゴブリンを一撃で倒した男に手を差し延べられた。
 
「なんだ、タケルだったの」
「なんだとはなんだよぉ、シドのほうがよかった?」
「そんなわけないでしょ? ありがとね」
 アールは服についた汚れを叩いて落とした。
「この辺は大きい魔物が沢山出るから、気をつけないとね」
「うん、そだね。みんなは?」
「後から来るってさ」
「そっか。じゃあちょっと待つ?」
「近くに休息所があるはずだよ、行こう」
 
タケルはアールの手を引いた。
暫く歩き進め、休息所を見つけた。
 
「アールはさ、何県に住んでたの?」
「私は大分県だよ、田舎の」
「へぇ、確か温泉が有名な……」
「そうそう。タケルは?」
「俺は東京」
「都会じゃん! いいなぁ」
「そうかな、俺にとってはあんまり、居心地がいい場所ではなかったよ」
 
聖なる泉の縁に座り、仲間が合流するのを待った。
 
「スカイツリー、建設中だっけ」
「うん」
「東京タワーは? やっぱり上った?」
「一度だけ。一回行けば充分だよ、あそこは」
「そうなんだ?」
 
「アールはさ、好きなアーティストとかいた?」
「陽月!」
「あー、流行ってたね! 声がすっごく綺麗で」
「そう! 私何回か聴いて好きになる曲は沢山あったけど、はじめて聴いて泣いて好きになったのは陽月の曲がはじめてだったの。綺麗な声なんだけど、どこか寂しそうで」
「わかるよ、女性に絶大な人気だったね」
「タケルは?」
「俺はロック系の曲が多かったかな。ラルクとか……あ、ちょっと待って。今聴かせてあげる」
 
タケルはポケットから、携帯電話を取り出した。
 
「それって私たちの世界のケータイ?」
「そう。アールも持ってる?」
「持ってる!」
「じゃあ後で見せてよ、俺あんまり見せられるもの入ってなくてさ。友達とかいなかったから、写メも少なくて」
「そっか……でも私もそんなに沢山はないよ?」
「そのかわり沢山曲は入ってるんだ。アール知ってるかなぁ、じゃあ流すね」
「うん!」
 
  * * * * *
 
翌朝、アールは寝ぼけ眼でテントの外に出た。
外に出されたテーブルに、ルイ、シド、ヴァイス、タケルが座っている。
 
「え……」
 
思わず目を見開くと、タケルではなくカイだった。夢でタケルを見たせいと、カイはいつも自分より遅く起きるので居るはずがないという先入観から幻覚を見てしまったようだ。
 
「アールさん、おはようございます。朝食出来てますよ」
 
テーブルに野菜中心の朝食が並ぶ。
 
「おはよ」
 開いている席に座り、隣のカイを見た。座ったまま寝ている。
「起きるの早いなと思ったら寝てる……」
「カイさんはさっき突然飛び起きたんですよ、シドさんが寝ているカイさんの顔にコーヒーをこぼして」
「よろめいたんだよ。ガラクタ踏んで」
 と、シド。カイが寝る前に遊んでいたけん玉を踏んでしまったらしい。
「なるほど、だから少し顔が赤いんだね」
 ホットコーヒーだったらしい。
 
順調に進めば今日の夕方頃にはストーンサークルにたどり着く計算だ。
朝食を食べ終えたアールは、皿洗いの手伝いをしながら、目覚めたときから気になっていたことをルイに訊くことにした。少し気を遣いながら。
 
「あのさ、ルイ」
 食器をバケツに汲んだ水につける。
「はい」
 ルイはスポンジに洗剤をつけてその食器から汚れを落とした。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「…………」
 ルイは手を止めた。「なんです?」
「あの……タケルのことなんだけど」
 
なるほど、とルイは思った。訊きづらそうにしていたから、何を訊かれるのかと思い、つい身構えていた。
 
「タケルさんが、どうかしましたか?」
 なるべくアールが訊きやすいように、ルイは皿洗いを再開しながらそう訊いた。
「タケルの荷物とかって……どこにあるの?」
 
ルイの手がピタリと止まった。
 
「あ、ごめん、変なこと訊いちゃったね! えっと、スポンジもう一個ある?」
「あ、いえ、違いますよ。どこだったかなと思い出していたのです」
 と、至って平然としているルイ。
「え……あるの? 私物……」
「えぇ。確か宮殿の方に」
「宮殿?」
「城の中にある宮殿です。そこに……タケルさんの墓碑があるのです。タケルさんが眠っている棺の下に鍵付きの抽斗があって、そこに納められているはずですよ」
「ちゅ……ちゅうとってなに?」
「引き出しです」
「あぁ、なるほど。そうなんだ……」
 
頷きながらも、更なる疑問が沸いて来る。──タケルが眠っている棺? タケルの遺体って……?
 
「彼の頭の骨が少し……残っていましたので」
 と、ルイが呟くようにそう付け足した。
「あ……うん」
 そっか、そうなんだね。アールはこれ以上は訊かないでおこうと思った。
 

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©Kamikawa
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